第52話 解放と積忿

「俺は海原かいばら 敏樹はるき!衛術協会、新序列二位だ!!」

海原はそう叫んだ。

「新序列二位…?」

序列二位ということは、あのクライストより上?しかし、この男にそれほどの力は感じなかった。経験からくる余裕のようなものを、こいつからは感じえない。

「か、海原さん!どうやってここに入って…!」

若槻は叫ぶ。太陽坂のメンバーも、みな怯えているように見えた。

「この会社の職員なんぞ、俺の敵じゃねェ!言っただろう、俺が太陽坂の護衛をするんだ!!そこのクソ野郎にはさせてやるもんか!」

クソ野郎と言われた。だが、そんなことはどうでもよかった。

「新条様…この男は、我々が新条様にお願いするより前に、自ら志願してきた者です!危険人物と判断して、即刻拒否した、元々衛術協会序列四位の男です。」

「序列がなんであがったんですか?」

「新条様はご存知ないのですか…?ま、まぁ、知る必要もないのかもしれなかったですからね…。」

「おいィ!俺の話をきけ!!」

海原が叫んでくる。だが、お構いなしに若槻は説明を始めた。

「現在、衛術協会の序列一位は行方不明、そして二位三位だった方は昇進して、衛術協会の取締役会所属となりました。一位はそのままで、四位以降はくりあげられて、この男は二位になったというわけです…!」

「そんなことが…。」

全く知らなかった。ニュースなどたまにしか見ないからだろう。

「そうだ!一位の野郎はもう、恐らくこの世にはいねェ!俺は今、衛術協会の一番の戦力なんだ!!俺こそが、太陽坂を守るのにふさわしい!!俺は最強だ!俺なら何もかも守れる!!」

「…口だけならなんとでもいえるぞ。」

…海原の言葉で、何かを思いだしそうになった。

「チッ!お前には言われたくねぇ!!白状しやがれ!てめェの能力はすべて、カラクリがある!」

海原は叫ぶ。

「カラクリだと?」

「そうだ!お前のその並外れた身体能力は、軍の筋肉増強剤、若しくは専用魔法かなんかだろう!俺はずっと気になっていた、全日本高校魔法剣技大会において、あのクライストを下した時、悪魔化した野郎と互角以上に渡り合ったとき、お前の身体能力は、完全に人間の限界を超えていた。あんな動きは、どんな身体能力強化魔法を使ってもできねぇ!…だが、あの会見で漸く結論がついたんだ。」

「あの雷だってそうだ!!軍の兵器かなんかで、雷を作り出してるだけだろ!証拠に、お前は雷魔法を使うとき、魔法陣が出ていない!魔法陣を使わずに、魔法を使える奴など、この世界に存在するわけがない!!」

確かに、海原の思考過程は意外とちゃんとしていた。もちろんカラクリなんかはないが、俺が気になっていたのはさらに前の言葉だった。

「…言い分はわかった。だが、本当にお前に人が守れるのか?根拠を言ってみろ。」

「根拠なんて、俺が最強である以外に理由はねェ!!俺の力さえあれば、太陽坂なんて余裕で守れるんだよ!」

こいつは、俺の逆鱗にこれでもかというほど触れてくる。俺が引き出してしまったものではあるのだが、予想の上を、こいつは触れてくる。

「…。」

「それに、お前のような野郎には、何もかも守れねェよ!!」

ーー時が止まる。無論、止まっているのは俺だけだった。

「なんか言いやが…」

海原が言葉を言い放ちかけたその時、

「そんなこと、俺が一番わかっている!!!」

思わず俺は叫んでしまった。

、、こいつは、昔の俺に酷似している。何もかも、力さえあれば守れると思っていた、あの頃の醜い自分を思い出す。

力に固執した者の行く末は……明確なる『破滅』だ。

…虫唾が走る。過去の俺にも、目の前のこいつにも。俺でも感じたことがないほどの深層心理からくる激しい憤怒に、内心驚くほどだった。


ーーと。その瞬間。俺の中にある封印の枷が一つ弾けとんだ。

俺の周囲に幾何学文様が浮かび上がる


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第四の枷が外れる条件は、「過去の自分への際限のない怒り」。

それが今、解放条件を満たした。

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思えば、この世界に来てから、俺は過去を受け入れていたが故に、過去の自分さえも許容していた。良くも悪くも、初めて怒りを感じたというわけか。

「な、なんだ、これは…」

海原をはじめ、この部屋の中にいる人間全員が慄いている。

幾何学文様は消えた。俺は話始める。

「そんなに言うなら、かかって来いよ。近くに、軍の専用施設がある。つまり、本気で相手をしてやる。」

「…い、いいぜ!!てめェのカラクリ、俺が崩してやろうか!」

俺は、何倍にも膨れ上がった、その力の一部・・を開放した。




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