第50話 過去の重み
ここは東京某所にある全軍本部。
俺は、ちょうど東京で行われていた全軍理事会の会議に参加した。
この会議の議長二人のうち一人目は現イギリス王室プロンタライト朝直系の血族であるグラント=プロンタライト(35歳)。彼の兄は、いわずもがなのイギリス国王だ。
もう一人の議長は、我がVDS隊長の一橋和徳。実は和徳は、あの徳川家の血を引く一橋家の本家である。
俺は事の経緯を説明した。
「・・・ということがあったのだが、どうすべきか、一応意見を聞いておきたい。」
俺はそう言う。
「そうだな。これはいわゆるチャンスっていうやつなのかもしれない。お前を広告頭にして、全軍の力を誇示することは決まっていたが、肝心のその術がなかった。とは言え、急ぐ必要性も特にないからな。まぁ、最終決定権は輝に任せる。」
「Do think that I will be fine. The U.K. becomes for my existence somehow, but a person of Japan is wrong so well. Probably, for a crisis of the human extinction to come, there is the need to be solid with the nation. It is impossible that an important main organization is not trusted.(私もそれでいいと思うな。イギリスの方は、私の存在でどうにかなるが、日本の方はそううまくはいけない。おそらく訪れる、人類滅亡の危機に備えて、国民共々一致団結する必要性がある。肝心の主力組織が信頼されてないのはありえないからな。)」
そう和徳とグラントは応えた。
「いや、グラントさん。翻訳魔法使ってるのに、わざわざ魔法相殺して英語でしゃべるなよ・・。」
俺はツッコミをいれずにはいられなかった。
翻訳魔法の存在によって、いわゆる通訳という職の有用性はなくなってしまった。だが、そういう人たちに対する救済措置として、翻訳魔法(大魔法級)の訓練が行われ、いまや通訳は翻訳魔法師となっている。
もちろんこの会議室にも翻訳魔法が適用されているが、このグラントは自分の凄まじい魔法力でそれを打ち消し、わざと英語でしゃべった。この人は割とフランクで、こういうことをよくやるのだ。
「わかった。俺が決める。だが、少しだけ考える時間が欲しい。決まったらおいおい伝えるから。」
「了解だ。」
その会話の後、俺はもう戻れなくなった自分の家ではなく、軍施設内の自室に籠った。
備え付けのベットに横たわって思索にふける。
そこから1時間もの間考えに考えた。
思考というのは、しすぎると深い沼にはまり、永遠にループすることを俺は知っているが、ループしてでも考える余地があった。
やはり、抵抗はぬぐい切れない。
失って、失って。それでも前へ進むと、あの時決めた。
誰かを守るというのは並大抵のことじゃない。この世界の護衛は、直接戦闘して守ったという事例はなく、いわば抑止力的な存在となっているが、俺にはそんな事実はどうでもよかった。
人を守ることの難しさを、俺はこの世で一番知っている。
―――俺は異世界から帰還した後、つまりは三年前、同時に表出した魔法を用いて横行する犯罪を阻止することを一人でやっていた。完全な自己満足だ。何かを失ったわけではないはずなのに、ぽっかりと空いていた胸の穴を塞ぐかの如く、犯罪を抑止した。そこには善も悪もなかった。
そんなことを続けている内、裏で俺の存在が広まってしまったらしく、その時初めてVDS結成前の和徳たちに出会った。
そこから紆余曲折あり和徳たちと部隊を組んだが、それも自己満足をしたかったから、セルジアをはじめとした人々に贖罪をしたかったから、だが一番は、まるで記憶が抜け落ちたように空いた、言いようのない心の穴を埋めたかったから…。
民間人を守る立場に就いたが、決して深入りはしないように気をつけていた。
深入りしすぎるとまた失ってしまう、そう感じていたからだ。
そんなことを考えているとき、脳内に記憶がよみがえってきた。
はじめて異世界で仲間を助けたときのあの喜び、王国を救った喜び、たくさんの感情がよみがえってくる。
「ありがとう!!」
翻訳魔法によって翻訳された感謝の言葉をかけられたのも思い出した。
…っ!
唐突に頭が痛む。
考えすぎたということだろうか、俺にも不明な痛みだった。
…、そうだな。決めた。
護衛に就こう。これは完全な自己満足だが、人生なんていつもそんなものだ。
俺の記憶の中の人たちが、それを望んでいるような、そんな気がする。
…俺は、前を向いて進む。確か、そんなことをずっと心に抱いていたはずだ。
過去を背負って、それでも俺は生きていくんだ。
その後すぐさま、若槻の名刺にかかれた連絡先に連絡し、俺の太陽坂護衛就任は決まった
。
俺はこの選択が、大きな物語の序章にすぎないことを、まだ知らなかった。
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