第49話 人を守るということ

この世界には、護衛と言う役職がある。

護衛とは、主に芸能人や政府の重役など表立ってメディアに出演する、かつ自衛能力が乏しい人を守る職業だ。

魔法が現れるまでこのような職業はなかったが、とある事件によって作られることになった。

その事件とは、俗にいう世田谷区アイドル暴行未遂事件のことである。

狂信的なファンが、アイドルをストーキングし、魔法で脅して暴行をしようとした事件だ。

この事件は、近くの魔法探知装置に反応を確認し、現場に急行した警察庁の魔法特殊部隊員が止めに入ることで解決したが、その後に模倣犯が続出した。

幸いなことに死者はでなかったが、このままでは安全性に憂慮がみられるということで新しく『護衛』というものがつくられたらしい。


「はい。実はですね、新条様には護衛の件でお願いしたいことがありまして。」

若槻はそう答えた。

護衛、か。そういえば日英全軍が日本の主要防衛機関へと返り咲いたことで、元々衛術協会、または警察庁魔法特殊部隊のなかから選ばれるはずだった護衛の選択肢の中に、俺たち全軍も入ることになった。

それは和徳から聞いたから知っている。

「実は、元々太陽坂の護衛だった衛術協会の方が数か月前、定年で退職してしまっているんですよ。ここ数ヶ月の間、太陽坂には護衛はいない状況でした。ですので、我々運営委員会が独自に雇っていた方にお願いしていたのですが、やはり心もとないという結論となりました。新条様は、日英全軍の最高組織の副隊長、そして特務大将ということもあり、我々も本当に頼んでよいものか迷いました。しかし、先日の東京事変でも九條様と共に守ってくださいましたから、そのお礼もしたい気持ちがありますし、新条様も元々太陽坂のファンだときいております。ですから、護衛と言う定位置に就いていただくことで、そのご恩を返しやすくなりますし、メンバーも安心、それに新条様もファンとして太陽坂の面々が危険にさらされるのは心配になるのではないでしょうか。どうか、太陽坂の護衛に就任していただけないでしょうか。」

若槻は真摯な目つきで俺にそう言った。

・・・これから、日本全軍としての仕事はかなり増えるだろう。国防のために国境の島、問題が取り沙汰されている諸島などを守らないといけないという公務も追加される。

だが、そこは護衛に就任するかどうかの選択肢には影響しない。

俺は、心配なのだ。新しく大切なモノが増えてしまうのではないか、そして、それをまた失ってしまうのではないのか、と。

元々俺はこの世界で大切なモノなんて作る気はなかった。VDSなんて集団に入る気もなかったし、そこでVDSのメンバーのことを大切だと思うことも予想ができなかった。

だが、現実ではそうはいかなかった。数少ない大切なモノなら、まだ守り切れる。

しかし、それが増えた場合は・・。

この前太陽坂を守ったのは義理半分、感情半分だ。大切だから守ったとかではなく、守るべきだと思ったから守った。ただそれだけだ。

太陽坂を大切だと思わなければいい話なのだが、これから長い間彼女たちを守るとしたら、俺にそれができるのだろうか。

とはいえ、そもそも俺一人で決めるわけにはいかない。

全軍理事会等に報告しなければいけないからな。

「・・・。考えておきます。」

俺はそれだけ告げて、会社を去った。

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