第32話 新条 輝の正体
「な、なんだこれは・・・」
辺りにあった建造物はすべてなくなり、辺り一帯で無事なのはこの競技場だけ。
他は文字通り更地になってしまっていた。
「え、、」「なにが・・」「だれがこんなこと・・」
みんなそれぞれの驚きの言葉を述べている。
その時、ドン!!とまたおおきな音と振動が鳴ってきた。
これは確実に誰かと誰かが戦っている音だ。それも、衝撃音的に強大な力をもった者同士の戦いであろう。
(『全視』)
全視で辺りを見回してみる。
・・・。これは本当に酷い状況だ。俺の可視範囲である半径2kmは全て更地になっている。死体は見えないが、瓦礫もあまりないため消された可能性が高い。
それに、ここからちょうど1km先で一人の強大な魔力を持った悪魔と衛術協会のクライスト含む三人が戦っている。その中には、一人は完全に名前も顔も知らない人が一人、クライストの父であり衛術協会の会長でもあるスカルノ=メルカリウスの姿もある。名前の知らないもう一人は斧を持っており、クライストは俺が切った者とは別の槍、スカルノは弓を持っていて、スカルノだけは少し離れた場所にいる。
この三人とも、相当な手練れであるのは確実だが、それでも相手の一人の悪魔にはかなわない。そう断定できるほど相手の悪魔の魔力が強かった。
他にも、いたるところに悪魔と戦っている衛術協会の人間がいる。流石に、まだ負けている人はいないようだ。衛術協会もなまじ弱っちくはないらしい。
あの強大な悪魔は俺がやるとしても、その間に他の所に被害が及ぶ可能性もある。
太陽坂と、九條の前とはいえ、自分の正体を晒して戦った方がいいし、なにより本部に応援を要請すれば被害も最小限にとどまるかもしれない。
だが・・どうしても躊躇ってしまう。
・・・とはいえ、俺はやはり目の前の人を見捨てるわけにはいかないようだ。
「
俺の姿が瞬く間に黒い軍服になる。
この魔法は、別空間に貯蔵した武器、防具を魔力という対価を払って取り出すものだ。ちなみに、俺が今使える最高級の魔法でもある。
そのまま、本部へと自分の軍服に備え付けられている機能を使って電話をかけた。
「もしもし、こちら
「あー、輝か?とりあえず任務完了お疲れさん。」
「ん?なんでお前がでるんだ?」
電話に出たのは本部の職員ではなく、俺の上司だった。
「俺はまだイギリスだが、回線を改変してお前が電話をかけたら俺の方につながるようにしておいた。」
「・・お前な。」
「これも任務のためだ。新しい任務を言い渡すぞ、黒帝」
「・・ああ」
「あの悪魔、ディアボロスを討伐してこい。他は何も考えなくていい。」
「いやだが、そうした場合他に被害が・・」
「大丈夫だ。俺らをなんだと思っている、無能な衛術協会とは違うんだぞ。今回の件も、事前に察知していた。大会中に現れたあれは想定外だったが、お前がいるから狂いは生じなかった。それに、今回は死者は一人も出ない。既に住民はうちの職員が全員避難させてるし、今衛術協会の人間も悪魔と戦っているだろうが、そいつが危なくなる前にうちの職員が助ける。これは今回の任務の本当の目的でもある、『衛術協会の衰退及び日英全軍の出現』に伴うものだ。だが、お前にディアボロスを討伐してもらえないと、俺らの出現は失敗に終わるだけだ。別に蒼い雷を使ってもいいから、あの悪魔王を倒してこい。」
「はぁ・・。そういうことだったのか。なんでそれを最初から俺に言わないんだ・・。」
「お前に最初からすべて言ったら、絶対嫌がるだろう。」
「まぁ、今でも普通に嫌だが・・」
「それと一つ、そこにはディアボロスのほかに悪魔軍参謀のゲラルドもいるはずなんだが、奴の姿は今のところ確認できていない。だから、一応気を付けておけ」
「はいはい、わかりましたよ、上司サン・・」
「じゃあそういうことだから、頑張れよ」
こうして電話が切れてしまった。すべて今回の出来事は一つの任務のシナリオだったのだ。なんだか今まで隠すのに必死だった自分自身が少し恥ずかしくなった。
九條と太陽坂の方を振り返る。
「すみません、みなさんに隠していたことがあります」
相手の既に驚いた顔から、返事が来る前に俺は言葉を続けた。
「実は俺は、ある軍の軍人です。今回の大会で優勝したのも、本当は任務でした。でも、みなさんを助けようとしたのは決して演技ではありません。あと、ここから1kmほど離れたところにこの悪魔たちの王がいます。現在衛術協会の精鋭達で戦っているみたいですが、おそらく勝てません。さっきから響いてくる音とか、衝撃音は全てそいつが生み出したものです。今から僕がそいつと戦ってきます。勝ってみせますが、みなさんは危ないので絶対にここから離れないでください。九條さん、ここの護衛は任せました。一応僕の方でも盾は張っておきます。」
「新条君、そういうことだったのか・・。わ、わかりました。どんなものが来ても、私が迎撃します!」
すると、近くに悪魔が五体ほど突進してきた。
俺は何も言わず、近づいてきていた五体全てを粉々に切り裂き、葬った。
「すごい・・!」
「悪魔の数に関する情報はありませんでした。何体いるかはわかりませんが、念のために極魔法は温存しておいてくださいね。敵の軍の参謀のゲラルドとかいう奴がもしかしたら現れるかもしれません。」
「わかりました!覚えておきます」
「太陽坂の皆さんも・・。本当に巻き込んでしまってすみません。謝って済むことではないと思いますが、謝罪します」
そう言い、俺は頭を下げた。
すると、白川さんが前に出てきて言う。
「新条さん、何言ってるんですか!私たちが一曲でも大勢のお客さんの前で踊れたのは新条さんのおかげです!それに、私たちは新条さんが何者でも構わないと言ったはずですよ!例え軍人でも、私たちとは別の次元にいても、この尊敬と感謝は忘れません!」
白川さんは、そう強くいってくれた。最初は引っ込み思案な性格なのかと思っていたが、実のところはそんなことないらしい。周りのメンバーも大きくうなずいている。
「みなさん・・。ありがとうございます。ささやかですが、お礼をしますね。」
「蒼電一閃『
俺がそう言い手をかざすと、太陽坂の面々の周りには蒼い雷で出来たバリアが生み出され、それが彼女らを包み込んだ。
「こんな魔法、みたことないです・・。」
「これは魔法ではないですからね。僕の固有ものですよ。」
「な、なるほど・・。」
九條は納得してくれた。
「この盾なら、極魔法ぐらいでは崩せません。ですから、安心して大丈夫です。それに、攻撃が入った瞬間僕の方に感知がいくのでどっちにしろ大丈夫です。でも、すぐには駆け付けられなく
なる可能性もあるので、九條さん、よろしくお願いしますね。」
「はい!もちろんです!」
もう一度全員の顔を見回す。誰一人として、くじけそうな顔をしている人はいなかった。
「では、行ってきます。蒼電一閃『
俺の周りを雷が覆う。
「頑張ってください!」
みんなからのエールを尻目に、俺はそのまま1km先の戦闘が繰り広げられている場所へと飛び立った。
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