第29話 束の間の安穏

「本当に素晴らしい試合でしたね!九條さんも、まさかの極魔法を使うなんて!大人でもほとんどいないというのに、凄すぎますね!それに勝利した新条君も圧倒的な実力でしたね!極魔法をも凌駕する実力を持つ高校生がいるなんて、夢にも思いませんでしたよ!それに、悪魔も撃退してくれましたし、ほんと何者なのか気になりまくりですよ!!」


「はい、私もそう思いますね。確実にあの二人はクライストより強いので、私の息子の肩書もなくなってしまいましたね、ははっ!この有力すぎる人材、ぜひ衛術協会会長として衛術協会に招待したいですね。それに、、私も一魔法師として、魔法を使わない新条君と戦ってみたいですね!!年甲斐もなく、興奮してきました!」


「ス、スカルノさん!?そんなキャラでしたっけ、、。それはいいとして、この圧巻な戦いを見せてくれた二人に改めて拍手を送りましょう!!」


琴原とスカルノ=メルカリウスの実況解説の後、再び俺たちに拍手が送られる。


「九條さん、どうぞ」


俺はそう言って腰を突いたままの九條に手を差し伸べた。


「ありがとうございます」


九條は俺の手をつかんで、起き上がった。


「新条君、ちょっとあとでお話いいですか?」


「はい、構いませんよ。では、また後ほど」


こうして俺と九條はそれぞれの入場門へと戻った。


そこには、今か今かと機をまちわびた目をしている太陽坂の面々がいた。


「みんな、せーの!」


「「「「「お疲れ様でした!!」」」」」


完璧にタイミングのあった労いの言葉を全員からかけられる。


「ありがとうございます。みなさんの応援のおかげです。それに、これから少しした後にこの戦闘場の中央でスペシャルライブがあるんですよね?僕も凄く楽しみにしてたことなので、言うまでもないと思いますが頑張ってください!」


「はい!もちろん全身全霊で頑張ります!新条さんが勝ち取ってくれたこのまたとないチャンスを、絶対無駄にはしません!!」


太陽坂のキャプテン、東雲さんはそう元気よく返してくれた。


「でも、悪魔のことといい、九條さんの極魔法のことといい、新条さんは何者なんですか?」


「えっと・・。」


俺がまた普通の高校生だと答えようとすると、


「あ、いや、すみません。踏み込んだことをお聞きして!新条さんがどんな人でも、私たちはずっと感謝の気持ちを持ってますから!」


「・・、ありがとうございます。まぁ、そんなたいした人間ではないんですけどね、僕は。では、失礼します。」


そう言って俺は入場口付近から待機場へと移動した。


そうやって待機場の前まで着くと、その前には九條がいた。


「あ!新条さん、お待ちしてました。」


「ああ、話があるとおっしゃってましたね。」


俺が太陽坂と喋っている時間が長いせいか、九條は俺の待機室へともうやってきてしまっていた。


「では、どうぞ」


「失礼します。」


そうやって九條を部屋に招き入れ、渡辺との戦いの後と同じ構図で座った。


「それで、話とは・・?」


「はい、実は私の極魔法のことなんですが・・。」


俺は相槌を打つ。少し間が空いてから、九條は再び話し始めた。


「私、新条さんから二個の大魔法を完全に無効化されて、為すすべがほとんどなくなったときに、突然周りがまっくらになって・・。そしたら洋介の声が聞こえて、私を励ましてくれたり、極魔法がもう使える、とかも教えて貰いました。正直、私自身もよく状況とか、言っていることもよくわからなかったのですが・・言われたとおりにイメージしてみたら、本当に使えてしまったんです。私、魔法師として日々魔法のことを学んでいますが、学校とか本では極魔法のことなんてほとんど書いてないし教えてももらえないので、よく原理がわかんないんです。多分使える人に聞くのが一番手っ取り早いとは思うのですが、なにしろ周りに極魔法を使える人なんているわけなくて、それで、そこまでお強い新条さんなら何かご存じではないかと思って・・こうして尋ねさせてもらいました。」


九條はゆっくりと、わかりやすく語ってくれた。


「なるほど・・そんなことがあったのですね。」


「はい、私も混乱しちゃって・・。新条さん何かわかりませんか・・?」


懇願するような目で俺を見てくる。正直知っていることを職業柄あまり教えてはいけない気はするが、才能ある人だし、今後のために教えておいてもいいだろう。


「・・わかりました。僕の知っていることをお話しします。」


「はい!!」


九條は元気よく答えてくれた。


「まず、極魔法を使用する人は大魔法に比べて、極端に少ないことはご存知ですよね?極魔法は、大魔法とは違って完全に才能の世界なんです。つまり、どれだけの時間をかけようが、策を弄そうが、結局は卓越した魔法の才能が無ければそもそも使うことはできないんです。ここまでは、ある程度魔法に関心がある人は分かると思います。でも、実はもう一つだけ、極魔法を使えるようになるための条件があるんです。」


「も、もう一つの条件・・?」


「はい。それは、感情を大きく揺れ動かすような出来事が必要になるということです。魔法というのは高位にいけばいくほどイメージ、つまりは想像力が必要になります。生まれ持った魔力量と、そのイメージがかみ合ってようやく強大な魔法が使えます。メカニズムは実はよくわかってないんですが、大魔法から極魔法へと移行するにはそういう感情を掻き立て、想像力を刺激するような出来事がないとほとんどの場合は無理なんです。九條さんの場合は、確実に渡辺さんの件でしょう。まわりが暗くなって、渡辺さんの声が聞こえたというのは少しメルヘンチックではありますが渡辺さんが伝えに来てくれたのではないでしょうか。強い意志がこの世に残存するのは、現代に限らず古代においてもよくあったことです。もしかしたら、九條さんへの思いの強さがそれを可能にしたのかもしれません。」


「感情を大きく動かすような出来事・・。洋介が私に伝えに来てくれた・・。私への思いの強さですか・・。少し頭の整理が追いつきませんが、そんなことがあるのですね・・。あと、二個だけ質問させてもらってもいいですか?」


「はい、構いませんよ」


「あの、私の『アストラルファイア』をいきなり打ち破ったのはなにをしたのですか・・?とても、抜刀術のみで出来ることだとは思いません・・。それに、色々魔法についてご存じなようで、もしかして極魔法で打ち消したとか・・?」


「ああ、実は極魔法ではないです。あまり詳しいことは言えませんが、僕は普通の魔法陣は使えません。ですから、極魔法などもってのほかです。極魔法を打ち破ったあれは奥の手みたいなものなので、どうかそれで勘弁してくれませんか・・?」


「そ、そうなのですか・・。はい、そこの詮索はやめます。それと、最後の質問なのですが、、新条君、貴方は何者なのですか・・?最初は唯一無名の選手と言われてましたが、その実力は私たちよりもはるか上の位にあって、クライストさんとの戦いですら、私には余裕そうに見えました。これも、答えられないならそれで大丈夫ですが、、新条さんは私たちの味方なんですよね・・?それだけは答えてほしいです。」


「すみませんが、何者であるかについてはお答えできません・・。でも、味方であるということは断定して肯定できます。僕は何があっても、みなさん人間の味方です。それだけは安心してくださいい。」


「よかった・・!それが聞けてとてもよかったです!」


「いえいえ」


そう俺が言うと、琴原によるアナウンスが流れ始めた。そろそろ太陽坂のスペシャルショーの時間だ。ここでみるよりも、俺は外の観客席で見たい。どうやら衛術協会が数席特等席を用意しているらしい。


「九條さん。これから一緒にライブを見ませんか?ちょうどよく、外に席を用意してあるらしいです。」


「はい!もちろん行きます!」


九條の了承を得て、俺は第一階層の一番前の席、文字通り特等席にやってきた。

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