第22話 多重魔法vs合成魔法 ②『悪魔』

「いいだろう。これならどうだ?合成大魔法『サンダーフローズン』」


椎名が以前、完全には発動できなかった氷と雷の合成大魔法が発動された。


渡辺は椎名以上の魔法師であるのは確実らしい。


氷を纏った雷が九條の方へと飛んでいく。


しかし、九條は敢えてそれを迎撃する構えをとった。


「多重魔法『炎の盾』!!」


発動に時間のかかる大魔法ではなく、時間のかからない通常魔法で合成大魔法を迎え撃った。


衝撃音と、衝撃波が場内を駆け巡る。普通に考えたら、合成大魔法のほうが優勢だろう。


だが、九條はまだ押し負けていなかった。


「洋介、目を覚まして!!五重大魔法『フィフスブレイズ』!!!」


九條の叫び声が、空中の水晶を通じて場内に響き渡った。


「ぐぁっ・・!!」


渡辺は九條の発動した魔法にもろにあたり、『サンダーフローズン』はまたもや完全には決まらなかった。だが、ダメージがあるのは九條も同じようで、そのブロンドのロングヘアが、彼女の吐息で大きく揺れていた。


大魔法ではないとはいえこの短いスパンに多重魔法と五重大魔法を使ったら当然そうなる。というか、そもそも発動できていること自体実はかなり凄いことだ。


渡辺は五重大魔法を受けてなお、まだ立ち上がった。


「目を覚ますだと・・?ふざけるな!!俺はお前に勝つために、三年間ずっと戦ってきたんだ!!」


「それを言っているの!!私に勝つ勝つって、、どうしてそんなに私に勝つことにこだわっているかは知らないけど、周りが見えてなさすぎるの!!昔の、まだ魔法が使えるようになる前のあの洋介に戻ってよ・・!!!」


二人はまた、凄い剣幕で言いあう。


「・・。もういい。俺はお前に必ず勝つんだ・・・!!!…グァアアアアア!!!!」


突然渡辺が咆哮を上げる。その姿は、いつの間にか異形の姿になっていた。


「あんた・・・。その姿は・・!?」


九條が問う。


「グハハァァl!!俺はお前に必ず、勝つんだアアア!!」


あの姿は、悪魔!?なぜいきなり渡辺が悪魔なんにかなれるんだ・・!?


これはまずい。非常事態だ。悪魔が生み出したわけじゃなくて、元々人間だった悪魔は、相当な力を持っている。


「洋介、、。そこまで堕ちるとはね・・!!」


会場内は騒然としている。


実況の琴原も、解説のスカルノも目を見開いているのがわかった。


再び渡辺が咆哮を上げる。


「テメェを殺してやル!!」


だんだん精神が侵食されている。頭脳明晰な渡辺は、いなくなっていた。まぎれもなく、あれは悪魔だ。








「ふふふ・・。今頃は暴れていることでしょうかね。」


ディアボロス軍の参謀、ゲラルドが笑いながら呟く。


「数億回の試行実験で偶然できた一つの貴重な悪魔になる薬ですが、あの少年には適合するでしょう。もう二度と作ることはできないでしょうが、あれは激しい感情や、憎悪に反応してその身を悪魔へと変えます。本来はあの程度の魔法しかつかえない人間は悪魔になることはできません。ですがあの薬はそんな心配はありません。幼馴染に自分を見てほしいというまっすぐな感情が歪曲した結果の憎悪とは、、誠に滑稽なことですね。奴がある程度人間界を破壊したら、ディアボロス様は進軍命令を出してくれるでしょう。人間から悪魔になった者を倒せる人間など、今の日本にはいません。」

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