第23話 九條&新条vs悪魔 【終局】

俺は急いで待機室を飛び出した。


そのまま、階層を降りるのではなく観客席へと走る。


そして、観客席の一番前まで来たところで、俺は鞘から刀身を抜き放ち、落下防止用の結界を木っ端みじんに破壊した。


「間に合え・・!!」そう思うしかなかった。








「グハハァァァァ!!」

洋介が、いや、眼前の悪魔が叫んだ。

どうして?あんなに仲が良かったのに、何があったの?

もうその思いは悪魔となり果てた幼馴染には届かなかった。

情けないことに、私の体は震えきっていてほとんど言うことを聞いてくれない。

体は動かないが、その代わりに死が近づいてくるという思考だけが冴えていた。

私だって悪魔を見るのは初めて。存在を知っていても、脅威だとわかっていても、どこかで自分には関係ないことだと思っていたのかもしれない。

自分が襲われるなど、ましてや幼馴染が悪魔になるなど、考えもしてなかった。

「デーモンアーツ『漆黒の鉤爪』ェェェェ!!」

洋介がものすごいスピードで迫ってくる。

ああ、死ぬのだと、こんなところで死んでしまうのだと、脳より先に本能が感じていた。

でも、私を待っていたのは死ではなかった。

空中から凄いスピードでやってきたその人は、新条 輝君。

彼は、悪魔の技デーモンアーツをも圧倒した。








「一閃『夜桜よざくら』!!」


俺は落下したスピードや重力を全て刀にのせ、悪魔特有のデーモンアーツを返り討ちにした。


そのまま勢いで回転し、悪魔の頭に後ろ回し蹴りをかます。


悪魔を100mほど吹き飛ばした。


「お怪我はありませんか・・・!?」


俺は震える九條にそう訊いた。


「は、はい・・。私は大丈夫です・・。」


そう言いながらも、彼女は震えていた。無理もない。初めて悪魔を見る人はほぼその禍々しい姿に怯える。


「なんダァ!?テメェハ!!」


更に精神が侵食され、だんだん日本語が片言になってきている。


「オイ!!コタエロォォオ!!」


「黙れ。」


俺はその一言でもう人間ではなくなったモノを一蹴した。


悪魔が相手ならば、手を抜く必要はない。


「ナンダトオオオオ!!!」


悪魔が迫ってくる。愚直に突進だ。だが、悪魔が進むたびに大気が振動し、戦闘場には穴が開いていった。クライストの『グングニル』が迫ってきているのに似ていた。


刀身を鞘に戻す。息を吸い込む。


極地抜刀きょくちばっとう繊月せんげつ』」


俺は足は動かさずに大技を放った。悪魔の体が両断され、俺の斬撃は地を割りながら柵も破り、入場口付近に炸裂した。そこに誰もいないことは、既に確認している。


「グ・・。ァァア・・・。」


どうやらこの悪魔は、不完全なようだ。どこか動きにも、技にも悪魔らしさは正直感じなかった。


だが、やはり圧倒的に強いのは変わらないようだ。証拠に、俺の『繊月』を受けてもまだ生きている。


すると、


「!?ぁぁぁぁぁ、グァァァ!!!!!」


悪魔は真っ二つになったまま立ち、咆哮を上げた。


その時。


「多重大魔法『インフェルノ』!!!」


俺の後方から、悪魔に向けて魔法が発動され、炸裂した。


流石に悪魔は動けず、倒れる。そして何故か、悪魔の殻が剥げ空中へ塵となり消え、中から渡辺が出てきた。


九條は急いで渡辺に駆け寄る。


ボロボロになった渡辺は、九條に抱きかかえられる。


「なんでこんなことしたの!!!洋介!!」


「あ、あはは、、。奏か。やっぱり君には勝てないや。こんな悪魔の力を使っても、結局君にやられてしまったよ・・。」


最後の息を振り絞るように、渡辺はそう言った。


「私じゃない!!新条君がいなかったら・・私は負けてた。でも、なんで!!あんたはそんなことしなくても、十分強いでしょ!!??」


九條が泣きながら怒鳴った。


「か、奏・・。俺はな・・、君に振り向いてもらいたくて、君に認められたくて、必死に努力した・・。けれど、結局君の魔法には勝てる気がしなかった・・・。だから、何倍も強くなれる薬をもらってしまったんだ・・。これで君に認められる、対等な男になれるって思ってたのに・・泣かせてしまうなんて、俺は本当にバカ野郎だ・・。」


消えゆく命のともしびを、まだ絶やしてしまわぬよう必死でもがいているように見えた。


胸が少し痛む。俺も、嫌な過去を思い出してしまいそうだ・・。


「ずっと認めてるわよ!!言ったじゃない!!私は洋介をライバルとして認めてるって!」


「奏・・。そうじゃないんだ、俺は、君に一人の男として認めてもらいたかったんだ・・。ライバルじゃなくて・・。そうして対等になれば、ようやく君が好きだと、告白できたのにな・・。」


「え、、え!?」


九條がかなり驚く。


「でも、私・・。洋介は大事な親友だと思っているから…。」


九條は目を逸らした。


「そりゃそうだよね・・。こんな俺のこと好きになるわけないもんな・・。」


「そんなこと・・。」


九條が何かを言いかけたその時、


「さようなら奏、大好きだったよ。」


そう言って、渡辺は光となり、消えていった。悪魔はいつもこうやって消滅する。


九條は地面に手を突き、泣きじゃくっていた。


「・・・。」


渡辺も悪いが、もっと悪いのは彼のその純情な気持ちにつけこんだ奴だ。俺は、久しぶりに怒りを覚えていた。


今更衛術協会が戦闘場に到着する。その中には、序列三位のクライストもいた。


柊の時もそうだったが、衛術協会には即戦力がいない。故に、到着が遅い。


クライストでも、日本最強の高校生と呼ばれていた彼でさえ悪魔化した渡辺に勝てたかどうかは分からない。

グングニルを使えば倒せるかもしれないが、今の彼の魔力量では万が一耐えられたときに終わってしまう。

よく見ると、解説席のほうには弓を携えた彼の父もいた。


俺は無言で会場を後にした。途中にクライストから話しかけられた気もしたが、今は応答する気にはならなかった。

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