第11話 vs日本最強 【終局】

「魔法槍奥義『グングニル』」


そうクライストは言った。


俺はその言葉の後、高速でバックステップをし、クライストとの距離を100mほど開けることに成功した。その後静かに刀身を鞘の中に納め、眼はクライストをとらえながら低姿勢になって抜刀の構えをとった。


「はァァァァァァァ!!」


クライストはそう叫ぶ、すると轟音を上げて、魔力量がさらに増大した。


彼は地面を、割れるほどの大きな力で踏みしめ、強大な魔力を携えた槍を自身の前に突き出しながら猛突してきた。


クライストが動くたびに、周りには凄惨な衝撃波が飛び散り、まるで鬼が近づいてくるような、そんな鬼気迫るものを感じた。


距離は徐々に縮まっていく。


俺は息を吐き、吸い込んだ。そして技名を呟く。


極地抜刀きょくちばっとう三日月みかづき』」


俺の姿が霞む。一息ひといきの間に、俺はクライストの背後へ着地した。


クライストの『グングニル』と、俺の技が交錯したことによって煙が大きく上がる。


しかし、どこからか吹いてきた風によって状況が露あらわになった。


クライストの前には隕石でも落ちたのかというほどの跡が戦闘場の端まで続いていた。


対して、俺の前には何の跡もない。


俺は刀身の10分の1だけ抜刀した刀を鞘に戻した。


鯉口こいぐちのカチン、という音だけが響く。


その瞬間、今まで技を放った状態のまま硬直していたクライストの槍が三等分され、コロンコロンという音を立てて戦闘場を転がっていた。


「僕の勝ちです。クライスト=メルカリウス。」


俺はそう言い、彼のほうを向いた。


クライストはそのまま、うつぶせになって倒れてしまった。


ウォォォォン、という音が場内に響き渡る。空中に現れたモニターにはこう書かれてあった。




The end of duel

winner、新条 輝




次に、琴原の声が聞こえた。


「な、な、なんと・・。ぶ、武器破壊で、東コーナーの新条 輝選手の勝利です、、!!本日初戦は、唯一無名だった新条選手の勝利です!!!」


そのアナウンスの後、待ちわびたと言わんばかりの大歓声と、大きな拍手が競技場内全体に巻き起こった。「凄すぎる」、「いいものを見せてもらった!」、「かっこいい、、」とか言う声が聞こえてきた。俺の担当アイドルの太陽坂なんかは、メンバーみんなで戦闘場の外の一か所に集まり、ジャンプしたり、泣いたりして喜んでいる。


俺は太陽坂のほうに軽く会釈をして、クライストの方に向かった。


クライストは、うつ伏せから仰向けに体を寝たまま起こしており、競技場の天井を見ていた。


「本当に貴方は強かったです。」


俺はクライストにそう言う。


「ふっ、それは皮肉に聞こえるぞ?」


クライストは吹っ切れたような笑顔で応答してきた。


「いやいや、本当に強かったです。最後の技をもろにくらっていたら普通に死んでいたでしょう。」


「そう言ってくれてありがたいよ。こんなにボロボロになって負けたのは、父上と戦った小さいころ以来だ。あれから、誰にも負けないように、せめて同年代の中では最強にであれるように努力し続けた。実際、同年代には無敗で、『現役高校生最強』なんていう風に言われたりもした。だけど、新条に負けて、私は自分の傲慢さに気づいたよ。これから私もさらに精進しないとな。」


クライストの顔は、やはり吹っ切れたいい笑顔をしていた。


「貴方には、その姿は似合いませんよ。」


俺は仰向けのままのクライストに手を差し伸べる。


「ああ、すまない。新条 輝、これからは私の友として輝と呼んでもいいか?」


「はい、もちろん。じゃあ僕は、クライストと呼びますね。」


「わかった。あと、年上だからといって敬語はなしだぞ。」


「あ、、ああ。わかったよ、クライスト。」


俺とクライストは、そんなことを言いながら握手をした。


また凄まじい歓声が起こる。


こうして俺の初戦は幕を閉じた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る