第10話 幸島 錬の独白
俺は
桜ケ丘高校二年生で、新条 輝とは長い付き合いだ。
はっきりとは言ってないけど、俺はあいつと親友同士だと思っている。
長い付き合いだからわかる、あいつは中三になったと同時に性格が変わったんだ。
悪い変わり方じゃない。むしろ内向的な性格から、積極的とは言い難くても誰かが喋りかけると笑顔で応答してくれるようになった。でも、その笑顔からはいつも、なにか哀愁のようなものを俺は感じていた。
普段は無気力な輝だが、俺が遊びに誘えばほぼ毎回嫌そうにしながらも来てくれて、一日中共にいてくれる。
そんなあいつが、日本が主催する高校魔法剣技大会の選手に選ばれたことが、ネットのニュースでわかった。その時の俺は、これは単なる偶然だろうと思っていた。
初戦のクライスト=メルカリウスとかいう最強に手も足も出ず負けて、俺が励ましてやろうと、そう思っていたんだ。
試合当日、初戦はいきなり輝の出番だから、クラスのみんなと作った輝の名前入りのタオルとか、うちわを生徒全体で掲げる準備をした。
東側から金髪の美少年が入ってくる。聞いたことのないぐらい大きな歓声が場内に響き渡った。
凄まじいイケメンだが、顔だけなら輝だって負けていないはずだ。
その後、担当アイドルも入場。
続いて輝の入場が始まる。俺たちは叫ぶ準備をした。
「続いては、西コーナー!今回唯一の無名選手!新条 輝!」
実況の人がそう言うと、西側から輝が入場してきた。
さっきの金髪とは違い、歓声が全く起きない。
すこししりすぼみしたが、150万人の前とはいえこちらも1200人だ。
俺が「せーの!!」というと、
生徒全員が「輝頑張れー!」と言った。
そのあとにも俺は「頑張れ!!!」と大きな声で叫び、クラスのみんなは思い思いの激励の言葉を叫んでいた。
あいつは「俺は友達が少ない」とか言っていたが、いろんな人が支えてくれているのだと再認識して、親友の俺もうれしくなった。
輝が、そんな俺たちの言葉に反応してくれて、こっちに手を掲げてきた。
ありがとう、とそう伝えたいのだと俺はわかった。
輝のほうの担当アイドルの入場も終わり、実況解説が俺たちのことを少し褒めたあと、戦闘場の二人は会話を始めた
「はじめまして、新条くん。私はクライストだ。よろしく。」
「よろしくお願いします。僕は新条 輝です。正々堂々と、手加減なしでお願いします。」
「ああ、もちろん。手を抜くのは相手に対する侮辱だからね。君が例え、無名の選手であっても私が加減をすることはないよ。」
「そう言ってもらえてありがたいです。それでは、始めましょう。」
そう二人が言い終わった後、
「それでは、第一試合クライスト=メルカリウスvs新条 輝の試合、開始!」
という合図で試合が始まった。
本当に驚いた。一気に距離を詰めた輝は、見せたことないような技量で金髪を押しているように見える。金髪も凄まじいが、俺は普段の輝を知っている分余計に輝が凄く思えた。
そんな二人を見て、観客達の目の色が完全に変わったのがわかった。
空気も一変し、なんなら少しだけざわついていた会場が静まり返り、今は強者vs強者の圧倒的な戦いを、固唾をのんで見守っているように見えた。
輝が金髪に突撃する。凄まじい轟音とここまで届くような衝撃波を放ちながら、二人が連撃の打ち合いをしている。俺には全く二人の剣先、槍先が見えないほどのスピードで打ち合っている。
輝が仕掛ける。しかしそれを見切った金髪はフェイントをかけた後に突きを放った。
それをさらに見切った輝は、金髪を追い詰めたように見えたが、金髪の必殺技のようなもので攻撃され、輝は後方に飛ばされた。
「悔しいが、私の純粋な槍術ではお前には遠く及ばないようだ。新条、どういうわけかお前の剣筋からはまだ余裕が感じられる・・。お前は一体何者なんだ?」
「僕はただのそこら辺にいる高校生ですよ。」
「そこら辺にいる高校生に私の槍術が見切られるはずがないだろう・・。まぁいい。答える気がないんだったら、こちらはさらに本気を出すしかあるまい。柳生流槍術奥義の数々と、私の『魔法槍』を以て、その余裕を打ち砕こう。」
その問答の後
「『魔法槍』、発動」
金髪のその言葉によって噂の最強と呼ばれる技が発動された。
視るのは初めてだが、この技と槍によって彼はここまで上り詰めたと聞いたことがある。
三度始まる斬りあい、金髪が技を出すが、輝は聞いたことのない技名を口にし、金髪を圧倒した。
金髪も負けじと大技をだすが、それも輝に躱されてしまう。
「さっきの技、、。私でも見たことのないものだった。私も、奥の手を使わないと、お前に勝てないようだ。どうか、死んでくれるなよ。」
そう金髪が言った瞬間、この巨大な競技場が揺れた。地震かと思うくらいだったが、どうやら原因は金髪のようで、
俺の周りのクラスメイトたちも「何だ!?」とか「キャーー!!」と悲鳴を上げている女子だっていた。会場内の別の観客も同じようで場内が、かなりざわつくのがわかった。
見たこともない濃密な魔力がこもった槍を持った男は、眼前に輝を見据えていた。
「魔法槍奥義『グングニル』」
金髪はそう言う。これはまずい、こんなものくらったら輝が死んでしまう。俺の大事な親友が、幼稚園からの腐れ縁のあいつが、死んでしまう。とっさに俺は立ち、この階層の一番前の席まで行き。手すりにつかまって、
「輝!!死ぬな!!」
そう叫んだ。だがこの言葉は周囲の喧騒によってかき消され、いつの間にか来た警備員に捕まり、俺の元の席へと戻されてしまった。
クラスメイトを見る。
瞳の中が絶望に染まっている奴や、輝のことを好きな女子なんかは、もう泣いてしまっていた。
輝、どうかしなないでくれ・・!
俺はそう願うくらいしかできない自分の無力さを呪った。
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