第5話 全日本高校魔法剣技大会の開催

そして魔法剣技大会の日がやってきた。


競技場への行き方はかなり特殊で、日本中の全高校生は各々の県の指定された場所に集まり、そこにいる衛術協会の魔法師多数名と 特別に作られ、実用化はまだされていない転移魔法陣によって千葉にある世界最大級の競技場へと誘導される。


その競技場は昨年魔法技術産業の叡智として国家で作られ、収容人数約150万人、高さ500m、8階層づくり、半径1kmの円状超巨大競技場として今回の会場に選ばれた。


設備も最高峰で、まだ使用されたことはないが中央に位置する戦闘場のまわりには特別な水晶が多数埋め込まれているため、中央の状況を、たとえ八階層であっても目の前に巨大空中スクリーンを作り出すことによって見えるようになっている。


今回の大会が、この競技場が使われる最初の機会らしいから、全世界に注目されている。


だからこんなに大掛かりなことをするのだと思った。余談だが、いずれは日常でも転移魔法陣が使えるようになると思うが、使うのに相当魔力を使うから、恐らくはかなり先の話になるだろう。


俺も指定された場所に行くと、そこには衛術協会の制服を着た男三人だけがいた。


「新条 輝様ですね。これより、転移魔法陣で他よりも先に競技場へと移動します。準備はよろしいですか?」


「はい、いつでも構いません」


俺はそう答えて、魔法陣発動を待った。


「では。」


と一人の男が言ったのを合図に他の二人が魔法陣に手をかざし、魔力を注ぎ込んでいるのがわかった。恐らくこの三人も大魔法級の実力者だろう。そう思いながらぼーっとしていると、視界が突然青色になった。


「転移魔法陣、正常に作動しました。新条様、こちらへ。」


と誘導され、控室のような大きな部屋の前に立った。


誘導されるまま中に入ると、そこは中には大きなテーブルと椅子が一つ、大きなモニターが壁に取り付けられ、あと弁当と水の入ったペットボトルが数本置かれた他は何もない場所だった。多分俺専用の控室だろう。


「では、新条様。出番にはお呼びいたしますので、それまでごくつろぎください。」


「ありがとうございました。」


そう俺は答えて、モニターを見た。どうやら、競技場内の様子を生中継しているらしい。


それを見て改めて思ったが、本当に大きな競技場だ。見たことがないくらい大きくて、綺麗で、設備もすごいと来たら、世界トップである日本の魔法技術産業の凄まじさを体感した。三年でここまでってことはあと数年でどこまで行くんだ、と少し恐くなった。


そんなこんなでぼーっ、とモニターの映像を見ていると大勢の人が競技場内に入り始めた。全国の高校生全員が入るのだ。恐らくこの超巨大な競技場でも満員になるだろう。


そんなに大人数の前で戦いをするのは初めてのことなので、多少は緊張もするが、これは任務だと割り切ることにした。


二時間後、気づいたら居眠りをしていた俺は改めてモニターを見た。


すると、数時間前まではガラガラだった席もほぼ満員になり、見たことないくらい人が密集していた。


上階層にいる人が落ちないか心配になったが、冊子に書いてあった見えない結界によって守られているということを思い出して、安心した。


そして、実況の人の大きな声が聞こえた。


「さぁ!ついに始まりました、全日本高校魔法剣技大会、実況を務めさせていただくのは、私わたくし、警察庁魔法第二部隊副隊長の、琴原ことはらです。解説はこの方、衛術協会会長のスカルノ=メルカリウスさんです!」


「ご紹介預かりました、スカルノ=メルカリウスです。」


そうスカルノが言ったとたん、会場中からは歓声が沸き上がった。無理もない、あの有名な衛術協会の会長サマだ。


「凄い人気ですね!流石です!今回はご子息もご参加されるとのことですが、お声かけは何かしましたか?」琴原がそう言うと、


「私の自慢の息子ですからね。「お前なら大丈夫だ。自分を信じて頑張ってこい。」とだけ今朝伝えました。」


「そうですか!彼の戦闘は私も去年見たことがありますが凄まじかったのを覚えています。他に、気になる選手はいますか?」


「そうですね、九條さんと渡辺君だと言いたいところですが、実は柳生日蔭流抜刀道の天衣君に注目しています。彼の剣技ならクライストに通用する可能性があるのではないかと、私は睨んでおります。他にも一ノ瀬君に柊さん、椎名さんという風に功名な選手ばかりが出場しているので、私も年甲斐もなく楽しみにしております。」


「さすがは大魔法結晶アルカナですよね!有名な高校生ばかりを選んで。それで、今回唯一無名の選手である新条君についてはどうみますか?」


「そうですね、新条君については我々も彼のことを何も知らないものですから、正直答えようもありません。ですが、アルカナが弱い人間を選んだとも考えにくい。まぁどちらにしろ現状は何とも言い難いですね。」


まぁそうだよな、俺だけ完全に無名だからな。そう思った。


その後、説明等も琴原によって円滑に進み、開会式も選手が姿を見せずに行われた。


初戦は俺対クライスト=メルカリウスだ。恐らくすぐにお呼びがかかるだろうと思ったその時、部屋がノックされた。


「新条様。出番です。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る