第6話 始まりのファンファーレ
俺は導かれるままに電動式エレベーターで一番下の階層、つまり戦闘場がある階層へと降りた。そのまますぐに入場かと思いきや、入場直前選手控室という札のついたところに着いた。
「新条様、試合開始は一時間後です。これから少し、発表と催し物がございますので、この部屋のガラス張りラウンジからご鑑賞くださいませ。」
あまりにも丁寧な応答で、驚いてしまったが、
「はい。了解しました。」
と返してその部屋に入った。
そこには、ガラス張りの、競技場全体が見渡せるラウンジと、例のごとく大きなモニターがあった。
しばらくはそのガラスから競技場を見渡して何も考えずにいると、突然観客たちの前に空中モニターが映し出され、場内が一気に静かになった。俺の部屋の中にあるモニターにも電源が入り、これから、さっきの人の言う"催し物”が行われるのだと思った。
その瞬間、どこからともなくトランペットの音が聞こえてきた。それは会場内も同じようで、静かな場内でトランペットの音だけがただ響いていた。
すると、競技場の真ん中にある戦闘場の真ん中に突如として大規模音楽団が現れた。指揮者が指揮棒を高く上げ、演奏開始の合図をすると、場内に重厚音が響き渡った。
そして、観客の場合は空中モニターに、俺の場合は部屋のモニターに何かが映し出される。
それは、トーナメント表だった。さっきの開会式でも出ていたから、何故まただす必要があるのかと思っていたら、トーナメント表の名前の下の部分に空白ができ、専属アイドルという項目がでてきた。
これは全く意味が分からなかったかから、疑問に思っていると、このように一斉におそらくアイドルグループであろう名前がでてきた。
クライスト=メルカリウス
乃々宮坂45
vs
新条 輝
太陽坂45
一ノ瀬 翼
ABC50
vs
柊 夜空
king&queen
渡辺 洋介
コリオリ坂45
vs
天衣 渡
OPQ50
椎名 鈴花
CCC
vs
九條 奏
と書いてあるのが見えた。俺の担当は、太陽坂45!?
なぜなら、俺は割とファンなのだ。誰推しというわけではないが、その元気さと可愛さと一生懸命さが好きで、いつも活力をもらっている。誰にもこの趣味は言ってないから、恐らくはこの組み合わせは抽選要素が強いのだろう。一応、男性は女性アイドル、女性は男性アイドルが担当ということにはなってるみたいだ。
…なんだ、このご都合主義的展開は。
だが続いて、加えて文字が浮かび上がる。
優勝者の担当アイドルは、本日の大会終了後、150万人と全世界中継の前でライブをすることができる
瞬間、会場からどよめきが起こる。
上司から、確かに利権がどうとかの話しは聞いていたが、その通り裏金が働いているみたいだ。
さっきは運の良さに感動していたが、太陽坂のメンバーからしたら俺は最悪の引きだろう。素性もよくわからない、さらに初戦の相手は現役高校生最強と謳われる人物なのだから。
この千載一遇のチャンスをおそらくどのグループも逃したくはないはずだ。俺にとっても、より一層気合を入れるのには十分すぎた。
こんな風に自分の好きなグループに貢献できる日が来るとは思ってもみなかったし、その人たちに良くも悪くも認知されるのは純粋に嬉しい。
あくまで任務だということは忘れずに、続報を待った。
すると、モニターが消えた。と同時に、空中モニターも消えた。また会場中央の楽団が演奏を始める。今度はなんだ、と思ったら、会場の各階層の出入り口にアニメのキャラクターの着ぐるみがが現れたかと思うと、右手にトランペットを持ち出して、それぞれが吹き始めた。
よく見ると、某国民的電気ネズミや、青いタヌキもいて、中々宗教めいた変な光景だった。
だが、観客には好評のようで、歓声が上がる。一応同い年ぐらいのはずなのに、俺とは違い、みんな盛り上がっていた。
そんな余興がしばらく続き、いつの間にか選手紹介になっていた。
全ての選手がモニターで紹介され終わり、いよいよ今度こそ初戦の俺の出番だ。
自分で部屋を出て、西側入場ゲートへと向かうと、その前の比較的大きなスペースの中に、俺の担当になっている太陽坂のメンバーがいた。
「新条様。お待ちしておりました。」
さっき俺を部屋まで案内してくれた人もそこにはいて、話しかけてくる。
「すみません、遅かったですか?」
「いいえ、時間通りですよ。それで、この方々が今回新条様を応援してくださるアイドルの太陽坂45様です。」
すると、太陽坂のキャプテンが前に出て、挨拶をしてきた。
「私たちは新条君の担当をさせていただきます、せーのっ!」
「「「「「太陽坂45です!」」」」」
という元気な掛け声をした。俺は少し動揺しながらも、それは表に出さず、性には合わないが、紳士然とした風に自分の胸に手を当て、
「はい、僕は新条 輝と申します。今日は、自分のためにも、皆さんのためにも、精一杯頑張りますので無名な性分ですが、どうかよろしくお願いします。」と俺が言うと、
「「「「「よろしくお願いします!」」」」」
と元気よく返してくれた。
そして入場のアナウンスが鳴り、いよいよか、と気持ちを引き締めた。
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