第2話 非日常と非凡

家に帰った俺は、自分の部屋にも垂れ込んだ。

軽く息を吐いて、思索にふける。題はもちろん、水晶に選ばれてしまったことについてだ。


なぜ自分があの魔法結晶アルカナに選ばれてしまったのか。心当たりはないわけではない。というかむしろ、心当たりしかないが、たとえアルカナであっても、俺が選ばれるのはおかしいはずなのだ。


…これはやはり、任務の始まりなのか?

そう思ってしまう。とりあえず、上司に電話をかけることにした。


「もしもし、俺だ」


「輝か。どうした?」


「来月に国が主催する現役高校生No1を決める魔法剣技大会があるのは知っているだろ?それに俺が選ばれてしまったんだ。参加者は俺を含めて8人らしい。」


「ああ、知ってるさ。さっき公式に発表声明があったからな。だが、別に不思議なことではないだろ?こっちでも特に驚いた奴はいなかったぞ」


「いや、そういう問題じゃない。俺の存在が公になったら、お前達まえらも知られるかもしれないんだぞ?わかってるのか。てっきり、お得意の圧力でアルカナの選択肢から俺を排除してるとおもったんだが。それに、俺が選ばれているんだったら莉々奈りりなも選ばれてるんじゃないのか?」


「大丈夫だ。まず俺らの存在についてだが、これに関しては今回を良い機会とみなして、公表するための前座だと思っている。どうせいつかは公表しないといけないからな。次に莉々奈についてだが、莉々奈は選ばれていない。なぜなら、俺らが選択肢を抹消したからな。だから輝が選ばれるのはわかっていたことなんだ。本当は明日、本部に呼び出して上層部に伝えさせるはずだったが、仕方がないから今伝えよう。」


「…はぁ。なんだ?」

予想通りだったようだ。


「新条輝、もとい『黒帝こくてい』に任務を言い渡す。来月の魔法剣技大会で圧倒的な力を見せつけ、優勝してこい。」


「…?なんだよそれ。なんでいまになってそんなことする必要があるんだ」


「さっきも言っただろう。これは前座なんだ。前座は大きければ大きいほど良い。全力をだせ、とは言わないが、勝ってこい。これが任務だ。」


「任務だと言われたら従わないわけにはいかないが、、。本当にいいんだな?どうなっても俺は知らないぞ。」


「ああ。大丈夫だ。都合よく、お前のトーナメント初戦はあの有名な国立魔法第一高校主席兼、衛術協会序列三位サマだよ。おあつらえ向きだろ?」


「仕組みやがったな、、。まぁ良い。俺にできるだけのことはやってみるさ。」


「あ、言い忘れてたことだが、これは国にとっても一大プロジェクトであり、当然莫大な費用がかかる。だから、複雑な利権が絡まっているようだ。表向きは衛術協会主催となっているが、かなり多様な会社、組織がこの計画に関わっている。とりあえず特殊だが、一応理解はしておいてほしい。俺らは予定通り、再来月までイギリスの方の本部にいるからよろしく頼むよ。

…俺たちの目的は、『人類を救うこと』だ。それは忘れるな。」


「…まぁ、俗世は面倒なことばかりだからな。俺には関係のないことだ。…目的は、理解している。じゃあな。」


そう言い、俺は電話を切った。


人類を救う…か。大それた目的だが、全世界の人々が団結しない限りその運命に逆らうことは出来ない。


ともかく、こうして始まってしまった非日常に、俺は嘆息せざるをえなかった。

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