第一章 全日本高校魔法剣技大会編

第1話 蓋世の還幸人

この世界には魔法が存在する。正確には、魔法が突如出現した場合の現代。

世界情勢も、多少は現在と異なるが、日本が米国ではなく英国(イギリス)と強固な同盟で結ばれている、ということ以外はあまり違いはない。

これから先、戦争を繰り返し、勝手に滅んでいくとされる人類。その運命と呼ばれる代物は、果たして本当に来るのか。現代の我々には知りようがない。ともかくこれは、その運命に歯止めをかける青年の物語である。





俺は傍から見たら至って平凡な高校二年生、新条 輝だ。


特筆すべきことも特にない。


今日も今日とて安穏かつ、平凡な毎日が始まった。


平凡でいい。というより、平和が一番だ。


俺の両親はもう、この世にいない。だが、諸事情あって二人の顔もあまり思い出せない。


故に、朝はいつも一人だ。


身支度を済ませた後、いつも通り朝ごはんを食べ、自転車に乗って学校へと向かう。


ここは俺の通う桜ヶ丘高等学校という場所。


わりと名門校で、高校の偏差値は結構高い。


昇降口から階段を上り、俺のクラスである2年1組に入る。


もちろんいつも通りの顔がそこにはいた。


「おはよう!輝!」


元気よく、俺が教室に入るや否や言葉を投げかけてきたのは、クラスメイト兼、俺の数少ない友達である幸島こうじま れんだ。


「ああ、おはよう。」


そう短く返す。これもいつものことだ。何も変わったことはない。


少し錬と話した後、チャイムの音でクラスメイトたちが席に着く。


「おはようー」


と言い入ってくるのはこのクラスの担任である男性だ。


「おはようございます」


俺を含めたクラスメイト達はそう返す。


こんな風にHRがはじまり、そして1限がはじまる。


1限と2限は隣の2組と一緒に魔法の授業らしい。そう、この世界には魔法が存在するのだ。尤も、魔法というものが使えるようになったのは3年前だから、正直なところあまり解明はされていない。


だが、魔法と剣技専門の学校や、衛術協会という世間を悪から守る組織が数年前にできた。それも影響してか、俺たち市民の魔法の浸透はかなり早く、今やこのように必修科目として、剣技と魔法が組み込まれている普通科の学校もある。

国際連合の安全保障理事会において、全会一致で決められたことだが、原則的に日常で魔法を使うことは禁止されている。

町のいたるところに魔法感知機器が設置されているため、使用した場合、警察庁管轄の魔法部隊が駆け付け、法で罰せられる。

日常で使えないのに、こうやって必修科目になっているのは、魔法の出現とともに現れた魔法を悪用する連中、通称悪魔や、魔法を利用して悪行を働こうとする輩から自分を守るためだ。

新しい力が増えると、犯罪が増えるというのは人間の性らしく、この世界でもそれがあてはまるという、ただそれだけのこと。

いくら警察や衛術協会がいるからと言って、自分の身は自分で守らなければいけないというのは昔から変わらない。

そしてもう一つについてだが、出現が公表されているとは言え、直接悪魔という存在を見たものは数少ない。

しかし、二年前に一度だけ悪魔によってアメリカのニューヨークが襲撃された。

ある組織がそれを市民が一人も殺されることなく返り討ちにしたが、表向きは米軍機動隊による功績となっており、悪魔を見たニューヨーク市民は口々に悪魔の醜悪さについて語ったため、実は世間も何のために魔法と剣技を学ぶのかをわかっている。

日本でも、異例の迅速な対応で、魔法犯罪や悪魔に関する法律や、新しい制度が作られた。前述した衛術協会もその一翼を担っている。

しかし、それでも魔法や剣技の授業のある学校の数は限られている。人員的に無理なのだ。仕方ない。


そんなこんなで授業だが、俺は学校で学ぶ魔法がかなり苦手だ、というか使えない。魔法陣を用いた魔法は、今の俺では使えない。


おかげで魔法の成績はいつも最下位。必修科目なのにそれでも何とか俺が単位をとれているのは、剣技の成績は割といいからである。


何故か剣技の先生が俺のことを気に入ってくれているようで、魔法の授業を担当する先生に頼み込んでくれたらしい。その後の3,4,5,6限の国語、数学、物理、化学を終えた後、俺はいつものように帰路に就こうとしていた。だが、


「新条はいるか?」


そう言いながらクラスに入ってきたのは、良くしてくれている剣技の授業の先生だ。


「はい、ここに」


と俺は言いながら先生に近づく。


「少し、職員室に来てくれないか。かなり重要な要件があるんだ。」


先生がいつもと違った様子でそう言ってくるので、俺は「はい」とだけ言って先生と一緒に職員室へ向かった。


職員室で俺を待っていたのは、スーツのような、軍服のようなものを着た大人2人だった。これは見たらわかる、衛術協会の制服だ。つまり、この2人は衛術協会の人間ということになる。特に思い当たる節が無かったから、俺は先生を見た。


「この方たちは衛術協会の幹部だよ。新条に重要なことを伝えに来てくださった。」


そう先生が言うと、


「はい。ご紹介に預かりました、私は衛術協会幹部の上田と、同じく中村です。今回は新条 輝さんが


初開催の全日本高校魔法剣技大会の8名の選手の一人に選ばれたことをお伝えしに来ました。急な話だと思いますが、これは決定事項なので1か月後の7月に行われる大会にご出場願います。」


俺はかなり驚いた。だがそれは表情に出さずに、どうしても聞きたいことを尋ねた。


「どうして俺なんですか?それって何か選出意図があるのか、それとも無作為抽出ななのか、お教え願いたい。」


「はい、勿論無作為にではなく、我々協会が誇る大魔法結晶アルカナによって選ばれた者たちです。現に、貴方以外はどなたも名を馳せている方ばかりです。しかし、貴方にも何かしらアルカナに選ばれる要因があるはずです。それが何にしろ、ご出場はお願いします。


そう丁寧に答えられた俺は茫然としたまま先生を見た。


「俺も驚いたんだ、その話を聞いたときは。だが、選ばれたからには仕方のないことだ。おそらく、アルカナもお前の素質に気づいたんだろう。新条、頑張ってこい!」


元気よく俺にそう言う先生。俺だって、冷静を装っているが、正直気が気じゃない。だがそのまま、衛術協会の幹部たちに冊子を渡され、そのまま帰路に就いた。

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