第4話 凍てつく指で何度でも
転校してきた子は不思議な子だった。
ドラマや漫画なんかでよく見かける無口で近寄りがたい、なんてのは序の口。そんなのだけなら私も気にしない。
本当に不思議なのは彼女の裏の顔。
帰宅部にしてはいつも帰りが遅い彼女を見て、なんとなく気になった私はこっそり後をついていって。
人気のない路地裏でなにをやってるのかと覗けばそこは真っ赤なものが飛び散る惨状だった。
私は思わず腰を抜かしてしまい、そのせいで彼女に気づかれてしまった。
歩み寄ってくる彼女が恐ろしくて、余りのショックに思わず気絶してしまって。
気が付いた時には私の家のベッドに寝かされてて。あの子も私の介抱をしてくれていた。
あの子はお母さんたちに愛想を振りまきながら、隙を見てそっと掌に『誰にもバラさなければなにもしない』って指で書いてきて。
私は自分が見たものが夢じゃないと理解してしまった。
恐る恐る『殺し屋なの?』って私が指で返したら、あの子は躊躇ったあとに『うん』と短く返事をした。
ああ、そうか。あの子が近寄りがたい雰囲気だったのは、クラスから浮いていたのは、みんなを遠ざけていたからなんだ。
誰も危険に巻き込まないように、独りでいるしかなかったんだ。
介抱を終えてそそくさと立ち去るあの子の背中はひどく寂しく見えた。
...あの子はいつか報いを受けてしまうだろう。
その時がくれば、きっと組織(いるのかな、そこまではわかんないしどうでもいいかも)はあの子を見捨てるし、誰も近寄らせなかったせいで学校の誰も(たぶん私も)あの子のことで悲しまない。
だめだよ、そんなの。独りでいつの間にかいなくなっちゃうなんて絶対ダメ。
気が付けば、私はあの子の名前を呼んで駆け出していた。
「こんど、お家に遊びに行ってもいいかな」
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「プリン。ゼリー。チーズ。アイス。スプラ〇ト。麦茶。卵。ハム。野菜たくさん。果物たくさん。冷凍食品たくさん。夕飯の残り。その他多数」
「えーっと...それはなんの呪文?」
「これの半年間でお前が犯してきた罪の数」
「やだなー、お客さんがきたらそれなりにもてなすのは当然の義務じゃないデスか」
「ほう、人の家に押しかけてきて勝手に冷蔵庫を漁って持ち帰るのを見逃すのがあたしの義務だと」
「いいじゃんか減るもんじゃないし!」
「減るんだよ!冷蔵庫の中身もあたしの金も!!毎日通帳から3000円以上消えてく気持ちがお前にわかるか!?」
「なにさなにさ!最初のうちはなにも言わなかったくせに!だったら最初から持ってくなって言えってんだ!」
「それとなくやめてくれって何度も言ったぞ」
「もっと分かり易く言わないとわかるわけないでしょ?殺し屋のくせに一般的なコミュニケーション能力が足りないよ」
「見逃してやってたのになんであたしが責められるの!?図々しいにもほどがあるだろ!...あー殺してえ。殺すかぁコイツ」
「ほほう。殺し屋ともあろうものが約束を反故にしますかな?私は忘れてないよ!『私が殺し屋であることをバラさないでくださいお願いしますなんでもしますから』って震えて書いたあんたの姿をね!」
「えーっと組織の番号は」
「ごめんなさいぃぃぃ!私が悪かったですぅぅ!!」
「じゃ、今まで盗んだぶん弁償してもらおうか」
「えっ、そんなのぜんぶ覚えてるわけないじゃん。食べたものを戻せるわけもないし。なに言ってんの?」
「......」
「あっ、ちょ、待って。ナイフはダメ!ナイフは!こないだもらったお年玉があるからそれで勘弁...うわ~~~~~ん!殺し屋で遊ぶのはもうコリゴリだぁ!!」
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