第2話 倫子の場合

倫子はいつものようにパタンナーとしての仕事を終え、帰路をゆっくりとぶらついて歩き、家路に帰っていた。


倫子は道中で入ったことのない店に入るのが好きで、様々な場所を冷やかしていた。今日は居酒屋だった。たったひとつ違うのは、花輪町にある居酒屋「路上」であることくらいだった。


倫子以外の客はおらず、倫子はカウンターで1人チビチビとレモンチューハイをやっつけている。寂しいわけではない。どうせどこにいても誰かと繋がっている。スマホからは時折LINEの通知音が鳴るし、ツイッターやインスタグラムを覗けばSNS上で仲の良い誰かとやり取りができる。むしろ、帰り道くらい1人で居たかった。誰とも繋がりたいと思わなかったから、電話の着信音が鳴らない限りは帰り道ではスマホを見ないようにしていた。緊急であれば、電話くらいかけてくるだろうからだ。


倫子は27歳で、服飾関係の専門学校を卒業後すぐに現在の会社に就職した。パタンナーとして働き始めて5年目になり、チームを任されることもあり、仕事は充実している。定時になれば余程仕事が詰まっていたりトラブルでもない限り帰れるし、だからこそこうやって帰り道にぶらぶらすることもできる。


しかし、だ。果たしてこんなのでいいんだろうか?帰り道に入ったことのない店に入る。気に入れば再度行くこともあるが、大抵は1回で終わりだ。約束でもしていない限りは1人で、こういう感じで帰り道にぶらぶらし出してから1年くらいになるが、段々と飽きてきた。こうして入った店の料理とかをSNSに投稿して、いくつかのいいねとメッセージが返ってくる。最初は嬉しかったが、次第に慣れてきて、飽きてくる。そして今飽きている。


こんなどこにでもある居酒屋に一体何があるんだろう?ただ1人で料理を食べて、お酒を飲んで。ただそれだけじゃないか。何になるんだろう。何も無い。


「マスター、あたし、今日どうしたらいいんですかね?」


唐突にマスターに聞いてみた。カウンターにはわたし1人で、他には客はいない。マスターは何かを準備している風だったが、別に忙しそうではなかったから思いきって話しかけてみた。マスターは、はあ?と言った後、怪訝そうな表情を向けてくる。ヤバい、この感じ。絶対にかみ合わない系だ。





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