17 再会は通学路にて

 翌日、わたるは高校の正門に向かって歩く途中で、見知った後姿を見つけた。見知った、とは言っても、昨日知ったばかりだ。小さなその背中に向かって、少しだけ小走りする。


「おはよう」


「えっと……風科かざしな渡、さん?」


 意外そうに丸い眼を見開いたのは、刻世ときよだ。やっぱりそうだ。彼女は同じ学校の生徒だった。


「同じ学校、だったんですね」


「ああ。俺は2年。君は、リボンの色からして――」


 2人の通っている市立雨ノ傘あまのかさ高校は、学年に応じてネクタイやリボンの色が違う。現在は、3年生が青。2年生が緑。1年生が赤だ。年によって、これらが1つずつずれたりする。


 刻世が付けているリボンは赤いので、


「1年生です」


 ということになる。


「うん……」


 会話が止まり、何か話題がないか探す渡。


「1年ってさ、今どんな授業してるの?」


「三角関数とか、遺伝子とか、そんな感じです」


「ああっそうだ。俺もやったやった。でもさ、俺理数系は苦手で。全然できなかったな」


「わたしも、あんまり得意じゃないです。中学の頃も、平均点がやっとでしたし」


「俺なんか赤点回避がやっとだよ」


 他愛もない会話を続ける。渡はたまに、刻世の顔色を窺ったが、あまり晴れた表情はしていない。楽しくないのか、と少しだけ落ち込んだ気分になる。


 落ちていた彼の肩に、何者かの手がぽんと置かれた。


「どしたの? わたっちゃん」


 同じクラスの三宅だ。その隣には藤木もいる。


「なになに? この子誰、彼女?」


「わたちゃん、いつの間に1年に手ぇ出してたの!?」


 からかって来る悪友たち。そんな彼らの行動を、刻世に申し訳なく思う。


 絡んできた2人の手を払いながら、渡は宣言する。


「彼女なんかじゃないから。お前ら、あんまり変なこと言うなよ。朽木くちきさんも困るだろうし」


 だが、2人を黙らせるつもりが、火に油を注ぐ破目になってしまう。


「そうやって否定するところが、なおさら怪しいですなぁ」


「もう名前まで知ってるんだ。やっぱりただならぬ仲みたいですねぇ」


 苛々とした感情が溜まって行く。冷やかしの言葉を浴びたり、脇腹をつつかれたりして、だんだんと渡の怒りのゲージは募っていく。


 そして、噴火した。


「お前らうるっせぇよ!!! 俺は浮気はしない主義だァァ!!」


 悪友に迫りながら吠える。終えると即座に踵を反し、校門へ向けで全力疾走した。


 後ろから何やら、自分の名前を呼ぶ声が聞こえるが、無視だ。


 自分が真っ赤な顔をしていることに気づかないまま、渡は駆けて行った。

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