13 2人目の魔法使い

 わたるかざりの転生者として覚醒してから、2週間が経った、6月の下旬。


 渡はブライトコクーンを使って飾へと姿を変え、どこだかよく分からない、異空間のような場所にいた。


「はああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!」


 飾は片腕で鎌を起用に振り回し、周囲の黒い人影を切り裂いた。


 だが人影は後から後から湧いて来る。


『なんすかこいつら! 凄いしつこい!』


 今は彼女の内側にいる渡が、共有している視覚から見えるものについて訴える。


 真っ黒なマネキンだった。それが赤だったり青だったり、目がチカチカするくらい様々な種類の色のマントを羽織っている。背丈は飾と同じくらいから、少し小さいもの。倍の高さはあるものと、それも多様だ。


「こいつらは『人呑みサーカス』という災禍の化身だ。分類的には、幻の化身になる」


『幻? レアものか何かなの!?』


「そういう幻じゃない。人間に幻覚を見せて誘い出し、食ってしまう。危険な連中だ」


 2メートルを超える人影――サーカス団員が3体、襲いかかって来た。それも左側から。


「こいつらっ! どこからなら反撃されにくいか、学習し始めてる!」


 飾は隻腕で、左腕がない。従って武器を振るうのは右側がメインとなり、左側への反撃には向いていない。気づいていても、対応が遅れてしまった。


「まずっ………………!」


 このままやられてしまうのか、そう思った瞬間だった。




「ウィップ・インパクト!」




 地面から突然、蔓が生えてきた。細くて小さいものではない。直径1メートルはあろうかという、超巨大な蔓だった。それらが団員を薙ぎ倒していく。


 飾が「この魔法は――」と呟く。何か覚えがあるようだった。


 そう、魔法。飾が使うのは風や大気を操る術だ。蔓なんて、植物を操る力は持っていない。つまりこれは、


『俺たち以外の、転生者?』


 渡の予想通りだった。遥か後方から、人間が走って来る音がする。飾が振り向くと、その先には翡翠色の短髪の青年がいた。巨大な三つ又の槍を携え、ジャンパーに軍手、ジーンズに長靴と、まるで農作業でも始めるかのような格好をしている。


ひじりか!!!」


 飾が叫ぶ。それが聞こえたのか、翡翠色の青年はパチリとウインクした。


「久しぶりだね、飾ちゃん!」


「君はいつの間に…………」


 驚いて立ち竦んでいる飾を追い越し、聖は団員の群れに飛び込んでいく。


「ルート・バインド!」


 術名を叫びながら槍を地面に突き刺す聖。すると地中より、巨大な木の根の群れが現れた。だがそれらはあまりにも大きすぎる。1本が10メートルを軽く越している。箸でハエを捕らえるのが難しいように、団員たちは木の根と根の間を器用にすり抜けていく。


「くっそ――。だったら!」


 聖は一度槍を地面から抜き、今度は虚空へと突き出す。


「ブランチ・ピアス!」


 術名を唱えた直後。根は動きを止めた。代わりにそれらの至る所から、大きさ太さ様々な枝が生える。その内の1本が、赤マントの身体を貫いた。


「ヒエエエエエエエエエ!!!」


 それが断末魔の叫びだったのか、枝に串刺しにされた団員は動かなくなる。傷口からは溶けた蝋のような血が流れていた。


 サーカス団員の声を聞いた飾は、そこでようやくハッとして、早足で聖に駆け寄る。


「聖。君も転生していたとは、思いもしなかったよ」


「俺もだよ、飾ちゃん。俺たちずっと1人で戦ってきたんだから」


「いつの間に覚醒した?」


 うーん、と聖は考え込む。


 その隙を狙って、小学生くらいの背丈のオレンジの団員が忍び寄って来た。気が付いた飾が、鎌を振るう。


「ハリケーン・ヨーヨー!」


「ヒャアアアアア!!!」


 2、3人の人影が切り裂かれた。


「ありがと。それで、俺たちは――」


「ブラスト・スクリュー!」


 再び襲いかかって来る敵。


「ああっもう! 話は後だ、まずはこいつらを殲滅する!」


「おっけっけ~。でもさぁ、俺細かいヤツ相手にするの苦手だから。俺の術で行動範囲を制限するから、あとは飾ちゃんに頼むよっ」


「…………心得たっ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る