7 出会い③

「訊いても、いいすか?」


「どうしたい?」


 わたるはふと疑問に思ってしまった。女性にこんなことを尋ねるのは失礼かもしれない。けれど、訊かずにはいられなかった。


かざりさんて、何歳すか?」

 

 目を見開いて、きょとんとする飾。知識にないことを問われたみたいだ。


「そうだな――――」と、真剣に考え始めてしまう。


 渡は困惑した。まさかそこまで熟考するような質問だとは、思っても見なかったからだ。本当に年齢を覚えていないのか、それとも誤魔化し方を考えているのか。


 だが、とても後者には見えない。やはり正確な歳を覚えていないのか。


 しばらくして、思いついたのか、目を合わせてきた。


「強いて言うなら、享年23歳だな」


「へっ?」


 今度は渡が、目を見開いて、きょとんとする。


「だって私はもう死んだ人間なんだ。この世界には存在していない。獄世渡龍と戦い、戦死した際は23歳だったのだから、この表現が最適と思ったのだが」


 そんなことを言われても……。確かに、彼女の言っていることは間違ってはいない。だが、今渡の目の前にいる飾は、確かに生きているように見える。なのに、既に死んだ人間だからと、きっぱり宣言されても、返事のしようがない。


「そんなに驚くことだったかい?」


「いや……何か、ごめんなさい」


 謝られた理由が分からないのか、飾は首を傾げる。彼女、しっかりしているようで、実は天然なのでは――と、渡は思い始めた。


 少しずれてしまった論点を修正しよう。


「飾さん、歳の割には大人びてますね」


「それは私が老けている、と言いたいのかい?」


 からかっているかのような口調。彼女も本気で発言した訳ではないだろう。


「何だか、すごく長生きしているような、そんな感じっす」


「まあね。短い年月で、色々重ねすぎた。生きていく上での喜びも、悲しみも、全部味わってしまったろうね」


 彼女はさっき、「戦えない誰かに代わって、自分が戦う」と言っていた。だが、1番力を欲し、戦いに赴いていたのは、飾自身なのではなかろうか?


 失礼なのは承知の上で、渡はさらに深くまで踏み込もうとする。


「家族や、恋人は?」


「当然、もう皆死んでるさ」


「前世では、どうだったんですか?」


「私が幼いころに、父も母も鬼籍に入っていた。私と姉は、祖母に育てられたんだ」


 しばらく、飾の生い立ちが語られた。


 祖母と姉との三人暮らしで、幼い頃は過ごしていた。3つ上の姉は、20歳になると同時に、結婚して家を出た。飾は姉がいなくなった後、魔法使いの免許を取得し、活動を始めた。彼女が21歳の時に祖母が亡くなり、それ以降は独りで暮らしていたらしい。


「恋人は、私と同様に魔法使いとして活動していたんだ。世界が破壊される、その日まで。ずっと一緒に」


「それじゃあ、もしかすると――」


 その人も転生して、この世界のどこかにいるんじゃ。渡はそう言いかけた。だがその発言よりも前に、飾が「いいえ」と否定をする。


「彼は獄世渡龍ゴクヨトリュウの闇に飲まれる前に死んだ。世界の再構築に巻き込まれて転生していることは、絶対にない」


 仮に転生していたとしても、会えるわけがないさ。そう付け加える。


 たくさん、辛いことを話させてしまったと、少しだけ後悔する渡。残酷なことをしてしまった。もし、自分にこんな過去があったとしたら、誰かに問われても絶対に答えない。堅く口を閉ざして、自分の心の奥底だけに仕舞い込んでおく。


「ごめんなさい」


 思わず謝罪の言葉が漏れる。


「俺が無神経でした……」


「いいや。ずっと秘密にしておく訳にもいかないからね。早めに話せた方がいい」


 そんな彼を、飾は力なく微笑んで許してくれた。


 その笑顔に、温もりは感じられなかった。

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