第10話 異形の街の問題児
自分たちの住居と仕事を手に入れ、無事に異形の街での生活が軌道に
乗り始めたエウ一同。
彼女は生まれた環境から不思議なことに慣れていたものの、やはり初めは何処かに不安も抱えていたが、自分のことなど関係なく受け入れてくれたこの街の姿を見て
エウ自身も居心地の良さを感じ始めていた。
そんなある日、エウは賑やかな街の中を歩いていた。
彼女の持つ鞄の中にはオスランスが入っているが、彼は静かにエウの行動を
見守るだけであった。
エウが街の広場を横切ろうとしたその時、普段の様子と違う広場の光景を
見た彼女はふと足を止める。
(……?)
広場に集まる異人たちとそこから聞こえる騒がしい声。
気掛かりになったエウが広場の方へ近寄ると、その周囲の異人たちが顔を
こわばらせながら広場の中心へと視線を向けていた。
合わせてエウも視線を向けると、広場の中心には向かい合うように2つの
影が並んでいた。
その影の正体は互いを睨み合う2人の異人。
明らかに怒りの感情を表にした気の強そうな女性と、そんな彼女とは対照的な
冷たい表情を浮かべた女性であった。
外見だけを見ればエウと年齢が変わらなそうな2人であるが、まるで魔族を
思わせる美しくも恐ろしげな風格からは力強い威圧感を放っていた。
「もうアンタとの縁はここまで! 今日という今日は泣かしてやる!」
「今の言葉、そのまま貴女に返す……」
片方の女性が声を荒げると、向かいに立っていた女性も煽るような態度で
言い返した。
「あの……何があったのですか……?」
「……!?」
言い争う2人の異人に突然向けられた問い掛けの言葉。
2人が声の主へ鋭い視線を向けると、そこへ立っていたのは自然と彼女たちの
前へと近寄っていたエウであった。
心配そうに2人の様子を伺うエウに対し、女性たちは変わらずの険しい目付きで
言葉を返す。
「……アンタ誰?」
「……何かご用?」
まさに険悪な状態の2人であるものの、何処か気の合った態度で問い掛ける
2人の女性に、エウはなだめるように声を掛ける。
「すみません……通りすがりの私が口を挟むべきではないことは十分招致
なのですが……」
彼女たちが放つ力強いオーラとその口ぶり、そして周りで見ている異人たちの不安そうな表情から2人が争えば街もただでは済まないことをエウは悟っていた。
しかし、エウが言葉を続けるよりも先に彼女たちが口を開く。
「アンタが出てきた所で何の解決にもならないから」
「そう、だから怪我したくなかったら帰って」
冷たい言葉であしらう2人に対して苦い顔を浮かべつつも、なおも退こうと
しないエウの姿を見た彼女たちは諦めの表情を浮かべた。
「分かったわ……」
「うん、もういい……」
2人の女性はそう呟くと、再び息のあった態度でエウを睨みつけた。
「邪魔だから先にアンタを黙らせる」
「覚悟して」
「え!? ちょっと!? 待って下さい!」
全く自身の言葉に耳を傾けようとしない2人の異人にたじろぐエウ。
2人がエウへと牙をむこうとしたその時、突然3人の女性の身体が眩い光に
包まれた。
(……!)
自身へと差し込んだ光に驚いたエウはとっさに目を伏せる。
少ししてエウがゆっくりと顔を上げると、その視界に映ったのは自身を囲うように出現していた光の障壁であった。
(……え? 一体何が起きているの?)
エウが不思議そうに周りの障壁を見回していると、そんな彼女の理解よりも
先に外の様子を遮っていた光の障壁は消え去った。
エウの視界に再び映る広場の光景であったが、その足元へ視線を向けたエウは
驚愕する。
そこには先ほどまで自身に鋭い態度を向けていた2人の女性が目を回して
倒れていた。
突然の事態にエウは慌てて彼女たちへ駆け寄ると、目の焦点が合わぬままの
2人へと声を掛ける。
「だ……大丈夫ですか!?」
「心配はいらない、すぐに目を覚ます」
そんなエウの呼びかけに答えたのは2人とは違った凛とした声であった。
その声にエウが視線を向けると、そこに立っていたのは1人の女性。
倒れている2人と同族の姿であるものの、彼女たちより遥かに貫禄のある
凛々しい雰囲気をもつ存在であった。
心配そうな顔を浮かべたまま自身を見据えるエウの姿を見て、女性は口を開く。
「よかった……どうやら怪我は無いみたいだね」
「はい、少し驚いただけです」
エウの返事を聞いて女性は安堵の表情を浮かべると、今度は呆れた声で
再び口を開く。
「……本当に済まない、部下が大変な無礼をした」
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