第9話 雇傭

 ストレジアの頼みによって、屋敷の奥にある部屋へと訪れていたエウと

アフィエス。

 2人が部屋へ足を踏み入れてしばらくが経った頃、そこには地に足を付ける

2体の魔導人形の姿があった。


「ありがとうございます! 歩けるようになりました!」

「お……おお! 動く!  ありがとうございました!」


 感謝の言葉と共に何度も頭を下げる人形たちを見て2人の人形師が

安堵の表情を浮かべていると、エウは作業中に感じたある疑問を問い掛ける。


「あの、何があったのか聞いても良いですか? 随分と身体に不自然な負荷が

掛かっていたようですが……?」

「あ……それはですね……」


 エウの問いに人形が苦い顔を浮かべながら答えようとしたその時、部屋の扉を

静かに叩く音がすると、その扉を向こうから一同が予想した通りの人物の声が

聞こえてきた。


「入っても大丈夫かしら?」

「はい! もう終わりました!」


 聞こえた問いに慌ててエウが答えると、開かれた扉からストレジアが姿を現した。

 彼女は一同の様子を見ると、冷静な声で口を開く。


「無事にこの子たちの身体を直してくれたようね……ありがとう、助かったわ」

 ストレジアは人形師たちにそう告げると、今度は人形たちに困ったような視線を

向ける。


「貴方たち……いつも一生懸命なのは助かるけど、自分たちの身体のことを第一に

考えて頂戴、こんな大切な日にも手や足を折ることはないでしょう……」


「す、すみません……活動している内に何でも出来る気になってしまって……」

「いくら貴方たちがやる気を出しても、自分たちの身体が耐えられるようには

出来ていないのよ」


 ストレジアの返した言葉に人形たちは反省の顔を浮かべると、ストレジアは再び

人形師たちへと向き直った。


「ごめんなさいね、せっかくの日にこんな所を見せてしまって……この子たちは

どうにも元気がありすぎて自分の身体が耐えられない程の行動を起こしてしまう

時があるのよ、それも1度や2度の話では無い程に……」


 そう言いながら人形たちを横目に見ると、ストレジアは切り替えた態度で言葉を

続ける。

「でも、この子たちがいつもの様子に戻ってくれたみたいだし、貴方たちは確かな

腕を持っているようね……これで決まりだわ、これから貴方たちにはこの屋敷で

働いてもらうからよろしくね」

「……! ありがとうございます!」


 満足そうな表情のストレジアに2人の人形師は喜んだ声で言葉を

重ねると、ストレジアは様子を伺うように2人へと問い掛ける。


「ところで貴方たちは、まだお疲れではないかしら?」

「はい、大丈夫ですが……?」

「僕もまだ大丈夫です……」

 エウとアフィエスがそれぞれ答えると、ストレジアは嬉しそうな顔で言葉を返す。


「それなら引き続き、他の仕事もお願いしたいのだけれど……」


 ……。

 しばらくして街の空が赤く染まった頃、普段の着慣れた衣服を纏い

屋敷の扉から出てくるエウの姿があった。

 屋敷で起きた出来事を振り返りながら歩みを進めるエウであったが、そんな彼女の視界の先で、アフィエスが夕日に照らされた屋敷を真剣な表情で見上げていた。


 2人が顔を合わせて労いの言葉を交わすと、アフィエスが穏やかな口調で

口を開いた。

「今日は驚かされてばかりでしたが、何とか使って頂けるようで良かったです」


 彼の安心した声にエウが同意の態度を示すと、アフィエスは何かを思い出した

ように言葉を続ける。

「これは失礼、名乗るのが遅れていました……アフィエス・ビルマです」

「いえ、私の方こそすみません……エウヘルピア・フォスコです」


 慌てて名を交わし、互いに差し出された手を握り返す2人の人形師。

 この時、2人が互いに感じた密かな疑問が確信へと変わっていた。


(間違いない……この人も人間だ……)

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