第8話 屋敷の初仕事

 ストレジアから手渡された衣服に着替え、再び彼女の前へと姿を現したエウ。

 その横には、エウと同じように着替えを終えたアフィエスの姿があった。


「思った通り、2人ともぴったりね」

 自らの見立てで手渡した衣服を纏う2人の姿を見て、ストレジアは満足そうな

表情を浮かべる。


(やっぱり……この服って……)

 自身の衣服を尚も複雑な顔でエウが見据えていると、その様子に気が付いた

ストレジアはエウへと問い掛ける。


「あら? お気に召さなかったかしら?」

「いえ、そういう訳ではないのですが……この服は高価なものなのでは……」

 自身の考えを正直に伝えるエウに対し、ストレジアは微笑みながら答える。


「古いものだから別に気にしなくて大丈夫よ! でも綺麗にお洗濯したもの

だから安心して!」

 そう言いながらストレジアは2人の様子を伺うと、再び真面目な顔で説明を

始める。


「これから貴方たちにお願いしたい仕事は、私と一緒にこの屋敷の管理と魔導人形

たちの様子を診てもらいたいの」

「事前にうちの子から聞いたと思うけど、基本ここにいる人形師は私1人だから

中々大変な状況なのよ」


(今までこの数の人形たちを1人で……?)

 ストレジアの周りに立ち、2人へ嬉しそうな視線を向ける人形たちを見て

エウとアフィエスは目を丸くする。


「……それで最初のお願いなのだけど、早速診てもらいたい子たちがいるのよ」

 ストレジアは少し呆れた顔を見せると、屋敷の奥に見える部屋の扉を指した。


「あの部屋の中にその子たちがいるからお願いするわ、分担とかは貴方たちの

好きなように決めて頂戴」

 エウとアフィエスは重なった返事をストレジアへ返すと、指された部屋の方へと

歩いて行った。


 静かに扉を開け、中の様子を伺う2人の人形師。

 2人の視線に映ったのは、正面に設置された低い椅子に俯いて座る2体の

魔導人形だった。


 人形たちはそれぞれ脚部と腕部を損傷しており、その痛々しい姿にエウと

アフィエスは苦い顔を浮かべながら慌てて駆け寄ると、2体の人形は顔を上げて

2人へと視線を向けた。


「来て頂けて光栄です……すみません……」

「折角の日に……こんな姿になってしまって……」


 申し訳なさそうな態度で口を開く人形たちを見て、エウとアフィエスはある事に

気が付く。

 自分たちの前にいる2体はそれぞれエウとアフィエスに用紙を手渡した人形で

あった。


 2人は自分たちの事とストレジアから受けた用件を伝えると、人形たちは更に

辛そうな表情を浮かべた。

「そうだったのですが……ストレジア様、ご立腹だったでしょう……」

「さすがに……もう直してもらえないかと思ったよ……」


 知らずとも明らかに普段と違う2体の魔導人形の様子に、エウと

アフィエスは顔を見合わせる。

「……始めましょうか」

「……はい」


 2人の人形師は簡潔な言葉を発すると、それぞれが身に着けていた自身の

仕事道具へと手を伸ばした。

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