ブドウ味の炭酸。
同じ音楽をリピート再生する紫色のヘッドホン。
ワイヤレスのそれは3万位した気がする。
今日は最近インスタの広告で知った若手シンガーソングライターのある1曲を延々と流している。
僕は音楽が好きだ。
音楽は僕をいい塩梅で僕の世界に閉じ込める。
バスや電車なんか特に。カフェや図書館なんか特に。一人ぼっちの部屋や僕以外の家族が談笑しているリビングなんか特に。
毎日の僕を彩る音楽は毎日ピタッと嵌るものでなければならないのが僕の
そうでないと「ん?」っていう心地がする。胸がこそばゆい。そんな心地がする。
だから僕は毎朝いくつかの曲のイントロを品定めするように流す。
今日の僕を彩るBGMを決めるために。
音楽は僕にとってファッションだ。見えないファッションなのだ。
今日、自宅で選曲に迷っていたら家を出る時刻になっていた。
「遅刻」見慣れた二文字が脳裏に過った。
僕はお気に入りのヘッドホンを首にかけ、ゆっくりと靴を履いた。
ペパーミントグリーンのコンバース。
サイズは1cmほど大きかった。現品限りだった。でも気にしなかった。
そうして買ったコンバース。
数秒後、靴を脱ぎ、過ぎたはずの台所へと戻った。
おもむろに冷蔵庫を開け、利き手で取り出したブドウ味の炭酸。
週一で飲む僕のお気に入り。
僕は水筒代わりにそれを持って再びくたっとして佇んでいた靴に足を通す。
玄関の戸を開ける。
左側には傾斜何十度かの坂道。
僕の目の前をスケートボードに乗った少女が通り過ぎていく。
僕は汗をかいた炭酸をそのまま大きめの黒色のリュックに雑に入れ、彼女についていくかのように学校へと向かった。
きっとリュックの中では日本史の教科書が湿っているだろう。
そしてそのうちパリパリになるだろう。
久しぶりにチャイムの音を聞いた。
坂の上の学校のチャイムが聞こえた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます