少女コーラ

僕は屋上の住人。


いや、屋上の主と言ってもいい気がする。


黄色と黒のテープを始業のチャイムの5分後くらいにくぐって、廃材同然の机に腰かけるのが僕の日課だ。



僕がこの生活を始めたのはちょうど1年くらい前、高校2年生の夏休み前だった気がする。


それまでの僕は、スカートはひざ下、黒縁眼鏡の無遅刻無欠席。成績も中の上、生徒会候補とまで噂された9割方完璧ガールだった。



でも本当は胸の内でしゅわしゅわしたものがくすぶっていた。


真っ黒な心の中でくすぶっていた。



シュパッ。


僕は赤いラベルの炭酸のキャップをひねった。


カラカラになった口に間髪入れずに流し込む。


液体から弾けだした二酸化炭素が口の中で踊る。


コーラは僕の退屈な日常を少しだけ愉快にしてくれる。



もともと窮屈な家庭で育ってきた僕。


ありがたいことに何不自由は無かったが、敷いたレールを歩かせようとする母と、僕の意見を頭ごなしに否定する父。


二人の口から発せられる刃に独りで耐えるのが限界に達したのもちょうど1年程前。


プツン、と糸が切れるとかよく言われるけど、

僕の場合は弾けだした炭酸のように何かが爆発した。


僕の心臓にガラスのように減り込んだ破片は取り除かれることは無かったけれど、屋上の錆びかけのフェンスに背中を預けて見上げた灰色の空は僕に安心感を与えてくれた。



全頭ブリーチで金色に染めたショートボブ、膝上丈のセーラーのスカート。裾には白いレースを縫い付け、黒いニーハイの下に目をやると、6cmの厚底ローファー。



これが僕だ。


いつもと同じ今日を、いつもと同じ本当の僕が迎える。


もう一度黒い液体を口に含む。


甘さが痛いほど胸に滲みるときもあるけれど、僕はその虫歯になりそうな甘味が深く刺さった透明な刃を溶かしてくれることを素直に願っている。




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