Be炭酸

桜居 あいいろ

少年クリームソーダ

この世界から消えたい、そう思ったことはあるだろうか。


僕は。


何度あっただろうか、なぜそう思ったのだろうか。



僕は先の折れた赤いストローをくるくると回しながら、緑色の液体の上で転がるバニラアイスを眺める。


ふつふつと生まれる泡に見とれていると時々ストローを押し上げる力に圧倒されそうになる。


僕もコップから吐き出された二酸化炭素になって空気に溶け込んでしまいたい。


僕もこの苦手なコーヒーの香りで満たされた空気の一部に生まれ変わりたい。



ぼぅっと目の前の窓の先を見る。


花屋のパラソルの日陰では黒猫が火照った身体を伸ばしていた。


僕は白シャツの袖を捲ろうとして半袖を着ていたことに気付く。


もうそんな季節なのだ。


じっとガラスの先を見つめていると、僕が見ている外界は少し先の未来のように感じてしまう。


僕だけ少し、置いて行かれているような心地がしている。



暇を持て余した僕の手は再びストローを回し始める。


カランカラン、カランカラン。


氷が無いために聞こえないはずの音を再生する。



ストローはゼンマイ。


オルゴールは頭でっかちな僕に彩りを与える。



スーッと目の前を過ぎてくセーラー服の少女はスケートボードに乗っている。


うつむきながらその後に続く少年は紫色のヘッドホンを身に着け、大きな黒いリュックサックに背負われている。



僕は右手首の真新しい白い文字盤を確認するふりをして席を立つ。


店を出ると左側には太陽を帯びた長い坂道が広がっていた。


僕は斜めに建てられた赤い自販機とすれ違いながら、重くもなければ軽くもない足取りで進んでいく。


いつも通りの今日が、今日も始まる。


始業のチャイムが僕の脳内に響いた。







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