コールド・ケース
ウッカリデス
コールド・ケース
「うわー、こりゃひどいもんスね」
自分と組んでいる年若い刑事は現場に着くなりそうこぼした。
都市部から少し離れた、薄汚れた倉庫。
そこに少女二人の亡骸が横たわっている。
二人とも制服姿だが、学校は違う。一人は地元の高校、もう一人は有名なお嬢様学校だ。
そしてその制服は、どちらも真っ赤な血にまみれている。
"彼女"の捜索願が出されたのは昨日、地元住人から通報があったのが数時間前で、近隣にいた自分たちが駆けつけたのが数分前。
さらに冬の気温も手伝って、長い刑事生活でも類を見ないほどきれいな遺体だ。
「しかしどういった関係なんだか。痴情のもつれ……じゃないか。刺したほうがどう見ても綺麗すからね。あーあ、しかしもったいない……」
「……ホトケさんに無礼な口を聴くんじゃねぇ」
自分でも怒りのこもった声が出てしまった。
……死んだ少女たちの年の頃は、自分の娘よりも若い。
親御さんの心情を考えると、声も荒くなろうというものだ。
「……もういい。お前は聞き込みに回れ」
そう言い捨てて、付き合いの長い鑑識のおやっさんの元に向かう。
ただ少し若い刑事の言ったことも気にはかかる。
そう、二人の関係がまったく見えないのだ。
ネットで知り合うにしたって、その間には格差という見えない壁があるものなのだ。
「……おう、来たか」
「死因は?」
「見ての通り片方はナイフによる失血、片方は……毒物を飲んだんだろうな。十中八九自殺だ。ただ……」
おやっさんが言葉を濁す。言いにくいことを言うときはいつもこうだ。
「刺された方……地元の高校の制服を着た方には大量の痣がある。……古いのもあったから、恐らくは……親からの虐待、だな」
自分もおやっさんも子供を持つ身だ。表情が曇る。
そしてその推測はおそらく当たっている。
刺された娘の方は、捜索届が出されていない。
……つまりそういう家庭環境ということなのだろう。
「……救いといえば、最後は苦しまなかったことだろう。痛みもほとんどなかったはずだ。言い方が悪いが、見事なもんだよ」
確かに仏の顔はともに安らかなものだった。
……そう、二人とも笑っていたのだ。
「……それは、毒を飲んだ方も?」
「いや、彼女の方は苦しんだはずだ。呼吸が徐々に出来なくなるんだ。大の大人でものたうち回るだろうよ」
だが身なりのよい少女の死に顔は笑みを浮かべていた。
それに発見当時、少女たちは慈しむように互いの体を抱きしめていたという。
そのとき視界の隅に、何かが映りこんだ。
それは束ねられた花の輪。
寒々しく、血の臭の残る倉庫の中で、異彩を放つモノ。
「あれは……?」
「ああ、ホトケさんの横にあったらしい。……上手いもんだな」
何の変哲もない、子供の遊びのようなもの。
だが自分には、それは決して触れてはいけないモノのように感じられた。
……彼女たちの死に顔を思い出す。
これから「事件の解明」の名の元に、二人の関係は調べられ、晒される。
そしてそれは憶測と噂を生み出し、そのうち適当な結論がつけられるだろう。
だが、二人の間に本当は何があったのか、どういう関係だったのか……それはもう誰にもわからないのではないか。
そんな確信めいた予感が、脳裏に浮かんだまま消えなかった。
コールド・ケース ウッカリデス @ukkaridess
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