バルド家全員参加7
「旦那様、借りていた本を返しに参りました」
「早いな。もう呼んだのか」
書斎にて、旦那様の言葉に冷や汗が流れる。うろついてしまいそうな視線をなんとか旦那様に当て続け、引きつりそうな顔で笑顔を繕う。
「お嬢様は夢中で読んでおられましたから。それから先程宮廷よりライラ様がお帰りになりました。旦那様とお話したいことがあると呼んでおられましたが」
「そうか――、分かった」
旦那様は立ち上がると扉を開けて去っていく。私はガッツポーズをした。あとはライラ様が時間を稼いでくれている間に本を返すだけだ。
本棚に本を押し込んだ。なるべく目立たないように、気づかれないように――、よし完璧だ。
本棚を眺めてほっと息を吐いたとき、突然扉がノックされて心臓がはねた。
「リーフさん!」
ひょっこりとマリーが顔をみせる。私はさっと本棚から離れて、どうしたのと尋ねた。マリーはとても嬉しそうな顔をして、じゃんと手にもっていたものを見せる。
「お嬢様から招待状をいただいてしまいました!」
マリーが両手で掲げているのは手紙だった。
「お嬢様から? お嬢様宛てではなく?」
「いいえ、お嬢様から私たち宛てです」
よく見ると手紙にはお嬢様の筆跡で私とマリー、レオンの宛名が書かれている。
「どういうこと?」
「明日うちのお庭でお茶会をするんですって。主催はお嬢様とライラ様。旦那様も使用人もメイドも騎士も家令も馭者もシェフも――、バルド家全員参加。明日はみんなお仕事お休みしてお茶会に参加するんだそうです!」
「え、みんな休み?」
私は目を瞬いた。
「はい。家事とかの普段の仕事も、お茶会の準備片付けも、宮廷や他の屋敷で働いている人に出張を頼んだそうですよ。だから明日はみんなお休みで、楽しくお茶会しようってお嬢様が」
最近お嬢様が忙しそうだったのはこれだったのか。ライラ様も「明日大事な用があるから帰ってきた」とさっき言っていたし。
私に書類や手紙の処理を手伝わせてくれなかったのは、ぎりぎりまで秘密にするためだったのかもしれない。なんとなく腑に落ちた。
内緒で準備を進めて、私たちを喜ばせようとしてくれたのだろう。
「お嬢様――」
胸にこみあげてくるものがあった。やっぱり私はお嬢様が大好きだ。
「あ、でもリーフさん。お嬢様が私たちには一つお仕事を頼みたいって言ってました」
「仕事?」
「フルーツ大福が食べたいんだそうです。明日作ってほしいって。食材も用意してあるそうですよ」
「パティシエが作ったお菓子があるのに私も作るの?」
「大丈夫ですよ、リーフさんのお菓子美味しいから。私とレオンも手伝いますし!」
「そうね――」
プロが作ったものの横に素人のお菓子が並ぶなんて恥ずかしいが、お嬢様が望んでくれるのならばやるしかない。それに、お嬢様が私のお菓子を食べたいと言ってくれるのは素直に嬉しい。
「お嬢様の仰せのままに」
ふふっと私たちは笑いあった。
バルド家全員参加のお茶会。賑やかになりそうだ。
(バルド家全員参加 了)
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