バルド家全員参加5

 私は日記を閉じた。

 ふとドアがノックされて、レオンが顔を出す。


「リーフさん、ちょっと聞きたいことが――」

「レオン。ちょうどいいところに。ちょっといらっしゃい」

「はい? ――え、ちょっと、リーフさん?」


 レオンを横に座らせて、その頭を撫でまくった。もしゃもしゃと無心で撫でる。


「リーフさん、どうしたんですか」

「うん――ちょっと、撫でさせてて」

「はあ」


 困ったような顔をしながら、それでもなにかを察してかレオンは大人しくなる。


 旦那様の苦悩は分からないでもない。バルド家当主としての縛りは私の想像できる範囲を越えているだろう。周囲のプレッシャーなんて計り知れない。


 当主だからこそ生まれた関係。もし自分が当主でなくなったのなら破綻するかもしれない関係。そんな旦那様と奥様の関係は、ディーと私の関係に似ているような気がした。


 私の「音」がなければディーは私と一緒にいてくれないのではないかという不安、悔しさ、寂しさ。それはよく分かる。


 でも私にはお嬢様がいてくれた。お嬢様が、そうして作られた関係から本物の縁を結べばいいのだと教えてくれたから、私はディーといても悩むことがなくなった。旦那様にはそれを教えてくれる人がいなかったのだろう。


 だがそれにしたって旦那様は不器用で馬鹿だ。


「あー、もう、むしゃくしゃする」

「大丈夫ですか?」

「ええ――」


 旦那様はまだ、敷かれたレールを進んでいるのだろうか。自分には周囲によって作られた関係しかないのだと思っているのだろうか。


 ――いや、多分もう大丈夫だろう。


 レイチェルお嬢様もライラ様も、自分で道を選んで進んでいる。旦那様ともきちんと自分の意志で向き合った。それは「バルド家当主」という存在ではなく、旦那様自身と向き合ったということ。旦那様にもそれは伝わっているはずだ。

 旦那様にはもう彼自身の縁がたくさんある。

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