バルド家全員参加4
奥様が死んだ。
このときばかりは旦那様も消失感があった。
彼女を憎んでいたわけではない。嫌っていたわけでもない。死ぬには惜しい人だったと思う。
レイチェルお嬢様は泣いていた。だがずっと娘に接してこなかった旦那様には、お嬢様への接し方など分からなかった。
それに政略結婚によって生まれた娘なのだ。周囲によって作られた親子関係。どうしても近寄ることができなかった。
それでもお嬢様が泣かないように、なにかしなければというだけの心はあった。家族を亡くして寂しくて泣くのであれば、家族を増やしてやればいい。アンナ様もライラ様も優しい人だ。すぐに打ち解けて、母を亡くした悲しみも薄れるだろう。そうして旦那様はアンナ様たちを迎えた。
自分が選んだ女性とその娘がいる屋敷はすこしだけましに思えた。
けれど、旦那様の思いに反してレイチェルお嬢様と新しい家族は打ち解けなかった。無性に腹立たしかった。彼女さえ打ち解けてくれれば、この屋敷の息苦しさもなくなるかもしれないのに。
そして、アンナ様が死んだ。
世間が言うには、先妻の呪いなのだそうだ。
やっと自分の居場所ができたと思ったのに。やっと自分で手に入れたと思った幸せが崩れていく。バルド家という家に縛られる。自由を邪魔される。結局どこまでいっても自分は縛られるのだ。
縛られることを拒めない自分も憎かった。本当に嫌なのであればバルド家を捨てて逃げ出し、ただの一人の男になればいいものを、それをすることができなかった。バルド家当主の肩書は重荷であるはずなのに、それをなくしたら自分にはなにも残らないような気がした。
ああ、腹立たしい。
すべてが腹立たしくて、憎らしくて、疎ましい。
そうして旦那様は自分を見失って、世界を嫌って、堕ちていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます