バルド家全員参加3
――私自身の持ち物は、いったいどれだけあるのだろう。
旦那様は上流貴族バルド家の後継ぎとして生まれ育てられた。貴族としての模範、後継ぎとして相応しい子ども。周囲が旦那様に望んだのはそういう型にはめられた子どもだった。
周囲の期待には応えなければならない。周囲が望む自分にならなくては。
敷かれたレール。周囲に望まれるがままに作られていく「自分」。
そのうち、なにが本当の自分なのか分からなくなった。自分の意志はどこにあるのか。自分の居場所はどこにあるのか。今ここにいる自分は、本当の自分だろうか。すべて作られたものではないのか。
大人になり妻をめとった。奥様は優しく月のように美しい女性だった。
けれどそんな奥様だって、結局は政略結婚。周りによって決められた結婚相手だ。自分自身で選んだわけではない。自分がつくった縁でも絆でもない。この夫婦関係は周囲によって作られたもの。敷かれたレールのうちの一つ。自分自身のものではない。これは「バルド家当主」に与えられたものだ。
奥様を嫌っているわけではない。それでも屋敷は居心地が悪い。旦那様は仕事を理由に家に帰らなくなった。
そうした頃、パーティーでとある女性と出会った。それは太陽のように眩しい女性――アンナ様だった。
貴族に妾がいることなど珍しくもない。旦那様はアンナ様のもとに通った。
やっと自分自身が望めたものだと思った。周りに決められたものではない、自分自身のもの。
もしかしたらアンナ様も「バルド家当主」の存在に近寄りたかっただけなのかもしれないと考えがよぎることがあった。それでも屋敷にいるよりマシだった。自分が自分でいられる場所が欲しかった。
奥様との間にレイチェルお嬢様が生まれた。それでも屋敷には戻れず、アンナ様のもとに通うことが多かった。そうしてライラ様も生まれた。
奥様には正妻としての地位、上流貴族としての豊かな生活がある。恵まれている妻よりも、妾として日の当たらない生活を送るアンナ様の方が不憫に思えた。そういう言い訳を重ねて、屋敷には帰らなかった。
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