バルド家全員参加1

(最終話あと)


「失礼いたします。お嬢様がお借りしていた本を返しに伺いました。新しい本もお借りしたいのですが」

「好きにしろ」


 旦那様はそっけなく言って、机の上の書類に目を落とす。私は持っていた本を本棚に戻しつつ、新しい本を物色した。


 最近、お嬢様は幼い頃のように旦那様の書斎の本を読むようになった。ここにはお嬢様好みの本がたくさんあるのだ。なんだかんだ言って、お嬢様と旦那様の読書傾向は似ている。


 いつもならお嬢様自ら書斎で本を選んでいるのだが、最近お嬢様は忙しいらしい。別館の自室で書類や手紙を眺めながら何事かを思案している。なにか手伝えることがあればと言っているのだが、「これは一人でやらなければいけないことだから気にしないで」と言われる始末。使用人としては歯がゆいばかりだ。

 そんなわけで、今日は代理で私が書斎に訪れていた。


「こちらの本、お借りしていきます」

「ああ」


 横並びになっていた本を適当に三冊抜き出して旦那様の書斎をあとにし、別館に戻る。


 レイチェルお嬢様、ライラ様、旦那様の関係が進展しだした今、お嬢様も本館に戻ってきたらどうかと声がかかっていた。だがお嬢様は別館にいることを望んだ。こちらの方が落ち着くのだそうだ。


 その代わり、今までよりも別館にいる召使いは増えたし、たびたび部屋の改修を旦那様が取り計らってくれている。


「お嬢様、本を借りて参りました」

「あら、ありがとう」


 例のごとく自室で手紙を確認していたお嬢様が顔を上げる。借りてきた本を渡していると、一冊私の目に留まるものがあった。


 他の本に混ざり込むように挟まっている薄い本。タイトルもないようだ。気になって、私はその本を手に取った。お嬢様も不思議そうに見る。


「その本は? 表紙もないようだけど」

「さあ、なんでしょう」


 さっと中身をみて――、私は勢いよく本を閉じた。ばんっと大きな音がして、お嬢様が目を見開く。


「どうしたのリーフ」

「い、いえ。この本は――なんでもないんです! 失礼します!」

「え、ちょっと」


 私は全力でその場から逃げだした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る