お留守番のひと時3
「路頭に捨てられていた俺をアンナ様が拾ってくださったんです。あの人は本当におおらかで優しい人だったから。俺はお屋敷に迎えられた頃はなにもできなくて、それが悔しくて、毎日必死でした。どうにか周りを見返してやろうと思って頑張っていたら、それなりに仕事ができるようになっていただけです」
「そうなんですか、じゃあ私と一緒なんですね」
ジルさんはいつも穏やかに笑っていて仕草も綺麗だ。だからリーフさんと同じように、由緒ある家の出身だと思っていた。そんなジルさんが捨て子。信じられないけど、嘘をついている雰囲気もない。
彼が屋敷に拾われた身であるなら、私と同じだ。私も孤児院で育って、奥様がお屋敷に迎えてくれた。
「あなたの生い立ちは聞いていましたから、親近感がわいてしまって。二人で話をしてみたかったんです。無理にランチに誘ってしまってすみません」
「いえいえ、そんなこと! でも、ジルさんはすごいですね。私なんて必死に頑張っているけど、まだまだなんです。お嬢様のお役に立てなくて――」
いつでも頼られるのはリーフさんで、私はなにもできない。リーフさんはそれだけの実力もあるし努力だってしているのだから当然だと思う。だからこれは、私のひがみでしかない。
「焦る必要なんてありませんよ」
ふと、ジルさんは微笑んだ。
「リーフは名家の出身。使用人としての教育を幼い頃から受けているのです。俺たちとはスタートが違う。でも、比べる必要なんてありません。あなたはあなたにできることをすればいいんです」
「私にできること」
「あなたも成長していないわけではないでしょう。お茶も、こうして上手に淹れられるようになったのですから。少しずつ、頑張ればいいんですよ。あなたはきちんと主人のお役に立てていると私は思います」
「そうでしょうか」
「はい」
ジルさんはは紅茶を飲んで、「やっぱり美味しいですね」と笑った。それがとても嬉しくて、私はまた頬が熱くなった。
私は多分、まだまだ未熟なのだと思う。でもジルさんと話していたら、なんとなく気分はすっきりした。あんなに不味いと言われていたお茶も、褒められるくらいになったのだ。一歩ずつでも前に進めているはず。すこしでも、お嬢様やリーフさんの役に立てていると思いたい。
お部屋の掃除に、繕い物に、庭の草むしり。留守番をしている間にやることはたくさんある。やっぱり一人で留守番なのは寂しいし、次こそ私も外出にお供したいけど、それでも今は私にできることをして、小さなことでも二人の役に立とう。
「うん――、私、頑張ります! そのためにも今はお腹いっぱいにして、午後から頑張る! サンドイッチいただきます!」
「はい、どうぞ」
ジルさんは愉快そうに笑ってサンドイッチを差し出した。
(お留守番のひと時 了)
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