あなたと結ぶ1

(本編56話くらい)


 ディーの瞳が苦手だ。すべてを見透かすような深緑の瞳。あの瞳で私をみて、「リーフの音はとても不思議で興味深いのです」と微笑む。


 別館に帰ってきてからディーの顔を思いだして、私は重い息を吐いた。


「どうしたのリーフ。また悩み事? ディーと出会ってから悩みばかりね」


 レイチェルお嬢様は困ったように笑った。この前も、私の「音」についての悩みを聞いてもらったばかりだ。私は前世の記憶をもっていて、他の人とは違う音をもっている。でも、人と違う存在であることを気にしなくていいのだと、お嬢様は言ってくれた。


 でも、私にはまだ他に悶々とした思いがあった。

 情けないところばかり見せてしまって恥ずかしい。


「すみません。大したことではないので――」

「本当に? 言いたいことがあるなら言ってしまいなさい」


 ううと私は唸って頭を抱えた。お嬢様はずっと私の言葉を待ってくれている。恥ずかしくて情けないけれど、そんなお嬢様の気遣いが嬉しくて、私はそっと口を開いた。


「あの――、彼があまりにも私の音の話ばかりするので。――もし私にその音がなくて、普通の人と同じような音をしていたのなら、ディーは私に声をかけてくれることはなかったのかなと、考えてしまって」


 お嬢様は不思議そうに首を傾げた。


 もともとディーが私に声をかけてくれたのは、私が特殊な音をもっていたから。私と一緒にいることを許してくれたのも、私の音を聞いていたいから。私たちの関係は「音」だけで出来上がっている。もし、今の私からその音が消えてしまったのなら、この関係も一瞬で崩れてしまうのだろうか。


 ディーと一緒にいるとそんな思いにかられるようになった。


「ディーは私の音に興味があるだけで、私自身のことには興味がないのかもしれないじゃないですか。それはすこし寂しくて、悔しいんです」

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