第98話 信頼と覚悟をもって
「宮廷のパーティーでライラ様を拝見したとき、妙な音が彼女の周りに漂っていました。レイチェル様からご家庭の事情も聞いていましたし、おそらくは亡くなった母君の音だろうと推察しました。――他でもないレイチェル様の妹君のことですから、なんとかして差し上げたい。しかし私はそういう存在を感じるだけで対処なんてものは知りません。ですから、今回パッサン卿にも助力を願った次第です」
ディーは淡々とそう言って、重い息を吐いた。霊の気配が不快らしい。
視線を向けられたパッサン卿は腕組みをしてふんっと鼻を鳴らす。
「こちらとしても興味深い研究ができるのだから協力する。この状況を打破してみせよう。今、霊の気配を感じられるのはディーテのみだが、それを他の人間にも察知できるようにしてやる。そこから先は――、令嬢が対処するということでいいのだな」
「ええ。わたくしの母がしていることなら、娘であるわたくしが終わらせます」
お嬢様は頷く。
「一体なにをするおつもりか」
旦那様が鋭い声を発した。パッサン卿やディーと親しくない旦那様には、彼らが信用できないのだろう。
「たとえ卿といえども、人の屋敷で勝手なことをしてもらっては困る。大体その芸術家が言っていることが真実なのかどうかも分からぬというのに」
「お父様、パッサン卿もディーも信頼のできる方々ですわ。そんな彼らがライラのためにしてくれているのです。どうか信じてください」
レイチェルお嬢様も負けずに張りのある声で訴えたが、旦那様は鼻で笑うだけだった。
「貴様のすることにつきあえと? それに最後の頼みの綱がお前とは、心もとない」
「わたくしはただ、ライラを救いたいだけですわ」
どちらも引く様子はなく、じりじりと嫌な空気が流れる。
そんな中、「お父様」とか細い声がした。ベッドに眠るライラ様だ。その声に、お嬢様も旦那様も言葉を止める。ライラ様は首だけ動かして旦那様を見据えた。
「私は、お姉様を信じています。お姉様の言うとおりになさってください」
「私からもお願いします。パッサン卿には政務で何度も助けていただいた。ディーテも誠実な人間です。彼らは信頼のできる方だと、私も思います」
ライラ様の手を握りながら王子も頷く。さすがに国を背負う王子に言われてしまうと旦那様も拒否はできない。なにか言いかけた言葉をのみこんで、渋々頷いた。
「始めるということで構わんな。それでは」
ようやく無駄な時間が終わったかと言いたげな表情で息を吐いたパッサン卿が朗々と説明を始めた。
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