第99話 儀式の場

 奥様の魂は今、ライラ様を中心に屋敷全体を漂っているのだという。それは一つの魂が広い空間に散り散りになっている状態。その魂を一か所に集中させれば、私たちでも感知ができるはず、ということだ。


 なんとなく理解はできるが、実際そんなことができるのかと疑ってしまう。そんな私たちをパッサン卿は鼻で笑った。


「貴殿らが理解をする必要はない。早速始めるぞ。エマ」

「はい」


 パッサン卿の言葉に部屋の外から返事がする。失礼しますと声がして、扉が開いた。そこに控えていたのはエマとマリーとレオンだ。


 部屋に入るなり、マリーが部屋中の灯りをおとし、レオンがその灯りに代わるほのかな光源の蝋燭を灯す。エマはライラ様のベッド脇で香を焚いた。不思議な香りが部屋に充満していく。


 そのあとも、部屋のカーテンを閉めたり、家具の位置をずらしたりと、三人はてきぱきと動いた。パッサン卿によると、霊にとって最適な状況を作っているそうだ。


 横で焚かれる香りが強いのか、ライラ様が小さく咳き込む。王子はその頬に心配そうに触れた。


「ライラ嬢の体に障るのではないですか」

「しかしディーテによると最も魂が集まっているのがその令嬢の周辺です。ここでやらねば成功しない」


 それはそうですが、と王子が眉をひそめる。パッサン卿も王子には敬語を使うのかと妙なところに感心した。


 自分の役目は終えたのか、レオンが私の横に来る。


「三人とも、ずっと部屋の外にいたの?」

「はい。さすがに大人数で病人の部屋に押しかけるわけにはいかないということで、僕たちは待機組です。この準備が終わればまた外に出ます。なにかあれば呼んでくださいね。僕も、できることがあればお手伝いしたいんです」


 レオンはそういって、拳を握る。


 なにかあれば、というのはこの状況であれば幽霊が暴れ出すとかそういうことだろうかと頭をよぎる。幽霊相手にもレオンの拳は通用するのだろうか。


「あまり無理しないでね」


 なんともいえず、私はレオンの肩に手を置いた。


 しかし、幽霊が奥様なのであれば暴れることはないように思う。私の記憶にある奥様は物静かで、いつも微笑んでいる人だった。暴れるなんて想像ができない。――それをいうと、今ライラ様を苦しめているのも信じられないのだが。

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