第97話 耳ざわりな音がする2

 ジルがこつんと私を肘でつついて、説明しろと言わんばかりの視線を向けてくる。そんなこと言われても私にだって説明は難しいのだが。私は頭を抱えた。


「ディーは魂の音を感じることができる、いわゆる霊感のある人といえばお分かりいただけますでしょうか。それで私のことは――この際置いておくとして、彼が言いたいのはつまり、この部屋に器をもたない魂だけの存在が漂っているという」


 ふと、私は自分の発言を止めた。

 自分で言ったことを頭の中で反復する。器をもたない魂。つまり、ディーが言っているのは。


「幽霊がいる、ということですか」

「まあ、俗な言葉で言えばそうなるのではないでしょうか」


 ディーは頷いた。部屋の中がざわつく。旦那様さえも動揺の色をみせた。


 ディーがライラ様を気にかけているという時点で、その類の話なのだろうとは思っていた。だがこうして目の前で宣言されると戸惑う。

 私自身、前世の記憶をもっている不思議な存在だ。そんな私がいるのだから、幽霊がいてもおかしくないのだろうが――。


 この国では呪いや悪霊というものがよく噂される。そのせいか、みんな驚き困惑しているものの、ディーの言葉を嘘だと否定する者はいなかった。「冗談であってくれ」という思いが瞳からにじみ出ている。


 お嬢様が重々しく口を開いた。


「本当なのよね。霊がこの屋敷に。それもライラの近くに強く存在している」

「ええ、ライラ様の不調は恐らくその存在が原因かと」

「そう――」


 目を閉じたお嬢様は唇を噛んだ。逡巡して、前を見据える。赤い瞳の奥でなにかが揺らいだ。


「つまり、この屋敷に関係している亡くなった人、そしてなにより今もライラを快く思っていない人がこの状況を作っている――、そんなの一人しかいないわよね」


 震える声が「お母様」と紡いだ。

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