第二部 親子の絆
第95話 お見舞い
ライラ様の体調は相変わらずだ。このままでは本当に消え行ってしまいそうだった。
最近はジルが片時も離れずライラ様に付き添っている。彼の目の下には美形にそぐわないクマまでできていた。夕方になって、私は見かねて声をかけた。
「ジルも休んだ方がいいですよ。ライラ様にはメイドや私もついていますし、なにかあれば知らせにいきますから少しくらい寝てください」
そう言っても首を縦に振ろうとしない。
「では、せめてソファに移動してください。あなたがそんな顔をしていると、メイドたちも気が散るんです」
いそいそとメイド二人がソファの前でクッションと毛布を用意する。いつでもこいという表情だ。
ライラ様と、ソファの前で待機するメイドを見比べ、ジルは困ったように笑った。
「では、すこしだけ休ませていただきましょう」
メイドはほっとしたように息を吐く。
そのとき、部屋の扉がノックされて開いた。その音に反応して、ライラ様が重たそうに瞼を開く。
扉を開けたのは旦那様だ。いつものように眉間には皺を寄せて、小難しそうな顔をしながら入ってくる。見ているとこちらまで陰鬱になりそうだと思う。
旦那様の後ろには以外な人物が控えていた。
「ライラ嬢のお加減はいかがですか」
「殿下――!」
金髪を揺らして、心配そうに部屋をのぞくのは紛れもなくルイス王子だった。
にわかに部屋の中がざわつく。休もうとしていたジルも即座に腰をあげて王子に一礼をした。
「殿下、どうしてここに」
「起き上がらなくて結構です。どうか、そのままで。あなたの体調が優れないようだと聞いて、宮廷を抜け出してきてしまいました」
殿下はベッドの横まで静かに歩く。旦那様も扉をしめてその様子を見守っている。
「このような格好で申し訳ございません」
「いえ、こちらこそ突然おしかけてしまって。迷惑だろうとは思ったのですが」
ライラ様はわずかに微笑んだ。
王子はベッド横の椅子に座ると日々のたわいのない話をした。ライラ様は小さく微笑みながらその話を聞いている。この部屋に和やかな空気が流れるのはいつぶりだろうか。
西日が差し込むその光景は、こんな状況にも関わらず美しかった。橙色の柔らかい光が彼らを包む。ライラ様の体調は変わらず起き上がることすら辛い状態なのだから、偽りの平穏ではあったのだが。
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