第94話 一難去って
ライラ様が落ち着きを取り戻した頃、お嬢様たちは別館に戻るために部屋を出た。
ジルにライラ様のことは任せて、私は玄関ホールまでお嬢様を見送るために付き添う。
無言で歩いていた私たちだったが、ぐすんと背後で鼻をすする音がした。みれば、マリーの目に涙がにじんでいる。
「マリー、どうしたの」
「いえ、お嬢様もライラ様も、ずっと悩んで苦しまれてきたんだと思うと――。でも今こうしてお二人でいられることが、よかったなと思って」
レオンがハンカチを差し出す。ありがとうと涙声で受け取ると、目元を抑えた。
「洗って返すね」
「最近洗濯は僕がしているんですけどね」
「うう、ごめん。私の仕事手伝わせてばっかりで。次は私がやるから」
マリーは情けない声をあげる。
見ない間に、二人もすっかりいい連携が取れるようになったようだ。
お嬢様はマリーの頭を一撫でして、前を歩き出した。そして少しだけ振り返ると私を見る。
「ねえ、リーフ。ライラがこうしてわたくしに話をしようと思ったのは、殿下のおかげ?」
「ええ、そうですが」
「この前のダンスパーティーで、ライラと殿下のダンスを見たわ。あの子はいつも笑顔だけど、殿下といるときが一番素敵だと思う」
「それは――」
すっと視線をはずして、再び前をみて歩き出した。
「ライラの体調、とても悪いようにみえたけれど。ずっとあの調子?」
「はい。最近はとくにお悪いようです。医者にもみせているのですが、あまり効果はありませんし、原因の特定も難しいようです」
「そう」
扉の前に行きつく。私が扉に手を伸ばそうとすると、それより先にレオンが扉を開けた。ランプに灯りを点けると、橙色の光がやんわりと周囲を照らす。
「ディーが、ライラについてなにか気になっている様子だったの」
見送ろうと一礼する私に、お嬢様はそう言った。顔をあげると難しそうな顔をしている。
「今度屋敷に来たいと言っていたわ。彼がそんなことを言うなんてはじめてで――、それに最近ディーとパッサン卿が何か話しているようだし」
「あのお二人が? どうして――」
言いかけて、気づく。
前にパッサン卿はディーと話したいと言っていた。魂の音を感じ取る、いわゆる霊感もちのディーには研究のために話を聞いてみたいと言っていたのだ。
それに人付き合いを好まないディーがライラ様について気にかかることがあるというのは、おそらくそういった類の話なのだろう。ダンスパーティーでの彼の目を思いだす。
「あまりいい話ではないようだから気になって。ライラのこと、気をつけてみてあげてちょうだい」
そういって、お嬢様は本館を去っていった。
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