第2話 夜明けの探検
「・・・・・・目が覚めてしまった」
長い時間、気を失っていた影響だろうか。
先ほど眠りについて5時間近くは経過しているとは言え、未だ夜は明けていないが完全に目が覚めてしまった。
こうなれば、おそらく再び眠りにつくのは難しいだろう。
とりあえず周りをざっと見回してみると、近くのテーブルに僕が着ていたであろう服が一式、綺麗に洗濯された状態で畳まれている事が確認出来る。
「少し外の空気を吸いに出るくらい構わない、かな」
そう呟き、手早く着替えを済ませると出来るだけ音を立てないよう、静かに部屋を後にした。
僕が寝ていた部屋は2階にあり、迷惑にならないよう極力足音を押さえながら階段を下りると、直ぐに玄関へとたどり着くことが出来た。
しかし、外へと通じる扉を開けようとしたところで困った問題が発生した。
「この扉、魔力認証式か・・・・・・」
目の前の扉には取っ手などは一切付いておらず、扉の真ん中に赤い宝石が1つ埋め込まれているだけの簡単な作りになっている。
このタイプの扉を魔力認証式と言い、開けるためには宝石に登録された魔力パターンを持つ者が宝石に触れる必要がある。
そして、このタイプは指定の者だけを通れるようにするだけで無く、逆に特定の者を通さないようにも出来、調整次第では詳細に様々な条件が指定できる反面、魔力パターンを登録するには、既に登録された者と魔力定着の高い技術を持った術者が必要なために調整が非常に難しく、大抵は国の重要機関ぐらいでしかお目にかかる機会は無い代物だったはずだ。
(そうなってくると、勝手に出入りするのは難しいかな? うーん、流石にダメだろけど、若しかしたら運良く開いたりしないかな?)
そう考えながらも、ダメ元で宝石へ触れてみる。
すると、驚いた事にあっさりと扉は横にスライドし、呆気なく開いた。
しばらく呆然としてその場で固まっていると、僕がドアをくぐる意思が無いと判断したのか再び扉がスライドして閉まってしまう。
(今思い出せる知識では、この方式の扉に魔力定着を行えるのは、国家魔道士でも上級官だけだったような・・・・・・。そんな人が直ぐに来てくれる環境にあるか、ナナリーさんかアリアがそれほどの実力者なのか・・・・・・。どちらにしても、思ったより凄いとこにお世話になってるのは確か、かな?)
若干予想外の展開に尻込みしながらも、気を取り直して再び宝石に触れると、今度も難なく扉は開いた。
そして、今度は扉が閉まるより前にドアをくぐり、外へと足を踏み出した。
外に出たところで、ひんやりと冷たい風が頬を撫でる。
あいにくと今がどの季節かは思い出せないが、この北部の土地でここまで涼しいながらもほとんど雪が積もっていないところから今は春の終わり頃ではないかと推測出来る。
(空も少しずつ明るくなり始めてるし、あと1時間もすれば夜明けかな)
そんな事を考えながら辺りを見渡す。
どうやらここは、人里から少し離れた位置で少し高い位置にあるのだろう。
木々に遮られてはっきりとは見えないが、正面に見える緩やかな坂道を下った先に建物の屋根と思われるものが小さく見えていた。
(うーん、まだきちんと話を聞いてない状況で勝手に里の方に出るのは止めといた方が良いのかな?)
若干、好奇心に身を任せるか悩みながらもキョロキョロと辺りを見回すと、丁度人里は正反対、家の裏側にも道が続いている事に気付く。
(こっちには何があるんだろう?)
そのまま道沿いに家の裏側に回ると、正面より急な坂道を下りるよう、木々の中を階段が整備されていることに気付いた。
そしてそちらは、正面に比べて木々の密度が高い事に加え、急傾斜を下り易くするためか階段が蛇行しており、この先に何があるのか視認する事は出来ない。
しかし、微かに水の流れる音が聞こえて来ることから、もしかしたら水辺に通じているのかも知れないと予想してみる。
(下りてみるか)
勝手に行動して良いか若干の迷いもあったが、僕は好奇心と体を動かしたい欲求に負け、階段を下りてみることにした。
そして、思ったより高低差があったのか、階段を下りきるのに数分の時間がかかったように思う。
やがて、階段が終わったところで開けた、広場のような場所にたどり着いた。
そこは、木々に囲まれた森の中であるにも関わらず、まるで整地されたようになだらかになっており、かなりの広さがあることから体を動かすには最適な条件であるように感じた。
しかも、近くには休憩に丁度良さそうな大木があり、その脇には綺麗な水がわき出ている泉まで揃っている。
(なんとなく、体が疼くような・・・・・・)
ふと目を向けた先に、丁度良い大きさの木の枝を見つける。
すると、つい思わずその木の枝を手にとって、自然と体が構えを取ってしまう。
(何だろう。でも、今は体が覚えてるこの感覚に身を委ねても良い、かな)
気付けば、それから暫くの時間を剣術の型の稽古や走り込みなど、おそらく記憶を失う前に体に染みこんでいたであろう習慣に任せ、無心に体を動かしたのだった。
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