第1章 北の魔女
第1話 目覚め
「う、ううん。ここ、は・・・」
次に僕が目を覚ますと、ベットに横たわり知らない天井を見上げていた。
まあ、記憶が無い僕には見るもの全てが知らない景色ではあるのだが。
「おや、気付いたかい?」
誰もいないと油断していたため、その突然の問いかけにビクリと体を震わせながらも慌てて声のした方を確認する。
するとそこには、銀色の長髪に紅い瞳が特徴の綺麗な女性が椅子に腰掛け、僕を優しい眼差しで見つめていた。
年齢は20代後半と言った所だろうか。
その落ち着いた雰囲気から察すると、もう少し上かも知れないが。
「アリアから聞いたよ。坊や、記憶が無いんだってね」
アリアとは、確か気を失う前に会った黒髪の少女の名前だったはずだ。
つまり、この人は彼女の知り合いなのだろうか。
「はい、何も・・・・・・正直、自分の名前さえ思い出せません。・・・・・・あの、すみません。貴女は?」
「アタシはナナリー。あんたを拾ってきたアリアの母親、のようなもんさ」
「ような?」
「ああ・・・まあ、そこら辺の込み入った話は置いとくとして・・・・・・とりあえずは坊やの事だよ」
そう言いながらナナリーさんは軽く腕を組み、困ったような苦笑いを浮かべながら優しい口調で語り始める。
「記憶喪失である以上、何処まで解るか確認しながらになるが、まずここはオリフェス帝国の北の外れ、魔物の巣窟と言われる『死の森』の麓に位置する地図にも載らぬ村。世間では『魔女の里』なんて呼ばれてる隠れ里で有ることは解るかい?」
ナナリーさんの問いかけに、首を横に振ることで返事を返す。
オリフェス帝国とは、パルディナ大陸最大の国家であり、大陸の8割以上を手中に収める軍事大国だ。
そして、死の森とはその帝国最北端に位置する場所であり、強力な魔獣が多数巣くい足を踏み入れた者は生きて帰らない事からそう呼ばれている魔境だったか。
「ふむ、まあいいさ。それでアタシは数日前から群れで村を襲っていた魔獣への対策で家を留守にしていたんだけど、昨日3日ぶりに家に帰って来たら家で留守番してたはずのアリアの姿が無かったんだ。まあ、本人に問い詰めたところ、アタシが出かけた後に何を思ったのか、この非常時にフェリル山に霊草を摘みに出かけたらしい」
ナナリーさんはそうため息をつきながら、近くに置いてあった水晶型のデバイス(確か射影機と呼ばれる、デバイスに記憶された情報を魔力で空中に投影する機械だったか)に魔力を込め、空中に簡易的な地図画像を投影した。
この地図によれば、村は森と山に囲まれており、村から見ると死の森の反対側、離れた位置にフェリル山は位置するようだ。
そして、これまでの話で解った事だが、僕は完全に何も思い出せない訳では無く、知識として思い出せる単語も有るらしい。
「そして、どうもそこで坊やと出会ったみたいなんだが・・・・・・困った事に、何故かそこで何があったのか、坊やが何者なのかについては一切口を開かないんだよ」
「何も、ですか?」
「いや、正確には坊やの名前がアレンであることと、歳があの子の2つ上、14歳であること以外の全てだね。」
「そんな、何故ですか!?」
「さあ、それはアタシにもなんとも・・・・・・。ただ、どうやら記憶を無くす前の坊やと何やら約束をしてるみたいでね。『忘れてしまったのなら思い出させないであげて。その代わりボクが一生アレンを支えるから』ときたもんだ。・・・坊や、もしかしてうちの子に手を出したんじゃ無いのかい?」
「いやいやいや、そんなはず・・・そんな、はずは・・・・・・」
「ははは、まあ冗談さ。とりあえず、記憶が無いんじゃ行く当ても無いんだろ? だったら記憶が戻るまでここでゆっくりしていくといいさ。と言うか、今のアリアの様子だと、坊やが出て行くとそれを追ってあの子まで出て行きそうで怖いから、ここにいてくれると助かるんだが」
正直、そこまで迷惑をかけて良いものかとの葛藤もある。
しかし、何も解らない今のままでは行く当てなど無いのも事実だ。
「すみません、僕に出来ることがあればなんでも手伝います。ですから、記憶が戻るまでで構わないのでご厄介になっても宜しいでしょうか?」
「はは、そこまで畏まらなくてもいいよ。まあ、どの程度の期間かはわかんないが、これからは家族としてよろしく頼むよ。さて、と」
軽いかけ声と共にナナリーさんは椅子から腰を上げると、部屋の出口へと向かう。
「まあ、今起きたばかりであれだけど、今夜はもう遅いしもう一眠りしておきな。明日の朝にはここでの生活の事も詳しく話さなきゃいけない。それに何より、坊や、いやアレンを連れてきたアリアからも詳しく話を聞きたいだろうしね」
「あれ、そう言えば彼女は何処に?」
「はあ、今何時だと思ってるんだい? とっくに夢の中さ」
そう言い、ナナリーさんが指を差した方向を見ると、そこには時計がかけられており、時間を見れば日付が変わってすでに1時間近い時が過ぎていた。
「それじゃあ、おやすみ」
そう軽く挨拶すると、さっさとナナリーさんの姿は扉の向こう側へと消えて行ったのだった。
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