第17話 難破船
2月3日
浩正は喉がイガイガしていた。「風邪かな?」派遣仲間の鳴子鉄則と中国に遊びに出かけた。椎名多江とはケンカしていて、最近口も聞いてない。
「原因は何だよ?」
デッキから黄昏に染まる海を眺めていた。
「抱いてるときにさ?違う男の名前呼んだんだぜ?浮気か何かしてんだよ」
「前の男とかじゃないの?なんて名前?」
「アキラ」
「アキラがつく芸能人、先にギブアップした方が奴隷」
「よっしゃ」
ジャンケンをした。✋👊
「有田ってジャンケンよえーんな?」
鳴子「ニシキノアキラ」※『戦国自衛隊元祖』に出てた。
有田「小林旭」※『仁義なき戦い』に出てた。
鳴子「中尾彬」※マフラーで有名、江守徹とよくコンビを組んでる。
有田「ギブ」
鳴子「よっしゃ!ビールご馳走しろよ」
有田「そっ、そんなー」
食堂で松坂清子と再会したので浩正は驚いた。中3のときの担任だ。『あみん』の歌じゃないが、生きるのがつらかった。
「松坂先生じゃないですか?」
彼女は海鮮丼を食べていた。
「あら、もしかして有田君?」
「何だよ?知り合いかよ?」
鳴子がイタズラそうな目になる。
「不倫はいかんぞ?東出みたくバッシングされても知らんぞ?」
耳元で鳴子がささやく。
「そーゆーんじゃないって!」
「お客様、船内ではお静かに願います」
パーサーの建麗美が言った。
約束のビールをご馳走し、浩正は砂を噛むようだった。鳴子はステーキやら刺し身やらを次々に食べる。クチャクチャクチャクチャ……「食い方きたねーんだよ」浩正は思わず耳を塞いだ。
食後、カジノをすることになった。分厚い扉が開いた。赤間兄、それから上戸有紗がいたので驚いた。
前者は空を飛べ、後者は『山』の玉を持っていた。
【初期症状】微熱、耳の痛み、頭痛のいずれか。 感染中期になると高熱となる。 風邪を引き起こすコロナウイルス(Human Coronavirus:HCoV ヒューマンコロナウイルス、ヒトコロナウイルス)が4種類あり、風邪の10〜15%(流行期35%)の原因を占める。HCoV-229E、HCoV-OC43は1960年代に発見され、HCoV-NL63、HCoV-HKU1は2000年代に入って発見された。
発生年は毎年で、世界中で人類全体に蔓延しており、これまでの死者数は不明、感染者数は70億人と計算されている。
潜伏期間:2-4日
2002年に発見されたSARSコロナウイルス (SARS-CoV)による。キクガシラコウモリが自然宿主であると考えられている。
2002年11月、中国広東省を起源とし中国を中心として全世界で感染が拡大したが、2003年7月5日にWHOはSARS封じ込め成功を発表した。ただし、その後も2004年に14人の感染例がある。最終的な罹患数は世界30ヶ国の8,422人が感染、916人が死亡した(致命率11%)
潜伏期間:2-10日
2012年に発見されたMERSコロナウイルスはヒトコブラクダを感染源として、ヒトに感染すると重症肺炎を引き起こす。
2013年5月15日、世界保健機関 (WHO) は患者が入院したサウジアラビアの病院の2人(看護婦と医療関係者)への「ヒト-ヒト感染」が初めて確認されたと発表した。2015年韓国でのアウトブレイクでは186人が感染し、36人が死亡した。2019年にもサウジアラビアで14人が感染し、5人が死亡した。
WHOによれば2019年11月までに診断確定患者は2494人、死者858人、約27ヶ国に感染例が波及している。特別な治療法やワクチンはない。
3日未明
ムラマツ・ショウヘイが浩正の夢の中で死んだ。
「イチモクゴセンセイかも知れないね?」
中国に何度も旅行に出かけている松坂清子は中国の妖怪に詳しかった。
『一目五先生』と、ボールペンで清子はメモ用紙に書いた。
5人で1組の疫鬼。4人は目を持たず1人だけ1つの目を持つ。善人でも悪人でもない普通の人を病死させる。
村松は自室で事切れていた。
船医の武田順也によれば、村松の死因は肺炎らしい。
松坂は「エキキって本当にいるのかしらね?」と言った。
疫鬼は、中国に伝わる鬼神あるいは妖怪。疫病を引き起こすなどして人間を苦しめる。行疫神(ぎょうえきしん)などとも書かれる。
古代中国の帝のひとりである顓頊(せんぎょく)の子供たちが、3人の疫鬼になったとされている。また、古代中国の王の1人共工(きょうこう)の子供は冬至に死んで疫鬼になったとされており、その日に小豆粥をつくりこれを祓うという。
中国の歴史書『後漢書』礼儀志中には「大儺、謂之逐疫。」という文があり、大儺・驅儺・追儺(ついな)の行事は疫鬼たちを祓う儀式として行われた。 人々に疫病をもたらす存在として広く伝承されており、民間でも病気あるいは流行病をもたらすものとして祈祷などの対象とされていた。疫鬼のような病をもたらす存在には、山野に棲んでいる精霊や死後に冥界と現世の中間あたりをさまよっている野鬼たちがなると考えられており、供物や儀式で回復を願ったり、呪物やお札を使用することで予防をする年中行事などが伝承されていた。仏教的な行事である盂蘭盆会(うらぼんえ)や水陸会(すいりくえ)でも、数々の鬼(霊)たちに疫鬼たちも含まれ、その行動を鎮めるための季節ごとの儀式などが行われていた。
神話伝説に顓頊や共工といった伝説上の存在の子息が疫鬼になったという話があるが、それを受けたものか『録異伝』には「神が小さな子供を縛っていったら瘧(おこり)の病が回復した」あるいは「病に臥せっているときにまわりを子供が取り囲んでいたのでひとりをつかまえると水鳥になって消え病が癒えた」という説話も確認でき、疫鬼は子供・幼児・童子の姿で現われると考えられていた側面もあるようである。
浩正たちを乗せた豪華客船ネプチューン号は航海中、目的地の名古屋港周辺がコロナウィルスに感染した為に、航行不能に陥ってしまう。
ネプチューン号には運悪く密輸業者の堀田僕蔵が乗り合わせていた。数年前に堀田は、依頼主である武装した傭兵グループと、重火器などの積荷を乗せて現場付近の海域を航行していたが、不運にも暴風雨の海上を漂流していたモーターボートと衝突し、船体に大きな損傷を負ってしまう。
「全くついてねーや」
赤間は最悪な状況なのに笑っていた。「今ならたくさん殺せるかも知れない」
赤間はヘラヘラしてるチャラ男を標的に選んだ。
「派遣ってボーナスとかなくて頭来るよな?ヒャハハッ、おねーさんオッパイおっきーな?触りたいな」
建麗美は困惑している。
4日未明
浩正の夢の中で今度はナルコが死んだ。ナルコは小学生くらいの身長になっていた。
「チビナルちゃん、悪い奴らを一緒に倒そう」
ヒロマサは言った。
ナルコは不気味な鳥に襲われて殺された。
怖くなって浩正は松坂先生の部屋に行った。
「変な夢を見たんです」
「何時だと思ってんのよ!?」
Gショックを見ると3:03と表示されていた。あらすじを話すと「オンモラキかも知れないわね?」と教えてくれた。
陰摩羅鬼は、中国や日本の古書にある怪鳥。経典『大蔵経』によれば、新しい死体から生じた気が化けたものとされる。充分な供養を受けていない死体が化けたもので、経文読みを怠っている僧侶のもとに現れるともいう。
古典の画図においては鳥山石燕の画集『今昔画図続百鬼』に描かれており、解説文には中国の古書『清尊録』からの引用で、姿は鶴のようで、体色が黒く、眼光は灯火のようで、羽を震わせて甲高く鳴くとある。
この『清尊録』には以下のような中国の陰摩羅鬼の話がある。宋の時代のこと。鄭州の崔嗣復という人物が、都の外の寺の宝堂の上で寝ていたところ、自分を叱る声で目を覚ました。見ると、前述のような外観の怪鳥がおり、崔が逃げると姿を消した。崔が寺の僧侶に事情を尋ねると、ここにはそのような妖怪はいないが、数日前に死人を仮置きしたという。都に戻って寺の僧に尋ねると、それは新しい死体の気が変化して生まれた陰摩羅鬼とのことだった。
日本では江戸時代の書物『太平百物語』に、『清尊録』に類似した陰摩羅鬼の話がある。山城国(現・京都府)で宅兵衛という男が寺でうたた寝をしていると、自分を呼ぶ声で目を覚ました。見るとそこには怪鳥がいた。驚いた宅兵衛が逃げ出して陰から様子を伺っていると、そのまま怪鳥は姿を消した。宅兵衛が寺の長老に尋ねたところ、新しい屍の気が陰摩羅鬼になると大蔵経にあり、最近寺に仮置きした死人によるものだろうということだった。
陰摩羅鬼の名の由来は、仏教で悟りを妨げる魔物の摩羅(魔羅)に「陰」「鬼」の字をつけることで鬼・魔物の意味を強調したもの、もしくは障害を意味する「陰摩」と「羅刹鬼」の混合されたものとの説がある。
浩正は胸騒ぎを覚え、鳴子の部屋へと急いだ。「鳴子!鳴子!」ガチャ!ガチャ!内側から鍵がかかっている。
浩正は船員の金子辰行を呼んで、マスターキーで開けてもらった。
鳴子は自室で死んでいた。胸にはクロスボウが突き刺さっていた。
「もしかしたら村松さんも殺されたんじゃ?」
操舵室で一等航海士の小杉渉が言った。
「私も同じことを思いました」と、二等航海士の丸谷貴俊。
「青酸カリなら病死を偽装することが出来るかもな?よく保険金殺人でつかわれる」
船医の武田が言った。
鳴子で12人目だった。赤間は『石化』を覚えた!
赤間は4つの魔法を使えた。巨大化・飛空・回復・石化。しかし、『飛空』はあと2回しか使えなかった。こうなったら感染が深刻化する前にこの船から逃げようかな?
浩正は自室でトランプをやっていた。ひとり神経衰弱だ。♥2◆2、♣3♥3、♥4◆5……飽きた。鳴子がいてくれたらもっと盛り上がってただろうな?
自室に隔離され、自由に行き来することが出来なくなってしまった。
上戸有紗は『山』の玉を眺めていた。未だに使ったことがない。
猟師・木樵・炭焼きなどの山民にとっての山の神は、自分たちの仕事の場である山を守護する神である。農民の田の神のような去来の観念はなく、常にその山にいるとされる。この山の神は一年に12人の子を産むとされるなど、非常に生殖能力の強い神とされる。これは、山の神が山民にとっての産土神でもあったためであると考えられる。山民の山の神は禁忌に厳しいとされ、例えば祭の日(一般に12月12日、1月12日など12にまつわる日)は山の神が木の数を数えるとして、山に入ることが禁止されており、この日に山に入ると木の下敷きになって死んでしまうという。長野県南佐久郡では大晦日に山に入ることを忌まれており、これを破ると「ミソカヨー」または「ミソカヨーイ」という何者かの叫び声が聞こえ、何者か確かめようとして振り返ろうとしても首が回らないといい、山の神や鬼の仕業と伝えられている。
また、女神であることから出産や月経の穢れを特に嫌うとされるほか、祭の日には女性の参加は許されてこなかった。山の神は醜女であるとする伝承もあり、自分より醜いものがあれば喜ぶとして、顔が醜いオコゼを山の神に供える習慣もある。なお、山岳神がなぜ海産魚のオコゼとむすびつくのかは不明で、『やまおこぜ』といって、魚類のほかに貝類などをさす場合もある。マタギは古来より『やまおこぜ』の干物をお守りとして携帯したり、家に祀るなどしてきた。『Y』のような三又の樹木には神が宿っているとして伐採を禁じ、その木を御神体として祭る風習もある。三又の木が女性の下半身を連想させるからともいわれるが、三又の木はそもそもバランスが悪いために伐採時には事故を起こすことが多く、注意を喚起するためともいわれている。
「どうせなら『海』の玉を取るべきだったなぁ〜」
有紗はボヤいた。
「きっと富士山とか榛名山とか、山エリアじゃないと使えないんだ」
2000年のアメリカ映画『消滅水域』を思い出し、有紗はパニックを起こした。
『白い嵐』も怖かった。帆船アルバトロス号が白い嵐によって1961年5月2日に沈没した実際の事件をもとに書かれたチャック・ギーグ著の手記『白い嵐-アルバトロス号最後の航海』(The Last Voyage of the Albatross)を原作とした1996年公開の映画。不運なサマースクールの航海を率いたクリストファー・シェルダン船長をジェフ・ブリッジスが演じた。
5日未明
ホリタ・ボクゾウが赤間の夢の中で死んだ。彼はとんでもない人間だ。ネプチューン号をジャックする予定らしかった。
ホリタはオウリュウに殺された。夢から覚めた後、『応龍』って書くのだと思い出した。
中国神話では、帝王である黄帝に直属していた竜。4本足でコウモリないし鷹のような翼があり、足には5本の指がある。天地を行き来することができる。また、水を蓄えて雨を降らせる能力があり、『山海経』大荒北経に記されている黄帝による蚩尤との交戦の描写には具体的な龍としては応竜が黄帝に加勢しており、蚩尤や夸父を殺したとされ、神々の住む天へ登ることができなくなり、以降は中国南方の地に棲んだという。このため、応竜のいる南方の地には雨が多いのに、それ以外の場所は旱魃に悩むようになったという。
部屋から出て、堀田の部屋に向かってノックするとドアが開いて寝ぼけ眼の彼が出て来た。『石化』を使った。堀田は石の塊に化した。
『妙な音がした』と、松坂清子から連絡を受けた機関士の小泉英治は堀田の部屋に向かった。石の人形になった堀田が部屋の前に転がっていた。機関士の仕事は、機関を扱うことに特化している。
エンジンやボイラー系機器が正常に動いているかを確認するのがメインの業務だ。
エンジン系統が搭載された船には、機関士の有資格者が乗船しなければ航海を行うことが出来ない。
一度出航した船は、航海中は24時間体制でエンジンや計器の運転、監視が行われている。
船が停泊中であっても監視は常に行われており、交代制の当直によってスケジュールが組まれている。
最新式のネプチューン号ではエンジン系統機器も一新されており、夜間や停泊中の監視が機関室では行わずに済む。
「もしかしたら犯人は亜鉛を死体に施したのかもな?」
駆けつけた船医の武田が言った。
「亜鉛?」と、小泉。
「アメリカでは遺体の防腐処理によく使われる」
「なるほど、死亡推定時刻とかを調べなくさせるのが狙いですね?」
小泉はゴルゴンでも船内に出没したのかと思った。
ゴルゴーン、またはゴルゴーは、ギリシア神話に登場する醜い女の怪物である。その名は『恐ろしいもの』の意。
日本語では長母音記号を省略し、ゴルゴン、ゴルゴとも表記する。英語読みはゴーゴン。
ヘーシオドスの『神統記』やアポロドーロスによると、ゴルゴーンは海神ポルキュースとその妻ケートーの娘で、ステンノー、エウリュアレー、メドゥーサの3人からなる姉妹である。またグライアイとも姉妹である。
エウリーピデースの奇妙な伝承によると、ゴルゴーンはギガントマキアーの際にガイアがギガース族の味方として生み出したとある。さらにヒュギーヌスはゴルゴーンとケートーからステンノー、エウリュアレー、メドゥーサが生まれたとしている。この伝承ではゴルゴーンは男の怪物となっている。
髪の毛の代わりに生きている蛇が生えており、黄金の翼、青銅の手、イノシシのような牙を持つとされ、自らの翼で空を飛び、ゴルゴーンの顔を見た者を石化することができる。
ボイオーティア地方から発見されルーブル美術館に所蔵されている大甕ピトスでは、下半身が馬になっているケンタウロス族のような姿(ただし足は二本)で描かれているが、ゴルゴーンの首に剣を向けているペルセウスはゴルゴーンを見ないように顔を背けている。その住処はヘーシオドスによると、オーケアノスの流れや「ヘスペリデスの園」の近くの世界の西の果ての地である。
神話によると3姉妹のうちメドゥーサだけが不死ではなく、後にメドゥーサはペルセウスによって首を切られて退治された。その際、傷口からメドゥーサとポセイドーンの子クリューサーオールとペーガソスが生まれた。
その後、ペルセウスはメドゥーサの首を使ってアンドロメダーや母ダナエーを救い出したと伝えられている。ペルセウスがキビシスからメドゥーサの首を取り出し、その首を向けられた者は何者であっても石と化した。
一説によるとメドゥーサはアテーナーと美を競ったために、アテーナーによって首を切られた。さらにメドゥーサはアテーナーの怒りに触れて醜い姿にされたとする説も唱えられた。
ペルセウスは冒険が終わるとメドゥーサの首をアテーナーに捧げ、アテーナーは自らのアイギスにその首を取り付けたという。
ホメーロスは『イーリアス』の中で、ゼウスの盾アイギスに固定されているゴルゴーンの首について描写している。アイギスは『イーリアス』においてはゼウスの持ち物であり、ヘーパイストスがゼウスのために制作したものである。アイギスについては諸説あり、後世の神話ではアテーナーのアイギスは女神自身がゴルゴーンを倒した際に、その皮を剥いで作ったものだと語られている。
一方、『オデュッセイア』ではゴルゴーンの首は冥府の王ハーデースが所持する魔物であるかのように描かれている。
浩正は建麗美からの内線電話で堀田が何者かによって石に変えられたと聞かされた。
赤間になら出来る犯行だ。
《何があっても部屋から出ないでください》と、麗美から言われたので眠ることにしたが、朝日が照りつけて眠れなかった。
海はキラキラ光っていた。
丸谷貴俊は甲板で建麗美と抱き合っていた。
丸谷たち航海士は海技従事者国家資格を取得してる。国土交通省管轄。
甲板部船舶職員(船長や航海士)として船舶に乗り組むために必要な資格である。
1級〜6級、船橋当直3級に分かれており、それぞれの免許において、乗り組める船舶の航行区域と総トン数、及び船舶職員の階級が規定されている。
国家試験は年4回程実施される(実施は国土交通省)。試験は、筆記試験と口述試験からなる学科試験および身体検査があり、年齢制限(取得は18歳以上)はないが一定の乗船経歴が必要になる。ただし、学科試験のうち筆記試験については基本的に乗船履歴が無くても受験できる。乗船経歴については海技従事者を参照のこと。資格取得に必要な身体的条件(健康状態)は小型船舶操縦士に比べてかなり厳しく、現役の船長や航海士であってもそれをクリアできなければ操船をすることができなくなる。
「貴俊さん、私とっても怖いの」
「大丈夫さ?もしものときは俺が守ってやる」
6日未明
麗美の夢の中でマルヤ・タカトシが死んだ。虎の妖怪に食い殺された。
心配になり、丸谷を探したがどこにもいなかった。小杉が一緒に探してくれた。
「暇過ぎて死にそうだった」
丸谷は展望浴場で死んでいた。血溜まりに沈んでいた。首を切り落とされ、生首がプカプカと浮いていた。
小杉はゲロをぶちまけ、麗美は失神した。
船長の斎藤次郎は他の乗員乗客の安否を確認するため、ホールに集めた。
上戸有紗、松坂清子、建麗美、小杉渉、有田浩正、金子辰行、小泉英治、武田順也。
「アレ、誰かいませんね?」と、斎藤。
有紗は斉藤って高橋英樹に似てるな?と思った。
「赤間がいない」
浩正はやっぱりアイツの仕業だったのか?と思った。
「まさか、彼も?」と、小泉。
丸谷が殺されたことは既に全員知っていた。
麗美は悪夢の話をした。
「カイメイジュウかも知れないわね」
松坂清子が言った。
開明獣、 古代中国の地理書『山海経』の「海内西経」に記述のある神獣。
天帝の下界の都の丘にある九つの門を守っている。その姿は大きな体で虎に似て、九つある首は全て人間の顔だという。
乗員は手分けして赤間を探したがどこにもいなかった。
「海に落ちたのかも知れん」と、斉藤。
有田浩正、上戸有紗、松坂清子はホールで押し黙っていた。3人ともマスクをしている。浩正はしゃべると感染するのでは?という警戒感から口を閉ざしていた。
部屋の外では飲食は禁止されていた。
毒を飲む心配はなさそうだ、と有紗は安堵した。
「これで4人」
清子が口を開いた。
この女は俺がイジメられてるのにロクに助けもしなかった。アンタが死ねばいいのに!と、浩正は思った。
「犯行は全て夜中から未明にかけておきてるようですね?」
有紗が言った。
「ええ、部屋に戻るのが怖い」と、清子。
「でも、感染するリスクが……」
有紗はクシャミを必死で堪えた。
コロナで死ぬのと、殺されて死ぬのとどちらが苦しいだろう?
浩正がそんなことを思ってると5人の乗員が戻って来た。
「ダメだ、どこにもいなかった」
小杉が落胆している。
「もしかしたら、赤間さんが犯人なんじゃないの?」
有紗が言った。
「根拠もないのにそういうこと言うもんじゃ、クシュン!」
小杉は熊みたいな体格をしているがカワイイクシャミだ。
「いま、3人で話してたんだけどさ?今夜はここで全員で過ごした方がいいんじゃないかかしら?」
清子が言った。
「それは出来かねません」
金子が事務的な口調で言った。
「どうして?そっちの方が安全じゃない?」と、有紗。
「厚労省からの命令に背くわけにはいきません」
金子がそう言うと、もう誰も反論しなくなった。
7日未明、松坂清子は悪夢に魘されていた。ムシムシしたボイラー室のハンドル式のドアがキュッキュッと音を立てて開いた。
黒い羊の怪物が入ってきた。角で攻撃されたのでコイズミ・テツジは角をへし折った。次の瞬間、コイズミは血を吐いて死んだ。
夢から覚めて、カイチだと清子は思った。
カイチは大きいものは牛、小さいものはヒツジに似ているとされる。全身には濃くて黒い体毛が覆う。頭の真ん中には長い一角を持つことから一角獣とも呼ばれ、この角を折った者は死ぬと言われる。麒麟に似ている。水辺に住むのを好む。人の紛争が起きると、角を使って理が通っていない一方を突き倒す(その後突き倒した人を食べるという伝説もある)。次第にカイチはより正義感のある性格付けがなされてゆき、正義や公正を象徴する祥獣(瑞獣の一種)となった。
獬豸の『豸』の字は、足の無い虫や背中の長い獣を意味する同音字で、本来は『廌』と書く。『廌』は『法治(灋治)』の『治』と同音であり、『法(灋)』の正字にも含まれていることから、古くから中国人は『法治』の精神をカイチを使って表現した。
古代中国では法律を執行する役人が被った帽子(法冠)に獬豸が飾られ、獬豸冠(かいちかん 獬冠とも)と称した。清の時代の役人の着物にも獬豸が刺繍されていた。また副葬品としてカイチの工芸品を選ぶ人もいた。寺ではカイチの化身としてヒツジを飼育した。
小泉は松坂清子の夢のとおり、機関室で血を吐いて死んでいた。背中には銃痕があった。
第一発見者は三等航海士の金子だった。
スピーカーで小泉の死を知った浩正は犯人はサイレンサーでも使ったんじゃないかな?と思った。窓の外は霧が立ち込めていた。
小杉と麗美は検視を頼もうと医務室に向かった。「先生!」麗美はノックをした。返事はなかった。
「まだ、寝てるのかな?」と、小杉。
「アレ?ウッ……」
ガチャリ、呆気なくドアが開いた。凄まじい匂いがしたので麗美は吐きそうになった。船員も全員マスクをしていたが、マスクをしていてもそれが血の匂いだと分かった。
武田はソファで事切れていた。眉間と腹部を撃たれていた。
昨夜、浩正は夢の中でタケダ・ジュンヤがシイナ・タエにレーザー銃で撃ち殺される夢を見ていた。
名古屋警察署にエンクを自称する人物から、ネプチューン号に7つのC4爆弾を仕掛けたと言う脅迫電話が入る。
炎駒、中国に伝わる赤い麒麟らしい。
炎駒はネプチューン号の身代金として、夜明けまでに『派遣社員の犯罪合法化』を要求する。事件を知った政府、軍、警察はテロに屈することなく、平井率いる爆発物処理チームをネプチューン号に派遣した。
その一方で、名古屋署刑事課長の木村智充は捜査班を率いて爆弾設計のプロ15人を容疑者として捜査を進める。
処理チームは船内に仕掛けられた爆弾を発見し解体処理に着手するが、爆弾はブービートラップの塊。平井が最も信頼する部下の滝田が負傷してしまった。
爆弾正面の穴から見えた配線や回路は全てブービートラップであり、本物の制御回路は側面に巧妙に隠されていた。解体作業中の平井は、この爆弾とSAT時代に出会った巧妙な地雷の共通点を思い浮かべていた。その地雷を作った男は既に死亡していたが、当時の上官、金子だけは、その地雷を知っていた。同じ頃、木村も金子を断定し、有田に連絡を取った。
夜明けまであと2時間、平井の前には最後の赤のリード線と青のリード線が残された。平井は金子を呼んだ。爆発まであと数分になったとき、平井の説得に応じた金子は青のリード線を切ることを命じた。平井の持つ鋏がリード線を断つ。「赤だ! 赤を切れ」。平井は残った部下に命じ、部下も従った。
無事にネプチューン号は夜明けを迎え、目的地に向けて動き始めた。
浩正は『ユダの窓』って推理小説を読んでいた。
ジェームズ・キャプロン・アンズウェルは、いとこのレジナルド・アンズウェル大尉からクリスマスパーティーで紹介されたメアリ・ヒュームと互いに恋し合い、年明けに婚約するに至った。1月4日、用事があってサセックスからロンドンに戻るのを利用して、メアリの父親エイヴォリー・ヒュームに会おうと思ってロンドンのフラットに落ち着いたところ、エイヴォリーから自宅への招待の電話を受けた。
そして、その日の午後6時10分、約束の時間より少し遅れてヒューム家を訪ねたジェームズは、エイヴォリーの待つ書斎に通された。そこは天井の高い事務室風の部屋で、二つ並んだ窓にはスティール製のシャッターが付けられており、正面の壁にはアーチェリーの矢が3本、三角形に組み合わされて飾られていた。その矢はアーチェリーが趣味のエイヴォリーが、『森の狩人クラブ』の大会で最初に金的を射た際の賞品であった。ジェームズがエイヴォリーに勧められてウィスキーソーダを飲んだところ、たちまち意識を失い、薄れゆく意識の中で「ウィスキーに何か入っていた」という認識だけが頭の中をかけ巡っていた。
しばらくして気がついたジェームズが時計を見ると6時30分だった。そして、床にはエイヴォリーが胸に深々と矢を突き刺さされて死んでいた。3枚の矢羽根のうち中央の1枚は半分ちぎれており、正面の壁の矢が2本になっていた。オーク材の重く頑丈なドアには内側から差し錠が掛かっており、窓は二つともスティール製のシャッターが閉まっており、さらに内側から差し錠が掛かっており、外部からの侵入を阻んでいた。そして、ほかには出入り口はなかった。ドアを叩く音にやむなくジェームズはドアを開け、執事のダイアーとエイヴォリーの秘書のアメリア・ジョーダン、隣家に住むランドルフ・フレミングが部屋に入ってきて事件の発覚するところとなった。
ジェームズは、ウィスキーソーダに混ぜられた薬を飲まされ、その後は何も知らないと主張したが、部屋の中のウィスキーのデカンターとソーダ水のサイフォン、4つのタンブラーグラス には薬を入れられた形跡はなく、ジェームズの身体からも薬の徴候は見つからなかった。また、ジェームズが着ていたコートのポケットにはアンズウェル大尉のピストルが入っていた。さらにエイヴォリーの胸に刺さった矢からはジェームズの指紋だけが検出された。
ジェームズはエイヴォリー・ヒューム謀殺の罪名で逮捕され、起訴された。そして3月4日、舞台は中央刑事裁判所に移った。被告側の弁護人にはヘンリ・メリヴェール卿が就いた。裁判の中ではジェームズに不利な証言が相次いだ。12月の末まではメアリとジェームズの結婚を喜んでいたエイヴォリーが、年が変わるとジェームズに対して悪印象を持っていると見受けられるようになった。問題の1月4日の朝、メアリからの手紙でジェームズがロンドンを訪れることを知ったエイヴォリーは午後1時30分にジェームズに電話をかけ、電話を切った後に「アンズウェルの奴め、きっちり片をつけてくれるぞ」と述べていた。また、執事に午後6時に来客があることを伝えるとともに、その来客を「信用ならない奴」と述べていた。さらに、エイヴォリーに会ったときのジェームズの「僕がお宅に伺ったのはむやみに人を殺したりするためじゃありません」との発言や、それからしばらくした後のエイヴォリーの「おい、君、いったい、どうした? 気でも狂ったか?」との発言に続く格闘のような物音なども執事に聞かれていた。これらの状況から訴追側は、メアリとの結婚を反対されたジェームズがエイヴォリーと口論になり、そのあげくにエイヴォリーの胸に矢を突き立てて殺害し、自らは薬物で眠らされたふりをしたのだと論告した。
これに対しヘンリ・メリヴェール卿は、犯人はどこの部屋にもある『ユダの窓』から出入りして、クロスボウで被害者に矢を射たのだと論述する。
「赤間もなかなか古い書物を読むんだな?」
金子は罪の意識に苛まれ甲板で拳銃でコメカミをぶち抜いて死んだ。村松はあるブラック企業に勤務していて死にたがっていた。丸谷、小泉、武田の3人は金子をいじめていた。
『これだけはゆとりだからダメなんだ』
丸谷は事あるごとに言っていた。
『おまえみたいなのがいたらいつ沈没してもおかしくねーよ』
小泉は機関室で金子を膝蹴りしたこともあった。
うつ病だと確信した金子は武田に相談したが、『うつ病なんてもんは気合が足りないからなるんだ』と言われた。
名古屋に戻って来た浩正は巨大なロボットが市街地を襲撃してるのを目撃した。
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