第15話 柳婆

 2019年12月25日午前10時31分頃、つくばゲームステーション第1オフィスに犯人が侵入、ガソリンを建物1階に撒いてライターで着火した事により爆燃現象が発生した。結果としてオフィスは全焼、深水剛三と日野里美が死亡した。


 国内外で人気を得ていたゲーム制作会社を標的とした殺人事件は世界規模で衝撃を与え、内閣総理大臣や国際連合事務総長、各国の政府の長や大使館、各界の著名人から弔意が寄せられた。また、Twitterではハッシュタグ『#PrayFortukugame』と共に、様々な言語による追悼や応援の声が上がった。更に、国内外からの寄付による義援金は30億円を超え、税制上の優遇制度を適用する特例措置が取られた。

 

 2人と親しくしていた遠藤さくらは事件前夜に不思議な夢を見た。柳の木の下でフカミ・ゴウゾウとヒノ・サトミが首を吊っているのだ。

 

 古書『奇談類抄』によると、かつて常陸国鹿島(現・茨城県鉾田市)に樹齢千年以上の柳の木があり、これが美女に姿を変えて人を惑わしたり、あるときには老婆に姿を変え、道を行き来する人々に声をかけたという。

 さくらは鉾田市に住んでいる。数年前に海岸に鮫が大量に現れた。温暖化を引き金とされている。

 このように柳の古木が怪異を成すことは日本のみならず、中国の書物にも記載が多くみられる。


 柳の木と老い、病気、死が関連しているという俗信は日本各地にみられる。

 また『絵本百物語』では『盧全茶話』『契情買談』といった書からそれぞれ「金陵の絮柳は人を招く」「島原の柳は客を化かす」と引用し、これらに油断してはならないと戒めている。

 

 12月26日

 日本で15時35分(食の最大)に部分日食を観測(グアムなどでは金環日食となった。詳細は「2019年12月26日の日食」を参照)。

 Xは天龍島にやって来た。洞窟の中には雪女が現れた。火炎放射器で雪女を倒し、最後の玉、『海』を手に入れた。


 同日、深夜に浩正、多江、木村は戦国時代から戻って来た。久慈と中村涼香の姿は見当たらなかった。


 12月28日〜12月31日 - コミックマーケット97(冬コミ)開催。夏コミに続き4日間の開催となり、リストバンド(入場料)も必要となる。

 浩正も遊びにでかけようと思ったがある事情で中止になってしまった。

 浩正は台湾に行きたいと思っていた。

 書店で立ち読みした。

 3時間前には成田で搭乗手続き、手荷物一個。リュックサック。マナー、レンゲで飲む。バスや車内では飲食禁止。アメやガムも✕、罰金。水がまずい。機内モードオン、モバイルデータ通信、データローミングOFF。忘れると高額請求。中国語、台湾語。

 台北→日本は009−81(日本の国番号)−280−55−0878。

 客室からだと通話料+手数料。

 レシートが宝くじがついてる。現地で両替。土日祝は休業なので、出発前に両替。

 メモ帳、電卓。

 通貨 2000円までしかない(日本は1万が最高)

 NT$1→約3・8円 日本の1円

 NT$5→?


 12月30日

 中国海警局の4隻が尖閣諸島沖の領海を航行。

 木村と平井はつくばにやって来た。

 

 12月27日午後7時15分ごろ、作者の徳井吾郎が在籍していたN大学犬山キャンパスの体育館で、硫黄臭のする液体の入った容器が発見された。容器には、徳井を中傷する文書が貼りつけられており、中身の液体は気化すれば致死量を上回る硫化水素を発生させる可能性があるものだった。


 直前の同日午後1時半ごろ、電子掲示板の2ちゃんねるに犯行を示唆する書き込みがあった。愛知県警捜査一課はこれが犯行声明だとみている。書き込み主は自身を『刑天』と称し、私立探偵の椎名多江の調べでは書き込みの一部が犯行の細部と合致していた。

 書き込みは茨城県つくば市内のインターネットカフェから行なわれたものだった。

『刑天』は、ケイテンと読む。古代中国の神で、古書『山海経』に拠れば、帝(恐らくは黄帝)と中原から遠く離れた西南方に位置する常羊の山の近くで神の座(恐らくは天帝の座)を掛けて争い、敗れて首級を常羊山に埋められるが、なおも両乳を目に臍を口に変え、干(かん。盾)と戚(せき。斧)とを手にして闘志剥き出しの舞を続けたという。

 惨殺された死体が神格化されたものらしい。

 

 犯行現場において容器のようなものを運ぶ上下黒服で痩せ型の不審な男が複数の学生により目撃されており、防犯カメラにも映像が残されていた。この数日前には似た風貌の男が大学の付近にある本屋で職務質問されていた。犯人のものと思われるインターネット上の書き込みにも『つくば駅で職務質問された』との記述があることから、警察ではこの男が犯人である可能性が高いとみていた。


「犬山とつくば、かなりの距離があるな?」

 木村はロケットを見上げていた。さすが、宇宙の街だ。

「瞬間移動でも使ったのでしょうか?」と、平井。

「空を飛べる赤間なら犯行も可能だな?」


 28日には『つくば探偵団』関連のイベントが行われる予定だった晴海ビッグサイトや函館スーパーボールなど、29日には徳井の実家に脅迫状が送付された。

 平井は貼らないタイプのホッカイロをコートのポケットの中で握った。

「脅迫状は愛知県内、つくば市内の郵便局2か所から送られているとしている。無関係であるはず同人誌即売会にも脅迫状が届いた」

 木村はバス停の時刻表を見ていた。🚏

 もうすぐ来る。

「中止になって可愛そうですよね?」と、平井。

 栄進出版は来場者の安全を最優先するとして中止を決定した。

「つくゲー事件の犯人と関係はあるのかな?」

 木村が言うとつくバスがやってきた。🚌

 バスに乗り込む。満員で座れなかった。

 2000年に創業したつくばゲームステーションは、『つくゲームクオリティー』と呼ばれる高い品質によって国内外で人気を得ていた。だが、事件の数年前から作品への批判や社員への殺害予告が相次いでおり、その都度警察や弁護士へ相談し、対処していた。しかし今回の事件との関係については分かっていないと捜査関係者は話している。


 同社は以前から防火・防災に熱心に取り組んでおり、2018年10月17日に消防法に基づいて行われた立入検査でも不備はなかった。一方で、書籍や机、荷物が過密状態で積まれていた。


 12月25日

 10時31分頃

 第1スタジオ(地上3階建て、延べ面積691.02 m2)に男が侵入、バケツ2個で10リットルから15リットルのガソリンを建物1階に撒き「死ね!」と叫びながらライターで着火した結果、爆燃現象が発生。


 10時33分

 つくば市消防局に最初の119番通報、その後の2分間で同じ内容の通報が22件寄せられる。


 10時35分

 最初の救急隊が出動。


 10時40分

 多数の負傷者を確認し、増援を要請。


 10時43分

 後続の部隊により放水開始。


 10時44分

 屋外に避難した社員13人のトリアージ開始。


 10時55分

 1階屋内の救助活動開始。


 11時10分

 赤(重症)の判定完了。


 11時15分

 2階の救助活動開始。


 11時17分

 負傷者の病院収容開始。


 11時28分

 黄(中等症)の判定完了。


 11時30分

 3階の救助活動開始。


 12時23分

 重症と判定された10人の病院への搬送完了。


 12時30分

 第1次応急体制(消防庁災害対策室)


 13時40分

 緑(軽傷)の判定完了。


 13時45分

 塔屋の扉開放。


 14時00分

 1階で発見された2人の遺体の搬送完了。


 14時03分

 全負傷者の病院収容完了。


 15時19分

 燃焼拡大の危険がない鎮圧状態宣言。


 16時15分

 火災原因調査の技術的支援のため、消防庁職員3名、消防研究センター職員2名を現地に派遣。


 22時20分

 火災鎮火。


 死者の内2人は、3階から屋上へ上る十数段の階段で折り重なるように倒れた状態で発見された。屋上階段は煙がたまりやすく、目を開ける事すら困難だったと木村は推測している。また、心臓が停止する直前まで非常に激しい運動により消耗したはずだ。


 被疑者の中島宣彦は1978年(昭和53年)に生まれ、3人兄妹の次男(第2子)として、栃木県N町で育つ。中学卒業後は、定時制高校に通いつつ、同町文書課の非常勤職員として3年間勤務した。高校卒業後は、後述の強盗事件まで新聞販売店などの職を転々とする。21歳の時に父親が自殺し、一家は離散した。

 2006年(平成18年)には東京都荒川区で下着を盗んで逮捕され、執行猶予付き有罪判決を受けている。2008年(平成20年)12月、世界金融危機による派遣切りにより、茨城県つくば市にある雇用促進住宅に移り住む。ここでは家賃滞納や騒音の問題を頻繁に起こしており、電気も止められていた。  

 2012年(平成24年)6月19日には住居の壁に穴を開け、ガラスを割るなどして暴れ、翌日未明(0時20分ごろ)に故郷N町のコンビニエンスストア『シックスナイン』で現金21,000円を奪う強盗事件を起こした後、11時ごろになってN警察署に出頭して逮捕された。その際には「遊ぶ金が欲しかった。アンデッドの仲間も次々逮捕されており、逃げ切れないと思った」

『アンデッド』とは派遣仲間と設立したテロ組織だ。

「仕事上で理不尽な扱いを受けるなどして、社会で暮らしていくことに嫌気が差した」と供述している。同年9月、強盗及び銃刀法違反により懲役3年6月の実刑判決を受ける。2016年(平成28年)初めに出所し、同町にある更生保護施設で過ごした後、同年7月からつくば市のアパートに入居した。そこでは生活保護を受けながら暮らしていたが、そこでも騒音などの問題を度々起こしていた。

 この頃、ゲームクリエイターを目指してつくばゲームステーションの企業説明会に出席。面接を受けるが選考に落ちる。


 12月24日午前

 中島は事件現場から南へ6キロメートルのホームセンターでガソリン携行缶や台車を購入。

 同日午後

 台車を押して本社付近を歩く。

 同日夜

 事件現場から南西へ500メートルの公園で野宿。中島は前途の通り、騒音問題でアパートから追い出されている。深夜に大音量で音楽を聴いたりしていた。


 12月25日

 午前10時0分頃

 事件現場から西へ500メートルのガソリンスタンドで「発電機に使う」と店員に告げてガソリン40リットルを購入。


 午前10時31分頃

 路地でガソリン約10リットルを2つのバケツに移し替えて携行缶を遺棄した後に北へ30メートル移動し、6本の剥き出しの包丁(内5本は鞄の中)とハンマーを付近に置いた状態で、第1スタジオ正面玄関から侵入してガソリンを撒き放火。直後、自身の衣服にも引火した状態で逃走し、現場から南へ100メートルの商店街で追いかけてきた2人の男性社員に取り押さえられ、つくば警察署署員に身柄を確保された。この時、中島のズボンに火がついていたので、近隣住民が散水ホースで消した。この時、「ガソリンを撒いてチャッカマン(多目的ライター)で火をつけた」と供述している。

 他にも声をかけた刑事に、「触るな!おれの作品をパクりやがったんだ。社長を呼べ!社長に話がある!」などと叫んでいた。

 

 12月31日

 特別背任などの罪で起訴されていた月光産業前会長の児島真紀がレバノンへ無断で出国したことが発覚。これを受け東京地裁は、海外渡航禁止の保釈条件に違反したとして保釈を取り消した。


 浩正は叔父の江藤勘治郎の家に居候させてもらうことになった。叔父の家は筑穂タウンにあった。

 江藤はSF作家だ。量子テレポーテーション。情報だけなら量子力学の仕掛を使ってテレポート出来る。未来の人間と通話やメールくらいなら出来るようになる。


 年始休みを返上して浩正は仕事に出ようとしたが、脅迫事件があってしばらく稼働が中止になるという。

 職場ではアンパンなどを作っていた。同じ部署に赤間実ってのがいた。あの赤間の関係者だろうか?

 コタツで昼寝をした。

 派遣営業マンのイッシキ・シロウが夢の中に出て来た。イッシキは柳の木の下で首を吊っていた。


『激ヤバミステリー大賞』の審査員で横山一成に宛てた文書の中で犯人と思われる人物は、マスコミが事件を取り上げなかった場合、公表してほしいと求めていた。

 送られた封筒の中には、各社へ送った全種類の脅迫文のコピー、毒入り菓子が入っていた。


 2020年1月3日

 一色四郎の首吊り死体が大曽根鹿島神社で発見された。この神社の建立は1192年、『いい国作ろう鎌倉幕府』って小学校で習った。沖ノ島から移されたらしく、タケミカヅチノミコトが祀られている。一色は巨木で首を吊っていた。


「気になることがあるんだ」

 すき家で浩正は木村と昼食を取っていた。

「気になること?」

 浩正は木村の顔を見た。

 カウンター席で肩を並べて牛丼を食べる。

 木村は大量に七味をかけた。

「食事中に悪いが、一色の遺体は首が伸びていなかった」

 首吊り死体は決まってろくろ首みたいになっているらしい。

「つまり、首吊りじゃない?」

「別の場所で殺された後、吊るされたようだ」

 首筋に手で絞められた痕があったらしい。

 木村のスマホが鳴った。

「もしもし、ヒラ、どうした?」

 平井からのようだ。

「えっ!?マジかよ!?」


 遠藤さくらは『スーパーマリオブラザーズ』にハマって深水に弟子入りした。日野里美はシナリオライターだった。

 さくらは、試用期間に『ギリシアを舞台にしたファンタジー』ってお題でシナリオを書いたが、現地に行ったことがない為に『リアリティに欠ける』と里美から指摘を受けた。が、後日、『アローアダイが復活してるのはユニークだった』と褒められた。アローアダイは怪力の巨人。オリュンポスの神々に挑んで滅ぼされる。

 さくらは一昨年、リストラに遭っているが恨んだことは一度もない。思い出の詰まったオフィスが一夜にして燃えてしまった。

 涙が溢れてきた。夢の中でナカジマ・ノブヒコが柳の木の下で首を吊った。

 目が覚めたのは昼過ぎだった。

 テレビをつけたら刑務所の中で中島宣彦が首を吊ったってニュースがやっていた。

「正夢になった」

 

 赤間兄は遠藤さくらに思いを寄せていた。北岡と名前を変えて、食品工場で派遣として働いていた。同じ工場には弟や有田もいた。

 一色はひどい男だった。さくらに告白した。『結婚してくれたら社員にしてやってもいい』だが、さくらはオタクな感じの一色に吐き気を覚えていたために断った。

 一色は他の社員がやったミスをさくらに押しつけてきた。

「とんでもないことをしたと思ってる」

 鉾田市の海岸で浩正とさくらは対峙していた。パイロキネシスを使おうとしたがあれを使うと最近、動悸がする。

 さくらは『海』の玉を握って呪文を唱えた。

「ザブンサブンザブン」

 海が真っ二つに裂けて、津波が起きた。さらに大量の鮫が浅瀬に向かってくる。

 浩正は死を覚悟した。

 赤間兄が上空に現れてショットガンで鮫を次々に殺していく。巨大化した椎名多江に浩正は抱えられ津波に飲み込まれずに済んだ。浩正は『天』の玉に祈りを込めた。最近では呪文を唱えなくても魔法を起こせるようになった。暗雲が立ち込め雷鳴が鳴り響いた。⚡、稲妻がさくらの体を貫いた。

「イギャァァァッ!!」

 さくらの断末魔に赤間兄は思わず耳を塞いだ。さくらは二目と見れぬ醜い姿になっていた。赤間兄は鮫を殲滅し終えた。

「さくらァッ!」

 赤間兄の悲痛な叫びが響いた。

 

 12月の脅迫状を最後に、しばらくの間目立った動きは無かったが、1月15日、N大学やコンビニ『シックスナイン』に『怪人25面相』を名乗る人物から脅迫状が、報道機関に声明文が届いた。声明文では、『黒子探偵団』関連の菓子に毒を入れて置いたことが示唆されており、商品の取り扱い中止・撤去を要求していた。これを受けて『シックスナイン』は該当商品を店頭から自主回収・撤去した。同様の脅迫状は菓子を取り扱う『クローズド・サークル』や製造元の『バンドー』にも届いていた。

 回収された菓子のうち、『シックスナイン』から回収されたものの中の1つから、致死量の100分の1程度のニコチンが検出された。

 脅迫状には食品会社の社名を挙げた上で『大量に人が死ぬ』などと書かれていた。


 1月20日、木村と平井は愛知県豊橋市に住む当時36歳の元派遣社員の伊藤和也を、N大学に犯行声明文と硫化水素が発生している容器を置いてN大学の業務を妨害したとして、威力業務妨害容疑で通常逮捕した。

 伊藤は豊橋駅近くの路上で、脅迫文を郵便ポストに入れようとしているところを確保された。


 伊藤が所持していたリュックサックには、1月末に愛知県内で開催予定の高校のバスケ大会や、コミックマーケットの主催者などへ開催中止を求める脅迫文など、約20通が入っていた。

 伊藤は小学校時代、バスケ部に入っていたがヒドい扱いを受けていた。また、街中で徳井を見かけて挨拶をしたが無視されたことで恨みを抱いた。

 浩正は犯人が同じ職場の人間だと知って驚いた。迷惑な奴だ。伊藤のせいで仕事がなくなってしまった。


 

 

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る