第13話 さるとらへび


 兄は異世界に行っている。

 菜々子は天龍島にやって来た。島に来る前に仙台で牛タンを食べた。サファイアブルーの海は白波が立っていた。

 炎氷地天山海の6つの玉のうち、残ってるのは天山海の3つだ。洞窟の中にやって来た。「甘酒はいらんかねぇ」甘酒ババアが現れた!菜々子は予め、妖怪について調べてきた。確か、これに答えてしまうと、甘酒がある、ないのいずれの返答でも病気になるんだった。

 この妖怪の来訪を防ぐためには戸口にスギの葉を吊るすと良いと信じられていた。似たもので山梨県では「アマザケバンバァ」が毎晩、甘酒や酒を売ろうと家々を訪れていたが、戸口に「甘酒や酒は嫌いだ」と貼ると来なくなったという。


 かつて江戸では流行病の時期、疫病神である甘酒婆が「甘酒はないか」と言いながらやって来るといわれ、江戸各地に後述のような咳を治める老婆の神像があったことから、子供を抱える母親たちは急いでこの神像を拝んだという。


 文化14年(1817年)から文政3年(1820年)にも、江戸・京都・大坂の三都や名古屋などの大都市でもこの甘酒婆の噂話が流行しており、人々は甘酒婆の甘酒を売る声に返事をすると流行病を患うといって恐れ、前述のスギの葉やナンテンの枝、トウガラシを門口に吊るしたり、「上酒有」と書いた紙を貼っていた。この噂話は、本来は疱瘡(天然痘)を患うという話が伝聞を経て単なる流行病と変化したものと見られ、このことから甘酒婆とは疱瘡の疫病神である疱瘡神のこととする説もある。


 また長野県飯田市では、冬の寒い真夜中に、民家の戸を叩いて甘酒を売って歩く者を甘酒婆と呼ぶ。

「ババァ死ねよ!」

 別に毒蝮三太夫の真似をしたわけじゃない。菜々子はウェストポーチの中に入れた『氷』の玉を握り、「コオレコオレ」と呪文を唱えた。甘酒婆はカチンカチンに氷結して、仏像みたくなった。

 菜々子は『天』の玉を手に入れた。天災を起こせるほか、IQや運気を上昇させる効能があった。


 浩正と多江は戦国時代から戻って来た。

 

 岡島栄太は、松島勇太や川口真美などの詐欺グループにハメられて大金を失った。

 金と人生を取り戻す為に詐欺師になった。

 

 多田龍臣は仙台での住職をする傍ら、詐欺を行った。計4件の詐欺で1億3千万円をだまし取った。

 詐欺グループが多額の負債を抱えていた多田に目を付け詐欺計画を持ち込み、多重債務者に得度を受けさせていた。事情に詳しい天海純子は、寺院は檀家を何百人も持ってはおらず、寺院経営だけで生活するのは苦しいと証言した。

 一方、多重債務者には、協力すれば借金を帳消しにすると持ちかけていた。得度の実態は、1日だけ白い法衣を着せ、10分間お経を読み、さも何年か修行したように見えるように座って写真を撮るだけであった。その後、僧侶として法名を与えられた多重債務者に、住職が作成した得度を証明する書類と写真を添付し家庭裁判所で戸籍の名前を変えさせていた。手続きは形式的な審査でわずかな時間で終わった。戸籍上の名を変えた多重債務者は別人になりすまし、さらに偽造した源泉徴収票を使いローンをだまし取っていた。チェックが甘い背景には、出家して仏門に入るという神聖な行為であるために、悪用されないだろうという性善説に立っている現状がある。

  

 久々に菜々子は実家に帰って来た。

 父の有田幸四郎は川口真美たちによって両足を切り取られ車椅子の生活を余儀なくされていた。蒲生俊介、蒲生慶子という訪問ヘルパーが来ていた。

「2人はご夫婦なんだ」

 風呂から上がって有田幸四郎はさっぱりとした顔をしていた。

「結婚して今年で3年目なんです」

 慶子はドライヤーで幸四郎の髪を乾かしながら言った。シャンプーのフローラルな香りがした。

 蒲生俊介はその間に夕食を作ってくれた。

 幸四郎の好きなオムライスだ。

 俊介の視線がフライパンから仏壇の遺影に移る。微笑んでる若い女性がそこにはある。

「奥様ですか?」

「あっ、あぁ……この子が3つのときに子宮ガンで亡くなってね、それ以来私一人でこの子と浩正って上の子を育ててきました」

「それは大変でしたね?」

 

 蒲生夫妻が帰り、菜々子はコンビニで買ってきたドリアを食べながらニュースを見た。全国各地で詐欺が多発している。

 幸四郎はとっくにオムライスを食べ終えていた。

「金融機関側は個人情報保護が厳しくなる世間の流れの中で身元を詳しく調べることに慎重になっているからな?こうした事情を逆手に取ってるんだろう?」

「さすが、元刑事ね?」  

 

 異世界から浩正は戻って来た。椎名多江、菜々子、それから幸四郎を連れて岐阜にある旅館に遊びにでかけた。旅館はうだつの上がる町並みの近くにあり、最寄り駅は美濃太田駅だった。旅館を経営するのは白井りえ、幸四郎の高校時代の同級生だった。

「彼女とは剣道部で一緒だったんだ」

 そう話す幸四郎の変わり果てた姿を見て白井は唖然としていた。

「幽霊みたいだろ?」

 幸四郎はことの経緯を説明した。

「それは災難だったね?けど、死んだはずの息子さんが生きていてよかったわね?」

「うん、まるで夢でも見てるようだよ」

 宿には他に男性が1人、女性が2人いた。

 ロビーには🐒、🐯、🐍……奇妙な3つの置物がある。ロビーで紅茶を飲んでいた若い女性が「さるとらへびって伝説をご存知?」と言った。

「さぁ?」

 浩正は首を傾げた。女性は門脇カオリというらしい。ファンタジー作家をしているという。

 さるとらへびは、岐阜県旧洞戸村(現関市)付近に伝わる伝説に登場する魔物。

 高賀山に住む魔物が悪さをしていると聞いた朝廷が藤原高光を派遣し、瓢箪に化けていたさるとらへびを高光が討ち取った、とされる。


 高光が配下を連れて当地に到着し、最初にさるとらへびを見つけたのが現在の『金峰神社 (美濃市)』である。このことから地名を『形知』(現・片知)と名づけ、『形知の社』として創建したのが金峰神社の始まりと伝わる。


 都から派遣された兵では山での戦いに不慣れであると考えた高光は、先ず『高賀山大本神宮大行事神社(現・高賀神社)』を再建し、現地民と共に七昼夜妖怪退治の祈願をした。その後、高賀山麓の六ヶ所に神社(高賀六社)をそれぞれ建立した。高賀神社での祈祷の日々に、高光は夢で「瓢箪を射よ」との神託を得た。


『星宮神社』も高賀六社の中の一つ。伝説によると、藤原高光がこの辺りまできたときに、道がわからなくなってしまったが、善貴星という神が高光に粥を施したという。また、川の鰻が正しい道を教えたことにより、無事さるとらへびの元へ辿り着いた。このことから、名を粥川とし、この川では鰻を採ることも食することも禁止となった。「粥川ウナギ生息地」は大正13年(1924年)に国の天然記念物に指定されている。また、粥川中流域には高光が用いた矢を納めたと伝わる『矢納ヶ渕』がある。


 高光が妖怪を追い求めて高賀から乙狩谷に来た時、山全体が黒雲に包まれて進めなくなってしまった。そのとき高光が矢を黒雲の中に放つと雲が無くなり、やがて滝にたどり着いた。この滝の近くの洞がさるとらへびの棲家であった。高光はこの滝で野宿をすると、滝の神々が妖怪を追い払う夢を見た。そこで滝のほとりに祠を建立したのが、『瀧神社』の始まりと伝わる。


 高光は、神託に従って『ふくべヶ岳』に至り、頂上の沼のほとりに立つ木に成った瓢箪の中から、ひときわ大きなものを見つけて矢で射た所、さるとらへびが討伐された。


 その他、菅谷には高光が草鞋を履き替えたとされる『草鞋が森』、高賀山の神が討伐のための矢を作るように命じ、矢柄を作ったとされる『矢作神社』がある。矢作神社には宝物として妖怪退治に使った矢、木鉾、獅子頭が所蔵されている。


 話を聞き終えた浩正は『鵺』みたいだな?と思った。『平家物語』などに登場し、猿の顔、狸の胴体、虎の手足を持ち、尾は蛇。文献によっては胴体については何も書かれなかったり、胴が虎で描かれることもある。また、『源平盛衰記』では背が虎で足が狸、尾は狐になっている。さらに頭が猫で胴は鶏と書かれた資料もある。


 描写される姿形は、北東の寅(虎)、南東の巳(蛇)、南西の申(猿)、北西の乾(犬とイノシシ)といった干支を表す獣の合成という考えもある。


 天海純子は地面師の被害に遭っていた。地面師は土地売買にまつわる詐欺。印鑑証明書を偽造するなどして土地所有者に成りすまし、売買代金を騙し取る。

 2017年4月24日、つくば駅から徒歩3分の立地にある旅館『猿丸館』の所有者Kを名乗る女と約600坪の旅館敷地を70億円で購入する売買契約を締結。

 

 6月1日に売買の窓口となった『メデューサ株式会社』(千代田区永田町)に所有権移転の仮登記、さらに同日、天海ハウスに移転請求権の仮登記がなされ、同日、売買代金のうち63億円を支払い、直ちに所有権移転登記を申請した。しかし6月9日に法務局より所有者側の書類が真正ではないとして登記申請が却下され、6月24日には相続を原因として所有者Kの実弟である男に所有権移転の登記がなされた。

 主犯格の男、『地獄のK』と呼ばれる、所有者Kに成りすました女を中心とした地面師グループにより騙し取られたことが発覚した。


 9月15日、警視庁に詐欺容疑で告訴状を提出した。なお、メデューサ社の本社所在地は登記上、多田龍臣の事務所となっているが、事務所側は「登記上、事務所にしていただけ」としている。


 相続登記後、『地獄のK』らとは連絡が取れなくなり、63億円のうち女からの預かり金7.5億円を相殺したが、残りはほぼ回収困難と見込まれることから55.5億円の特別損失を計上。事件の責任を取る形で、会長と社長は2カ月間、減俸20%、ほかの取締役は減俸10%とする処分を発表した。


 土地の本物の所有者は2017年5月にこの情報を知り、天海ハウスに偽造である旨を指摘する内容証明郵便を複数回送付していたにもかかわらず、取引妨害とみなして調査することなく無視していたこと、偽造パスポートで本人確認をしただけだったことといったずさんな対応が明らかになっている。


 12月7日

 翌朝、浩正は部屋でニュースを見ていた。虎居電機の新入社員が同年8月にパワーハラスメントを苦に自殺していた件で、加害者の上司がこの日書類送検された。これらのことが影響し、同社は2年連続でブラック企業大賞を受賞。

 浩正は朝食を食べようと、幸四郎の車椅子を押して食堂に向かった。有田家の3人は幸四郎が足が不自由な為に1階に宿泊していた。他の人は2階に宿泊している。

 浩正は昨夜、不可思議な夢を見た。

 カドワキ・カオリが川を泳いでいるのだが、尻から内蔵を引っこ抜かれて殺されてしまうのだ。

 

 白井りえが困惑した表情で食堂の前にいた。

「どうしたんだい?」

 幸四郎が声をかけた。

「あぁ、有田君……ロビーに飾ってあった猿の像がなくなってるのよ」

 浩正は車椅子を押してロビーに向かった。りえの言ったとおり猿の像が忽然と消えている。  

「夜中のうちに何者かが盗み出した?」と、浩正。

「お宝鑑定団にでも出そうとしていたのかしら?」と、りえ。

「これだから凡人は……」

 いつのまにか菜々子が立っていた。

「今頃起きたのか?」

 幸四郎は菜々子が中2の文化祭のときに寝坊して担任に家庭訪問されたことを思い出した。

「これは見立て殺人よ」

 菜々子は大きなあくびをした。

 

 童謡や言い伝えなどある特定のもののに見立てられて、死体や現場(発見現場ないし殺害現場)が犯人に装飾させられている殺人事件のことである(殺人にまで及ばないこともある)。筋立て通りに殺人が行われるという異様な不気味さを狙ったもので、トリックというよりもプロットに属するが、アガサ・クリスティの『ABC殺人事件』や横溝正史の『八つ墓村』のように、見立てることがトリックという例も少なくない。


 江戸川乱歩は『類別トリック集成』の中で『童謡殺人』『筋書き殺人』という名称で見立て殺人を取り上げている。この中で乱歩は故人の言葉や古文書などの筋書き通りに恐ろしいことが起きるという着想は日本の古い物語や、オラクル、亀卜のような占い、また聖書などにも見られ、それら同じ恐ろしさを探偵小説に応用したものと解説している。


 浩正は夢の話をした。

「エンコウかも知れないわね?」

「えっ、援交?門脇ったら清楚な顔してエロいのぉ」

「何か勘違いしてない?」

『猿猴』とメモ帳に菜々子はボールペンで書いた。

 猿猴は広島県及び中国・四国地方に古くから伝わる伝説上の生き物。河童の一種。

 一般的にいう河童と異なるのは、姿が毛むくじゃらで猿に似ている点である。金属を嫌う性質があり、海又は川に住み、泳いでいる人間を襲い、肛門から手を入れて生き胆を抜き取るとされている。女性に化けるという伝承もある。


 土佐にいる猿猴は、3歳ほどの子供のようで、手足は長く爪があり、体はナマズのようにぬめっているという。文久3年(1863年)に土佐国(現・高知県)で生け捕りになったとされる猿猴は、顔は赤く、足は人に似ていたという。手は伸縮自在とされる。ある男が川辺に馬を繋いでいたところ、猿猴が馬の脚を引いて悪戯をするので、懲らしめようと猿猴の腕を捻り上げたが、捻っても捻ってもきりがなく、一晩中捻り続ける羽目になったという。


 民俗学者・桂井和雄の著書『土佐の山村の妖物と怪異』によれば、土佐の猿猴は市松人形に化けて夜の漁の場に現れ、突くとにっこり笑うという。


 人間の女を犯すこともあるという。猿猴が人に産ませた子供は頭に皿があり、産まれながらにして歯が1枚生えているといい、その子供は焼き殺されたという。


 また河童に類する四国の妖怪にシバテンがいるが、このシバテンが旧暦6月6日の祇園の日になると川に入って猿猴になるといい、この日には好物のキュウリを川に流すという。


 山口県萩市大島や阿武郡では河童に類するタキワロという妖怪がおり、これが山に3年、川に3年住んで猿猴になるという。


 広島市南区を流れる猿猴川の名前の由来となっている。付近では伝承にちなみ『猿猴川河童まつり』が開催されている。


 サイレンの音が聞こえた。長良川で門脇カオリの水死体が発見された。内臓は抜かれていなかったらしい。

 昼過ぎ、多江は部屋でニュースを見ていた。有田兄妹はうだつの町並みに遊びに出かけている。

 トントン!🚪ドアがノックされた。

 多江はテレビを消して恐る恐るドアを開けた。殺人犯だったらどうしよう?まぁ、もしものときは巨大化して戦うけどね?

 ドアの向こうにいたのは有田幸四郎だった。

「お父さん」

「今、大丈夫かい?」

 部屋の外から冷たい空気が入り込んでくる。

「寒いでしょうから中へどうぞ?」

 幸四郎が犯人である可能性もあった。門脇カオリが亡くなったのは本日午前3時〜午前5時、宿にいた人間は全員眠っていた。

「すまんな」

 幸四郎を中に入れ、ドアを閉めてしばらくすると暖かさが戻って来た。

「何だか、同じ宿に泊まっていた人が殺されるなんて怖いですよね?」

「そうだなぁ……椎名さんは浩正をどう思ってるんだ?」 

 幸四郎はいきなり切り込んできた。まだ、多江は浩正とキスとかエッチとかしていない。

「優しい人だと思います」

「浩正はもしかしたら人間じゃないかも知れない、それでも友達でいてくれるか?」

 多江が浩正に好意を覚えたのは、彼が自分と同じ怪物だったからだ。

「勿論です」

「ありがとう、まだエッチとかしてないのか?早く孫の顔が見たい」

「ちょっと!お父さんったら」


 うだつの上がる町並みは見事なものだった。旧今井家・美濃史料館は江戸中期の市内最大規模の商家。最も古いうだつ軒飾りの形式を持つ。復元された水琴窟がある。市指定文化財。

 小坂家住宅 は安永初期の造り酒屋。屋根全面に『起り(むくり)』をもつ美しい景観が特徴。国指定重要文化財。

 町並みギャラリー・山田家住宅 は享保6年開業の町医者。陶器製の防火水槽がある。現在は和紙ちぎり絵などのギャラリー

 松久達三家も見事だ。今井家より少し発展した軒飾り。加藤家は18世紀中期のものと思われるうだつ飾り。平田家は明治初年の大火後に建てられた家。江戸時代より立派なうだつ飾りだ。他には大石家、梅村家、鈴木家、西尾家、古田家、松久家、渡辺家、旧武藤家、小坂家、古川家、岡専旅館、時代軒などがある。

 2人は小倉山城址にやって来た。

「お兄ちゃん」

「何だい?菜々子」

「徳島にも同じようなのがあるの知ってる」

「そうなのか?」

「高校の卒業旅行で四国に行ったんだけど、こっちは『うだつの町並み』って名称だった」 

「『上がる』がつかないってわけか?」

「うん」

 慶長10年(1605年)、飛騨高山藩主であった金森長近は、養子の可重に高山城を譲り隠居した。この城は長近の隠居城として築城された城である。別名『小倉居館』とも言われる。

 山腹部分に本丸と二の丸が築かれ、山麓に三の丸があったと言う。

 その後、可重より長近の実子長光に2万石が分知され美濃国に上有知藩が成立。慶長16年(1611年)に長光は嗣子無く没し改易、廃藩となり、小倉山城も廃城になった。 

 元和元年(1615年)上有知は尾張藩の所領となり、城跡に上有知代官所が置かれた。

 現在は石垣と土塁が現存している。また本丸に模擬櫓、山頂に三階建ての展望台と忠魂碑が建造されている。小倉山城跡として、美濃市指定史跡となっている。

 展望台からはうだつの上がる町並みが見渡せた。寒空が広がり、北風に浩正は縮み上がった。

 菜々子が腕時計を見た。「もう4時か、宿に戻ろう」

 

 田島は上有知湊にやって来た。長良川沿い岐阜県美濃市にある川湊だ。難しい字だったので現地の人に読み方を教えてもらったら『こうずちみなと』と読むことが分かった。

 船着場跡の石畳、住吉型川湊灯台が残っている。

 1600年

 金森長近、関ヶ原の戦いの功により徳川家康から美濃国上有知に領地を受け、飛騨高山藩領となる(約2万石)。


 1601年

  飛騨-上有知 間を結ぶため、津保街道が整備される。(関-上有知-口之野-樋ヶ洞-見坂峠-西洞-殿村-津保谷-金山-飛騨街道に合流)

 金森長近、長良川畔の小倉山に小倉山城を築城する。


 1606年

 小倉山城の東側に城下町を設け上有知町の町割りがほぼ完成する。上有知川湊を開設、番船40艘。美濃和紙、荏胡麻、生糸、酒ほかの輸送基地として、上流から運ばれる木材運搬の中継基地として、水運物流の要所として栄える。美濃国四大川湊のひとつとなる。


 1615年

 尾張藩領になる。


 江戸時代末期

 住吉神社の献灯を兼ね、住吉灯台(川湊灯台)が建設される。高さ約9m。


 1911年

 岐阜市内に鉄道が開通、水運交通の要所としての役目を終える。上有知町が美濃町と改名される。


 1954年

 武儀郡美濃町が周囲の村と合併し美濃市にとなる。


 田島は周辺を散歩した。曽代用水は長良川から取水する用水。1667年着工、1675年完成。親水公園が整備されている。

 美濃橋という吊り橋の袂にやって来た。1916年完成。長良川の左岸上有知と右岸前野を結ぶ。室町時代からの渡し前野渡に代わった。橋長113m。建設時、日本最長の吊り橋。現存する日本最古の近代的な吊り橋。国の重要文化財(2003年)。1956年、上流に新美濃橋が架けられた。

 

 田島はオークション詐欺の被害者だ。インターネットのオークションサイトでブランド品などを格安(最低価格1円 - )で掲載し、落札者に偽名の口座に料金を振り込ませてお金を騙し取るなどがある。また、逆に商品を送ったのに代金が指定口座に振り込まれない場合も含まれる。


 さらに、落札した商品を送料着払いで送りつけて来て、箱を開けてみたらとは全く別物だった場合もあり、相手に連絡しようとした時には代金が口座から引き落とされて既に逃走している。訴えられた場合「うっかり間違えた」と説明すれば責任が問われない法律の盲点を突いている。


 偽ブランド物を送ってくる場合も後を絶たず、これらでは出品者は「偽物とは知らなかった」などと言い張り、返却してくれと言われたので送り返すが、振り込んだ代金がいつまでも返金されず、そのうちに連絡が付かなくなり送付先の住所も移転してしまった後となり、追跡が不可能となるケースも報じられている。同様のケースとして、スペックの低いパソコンや品質に問題のあるジャンク品を送ってくるケースもあり、この場合オークション補償の対象外となり、同時に詐欺罪で警察署に被害届や告訴状を提出しても民事不介入を理由に受理しないケースがある。

 田島は彼女の為にプラダの靴を手に入れようとしたが、罠だった。


『人を欺いて財物を交付させた』(刑法246条1項)、あるいは『人を欺いて』『財産上不法の利益を得た』(刑法246条2項)と客観的に見なすことができれば、一度の行為でも詐欺罪が成立する。ただし、立証の困難を理由として訴追に至らないケースもあり得る。しかし同じ手口を何度も行った者が、逮捕された後に別件の詐欺で追起訴されたケースも少なからず存在する。


 田島をハメた詐欺グループが使ったのは未送付詐欺っていう手段だ。

 オークションサイトで最も一般的な詐欺。商品代金を振り込むが一向に商品が発送されず金銭を騙し取られる。評価を騙るために後述のID乗っ取り詐欺と併用されることも多い。発覚を遅らせるために偽の追跡番号を送付したり、連絡を絶つのではなく理由を付けて送付が遅れると『取引の意思』を示すことによって警察の介入を防ぐパターンも多々見られる。

 

 浩正は散策から帰ってきて、幸四郎を風呂に入れた。大浴場は1階にあり、乳白色の湯だった。露天風呂はなかった。幸四郎はかなり重く、腰が痛くなった。大浴場には先客がいた。彼は幸四郎をジロジロと見ていた。彼は多田龍臣で、この宿を餌食にするつもりでいた。

 クレジットカード詐欺だ。

 天海純子は『白井亭』という宿に泊まり、ルームサービスの朝食をオーダーした。

「これで明日の心配はない」

 夕方のニュースでも見ようとリモコンに手を伸ばすと内線電話が鳴り出した。

 受話器を取り、耳に当てると女将からだった。オーダーに問題があったためもう一度カード情報を読み取る必要があると告げられた。

 純子は怪しいと感じはしたのだが、女将は私の名前と部屋番号を知っていました。私が朝食を頼んだことも、部屋付けになる朝食代の正確な額も知っていました。

「女将だったら知ってて当然か……」

 純子は部屋で仕事をしていたので、わざわざロビーまで降りていって、フロントでカードを見せるのも面倒に思いました。それでつい、電話でカード情報を伝えてしまったのです。


 それから数分のうちに、アメックスから電話とテキストメッセージで、食料品店で2万円の買い物にあなたのカードが使われているが、これは不正利用ではないかとの連絡が来た。

 純子は、カード会社がすぐに対応してくれた。「危うく騙されるところだった」


 それでも、ほかの人たちも同じ手口で詐欺の被害に遭っているのではと、気がかりで仕方なくなったそうです。


 女将の白井りえと一緒に被害届を記入した際に、警察からは、ここだけの話として、「ホテル内の内線電話にアクセスできるのは従業員だけなので、従業員の中に業務のかたわら詐欺行為に手を染めている者がいる可能性が高い」との説明を受けた。


 夕食のメインディッシュは飛騨牛ステーキだった。浩正は夕食を終え、昨夜と同じく幸四郎と風呂に入った。

「明日の10時にはチェックアウトするから用意しておけよ」

 湯船に浸かってる幸四郎が言った。

「うん」

「それでおまえ、仕事はどうすんだ?」

「派遣に登録しようかな?」

「あんなのいつ切られるか分からないだろ?ハローワークに行って正職員の仕事見つけろよ?」

「今の時代、就職は難しいんだ」

「ビビってる場合じゃないだろ?30過ぎたら、ナカナカ受け入れられなくなるってニュースでやってたぞ?」

「けどさぁ……」

「おまえ、男だろ?金玉ついてんだろ?多江さんを幸せにしてやれ?キチンとした仕事を見つけろよ」

 

 その夜は布団が合わないせいかナカナカ寝つけなかった。コウシロウが死ぬ夢を見た。うだつの上がる町並みで虎の怪物に喰われて死ぬのだ。

 目を覚ますと幸四郎の姿がなかったので焦った。浩正が床についたときは幸四郎はいなかった。菜々子とロビーで団欒していた。トイレにでも行ってるのか?この宿は室内にトイレがないタイプだった。トイレや菜々子の部屋にも姿はなかった。

「まさか、犯人に?」と、菜々子。

 菜々子はパジャマの上にジャンバーを着た。浩正はダウンベストを着ている。

「変なこと言うんじゃねーよ」

 浩正は夢の話を菜々子にした。

「人虎かも知れないわね」

 人虎とは、虎あるいは半虎半人の姿に変身したり、虎に憑依されたとも言われる獣人の一種。虎人・虎憑き・ウェアタイガーとも。性別によって虎男・虎女とも呼ばれる。


 インドから中国にかけてのアジア一帯に似たような伝説があり、虎が生息しない日本でも中国の影響によってその存在が信じられたという。


 中国・宋朝から清朝にかけて執筆された志異・志怪などを記した説話集、『太平広記』・『古今説海』・『唐人説薈』などに「人虎伝」として虎に変身する男の説話が収録されている。日本の作家・中島敦は、『唐人説薈』中の「人虎伝」に取材して小説『山月記』を執筆して郷里の秀才の悲哀を描出している。


 インドネシア・ジャワ島ではマガン・ガドゥンガン という虎人の伝説がある。諸説あるものの、『ンゲルム・ガドゥンガン』の魔法の儀式によって眠っている人の魂が体から抜け出して実体化されるとするものや持っている人間の親指ほどの大きさも無い腰布を夜に腰に巻くことで魔法が発動されるとも言われている。その魔法が発動されると、体が巨大化して全身が黄色と黒の虎縞で覆われてやがて虎の姿になり、夜中に人を襲って食する。だが、これによって虎になった者の呪いは解かれて、替わって襲われた者が呪いを受けて生き延びて虎に変身して次の犠牲者を探すことになるという。マガン・ガドゥンガンの上唇にはくぼみが無く、それによって探すことが出来るという。


 マレー半島では、虎憑きは家畜を襲い、特に鶏を好む。このため、古来虎憑きの疑いをかけられた人は吐薬を飲まされて、羽毛を吐き出せば虎憑きであるとして隣人・村人の手によって処刑されたという。


 インドでは、川で水浴する男達を襲う虎女の伝説があり、絵画などの題材に用いられている。


 またヨーロッパでも、虎人間 と呼ばれる胴体は虎で額から角を突き出した人間の頭部を持つという架空の動物がおり、紋章などに用いられた。また、インドに住むと信じられていた怪物マンティコラの原型も虎憑きの伝承に求める考えもある。


 2人は菜々子の部屋を出てロビーにやって来た。何と!虎の置物が姿を消していた。浩正は門脇が殺されたときのことを思い出した。あのときは猿の置物が姿を消した。

 浩正はフロントに行きベルを鳴らした。

 ボサボサ頭の白井りえが出て来た。

「どうかしました?フワァ〜」 

 白井は大きなアクビをした。

「父の姿がないんです」

「え!?」

 浩正はりえを連れてロビーにやって来た。

「虎の置き物が……」

「警察に電話してもらえませんか?」

「それは困ります」

「どうしてです?」

「万が一のことがあったら客が来なくなります」

 仕方なく浩正たちだけで探し出すことになった。食堂や違う部屋を探したがどこにもいなかった。浩正は大浴場へと全力疾走した。そこにもいなかった。

「オヤジ!どこだ!」

 数十分後、幸四郎はうだつの上がる町並みで遺体で発見された。車椅子の上で亡くなっていた。幸四郎を見つけた菜々子はその場で失神した。幸四郎は頸動脈を切られて亡くなっていた。石畳は血の海だった。


 白井りえは宿泊客を食堂に集めた。浩正の関係者以外の人間は、白井りえを除き3人。宿泊客は多田龍臣、天海純子。従業員は田島孝之。椎名多江が遅れてやって来た。

「お父さんが亡くなったって本当なの?」

「あぁ、未だに信じられない」

 遺体は病院に搬送された。

 菜々子は自室で泣きわめきながら『天』の玉を握りしめた。天災を起こして犯人の逃げ場を封じ込めるつもりだ。雷が鳴り響き、雨が降り出した。次第に雨足は強くなり、周囲の川は反乱し、交通網は遮断され、旅館はクローズドサークル化した。

 親父が嘆き、怒ってるみたいだと浩正は思った。

「全く何時だと思ってるんだ?」

 多田龍臣は不快感をあらわにした。

 そりゃそうだろう、午前2時に突然起こされて愉快な人間はいない。

「実はこの宿に宿泊されていました有田幸四郎様がお亡くなりになられました」と、白井りえ。

「病気か何か?」

 天海純子はロビーの自販機で買ったホットの午後の紅茶ミルクティーを飲んでいる。

「何者かによって殺害されたのです」

 白井りえがそう言うと、一同の表情が凍りついた。

「さっ、殺人……」

 田島孝之が唖然としている。彼はフロントなどを担当している。

「ここからすぐそこのうだつの上がる町並みで……」

 白井りえは涙を流した。

「客が亡くなったのはビックリだけどよ?何も泣くことはないだろ?」

 多田がぶっきらぼうに言った。

「私は有田さんとは古い友人でした」

「もしかして初恋の人とか?」

 天海純子が茶化した。

「………」

「女将さん、顔が赤いですよ」と、田島孝之。

「事情は分かった、部屋に戻っていいかな?だいたい、女将さん?警察でもないのにこんなことする権利あるのか?」

 多田が立ち上がった。

「私は皆様が心配だったのです」

「けど、怖いわよね?もしかしたら犯人がこの中にいるかも知れないじゃない?」

 天海純子は午後ティーのボトルを握りしめている。

「おい、アンタ!滅多なことを言うもんじゃないぞ?」

 多田は天海純子に人差し指を突きつけた。

「門脇さんが亡くなったばかりなのに」

 多江が言った。

「呪われてるんじゃないのか?この宿」

 多田はそう言って食堂を去ろうとした。

「なるべくなら部屋には戻らない方がいいかと……」と、白井りえ。

「はぁ!?寝かせろよ」

「犯人が潜んでないとも限りません」

「女将さんさぁ?何様なの?いい加減にしろよ!」

「まぁまぁ、そんなに怒らなくても?鍵をかけて眠ればいいだけの話」

 天海純子は多田を宥めた。

「そうだよ。だいたい、うだつの上がる町並みで死んでたんだろ?通り魔か何かじゃないのか?」

 多田の言うとおりだと浩正は思った。犯人が内部の人間だとして、わざわざ目立つようなところで殺す必要があったのか?トイレの中とか、風呂場とか、いくらでもひと目のつかないところはあるはずだ。

「とりあえず今夜は部屋に戻るとしましょう」と、浩正。

「何か武器になるようなものない?」

 天海純子が白井りえに尋ねた。

「モップでよければ」

 田島孝之が物置からモップを持ってきて天海純子に渡した。

「何だか猪八戒になった気分ね?」

 天海純子はモップを担いだ。

 一同は食堂を出た。ロビーに来たところで白井りえの足が止まった。

「女将さん?」と、浩正。

「あっ、あれ……」

 白井りえが指差した先を浩正は見た。蛇の置き物が消えている。

「また、誰か殺される?」

 天海純子は顔をしかめた。 

「もしかしたら俺か?」

 多田が言った。

「え?」と、浩正。

「俺、昔ヘビメタやってたんだ」

「へぇ〜、意外。『KISS』とかいいですよね?」

 多田は丸坊主なので真面目な印象があった。

「だからメデューサって名前にしたんだ」

「バンドの名前ですか?」

「会社だよ。はぁ〜罰が当たったかな?」

「何か悪いことでもしてたんですか?」

「何にもしてねーよ!とにかく、あれだな?あんまり部屋から出ない方がいいな?」

 多田と天海、多江は2階に戻った。

 多江はバリアフリー用のエレベーターを見つめた。幸四郎が多江の部屋を訪れたときはコイツを使った。

 浩正は菜々子の部屋に入った。 

「眠れないの?」

「それもあるけど、親父をどうして見放したりしたんだ?」

 浩正は夕食後、幸四郎たちとUNOをして遊んだ。菜々子、それに多江もいた。

「私と多江さんはあの後、お風呂に行ったの」

「そうだったのか?」

 ってことはロビーにいたのは推測にはなるが多田、白井、天海、田島の4人ってことになる。

「女子風呂にはそのとき誰がいた?」

「ワタシと多江さんだけよ」

 4人のうちの誰かが外に連れ出して殺害した。

 白井りえとはかなり仲が良かった。

『とっておきの場所があるの』と、誘い出してナイフでグサッ!

 🐒の意味はおそらく『猿丸館』だ。門脇エリカは詐欺師だった。

 では、🐯は?浩正は最初、虎居電機の人間が殺されるのだと思っていた。

 虎といえば?加藤清正の虎退治?阪神タイガース?幸四郎は巨人ファンだ。堀内巨人軍のときに後楽園に見に行ったことがある。清原や桑田をリアルで見た。

「そういや、親父ってシマシマのパンツだったよな?」

「虎模様の?タイガーマスクが好きだったのよね?」

「もう、寝るよ」

「ちゃんと鍵をかけてね?」


 部屋に戻ったが悲しさと怒りで寝つけなかった。自販機がロビーのところにあった。缶ビールでも飲めば酔って寝つけるかな?けど、犯人が近くを彷徨いてるかも知れない。

 いったい、蛇は誰なのか?多田はいったい何をしでかした?

 ノックの音がした。アマミ・ジュンコが部屋に入って来た。

「早く逃げて」

 蛇の大群に絡みつかれてアマミは毒を首筋に注入され死んだ。

 浩正は飛び起きた!今まで夢の中で死んだ人間は必ず死んだ。犯人が赤間みたいに空飛ぶ怪人ってこともあるかも知れない。いざってときはパイロキネシスを使う。

 階段を駆け上がる。「天海さん!天海さん!」叫んでると、ドアが開いて多田が出て来た。「うるせーよ!」

「すみません、天海さんの部屋ってどっちですか?」

「俺の部屋の隣」

「こっちですか?」

「あぁ!」

 ドアをノックした。ドンドンドン!

「天海さん!天海さん!」

「いったい、どうしたの!?」

 天海の真向かいの部屋のドアが開き、多江が出て来た。

「夢の中で天海さんが死んだ。門脇さん、親父のときもそうだった」

 鍵はかかっている。

「多江、フロントに行ってマスターキーもらって来て」

 浩正が言うと、多江はバタバタと階段を降りた。しばらくして田島を伴って戻って来た。田島がマスターキーでドアを開ける。

「遅かったか……」

 浩正は嘆いた。天海純子はベッドの上で仰向けで死んでいた。ニュルニュルと足元に蛇が寄ってきた。🐍

「ウワァッ!」

 浩正はパイロキネシスで蛇を倒した。

 👉🔥

「指から火が!ナニモンだ!?」

 多田が腰を抜かした。

「スミマセン、実は魔法使いなんです」

 浩正は正直に打ち明けた。

「マジかよ!?」と、田島。

 天海純子の口からは血が出ていた。ベッドは血の海だった。

「出血毒、さっきのはクサリヘビかも知れない」

 多江が言った。

「クサリヘビ?」と、浩正。

「血液のプロトロンビンを活性化させ、血液を凝固させる。その際に凝固因子を消費する為、逆に血液が止まらなくなる。さらに、血管系の細胞を破壊することで出血させる。血圧降下、体内出血、腎機能障害、多臓器不全等により絶命する。特に腎臓では血栓により急性腎皮質壊死を起す」

「やけに詳しいな?」

 浩正は感心した。

「医大に通ってたからね?途中で断念したけど……」

「蛇ってのは奄美大島のことだったんじゃ?あの辺ってマムシとかハブがたくさんいるんじゃなかったか?」

 多田が言った。

 白井りえ、菜々子が駆けつけた。

「ウグッ!」

 死体を目の当たりにして白井りえは吐き気を堪えてる。

「これで殺人は終わりだな?ゆっくり眠れるよ」

 多田は安堵の息を漏らした。

「犯人は田島さん、あなたです」

 突然、菜々子が言ったので浩正は驚いた。

「えっ!?」

「マスターキーを使えるあなたなら、毒蛇をこの部屋に隠すことは容易だったはず」

「それなら女将だって……」

 田島は白井りえを見た。

「私じゃない」

「それに田島さん、あなたの本名は田島ではなく岡島栄太ですよね?」

「どうしてそれを!?」

 叫んでから岡島はしまった的な顔になった。岡島は隠し持っていたダガーナイフで襲いかかってきたが、菜々子の起こした氷柱に串刺しになって呆気なく死んだ。

 

 12月18日

  天海ハウス工業は実務経験が規定より不足しているにも関わらず国家資格の施工管理技士を不正に取得したいたとして、社員349人の合格を取り消すことを発表。

 門脇カオリは岡島の共犯者、天海純子は詐欺の被害者、有田幸四郎は詐欺事件を解決したことでワイドショーでゲストとして出演したことがあった。

 さらに白井りえは岡島に力を貸していた。

 菜々子の推理は全問正解だった。菜々子は病院の屋上で浩正に『氷』と『天』の玉を渡した。

「何だよ?突然」

「ワタシ、病気なの。この病院、最近窃盗事件があったんだ」

「何の病気なんだ?」

「白血病」

 浩正は目の前が真っ暗になったような錯覚を覚えた。

「お兄ちゃんなら悪い奴を倒せると思う、だから私の分まで頑張って?」

 

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