第7話 埼玉戦争

 東日本大震災直後の2011年。埼玉県五大ファミリーの一角で、最大の勢力を誇る春日部系マフィアのボス、難波稔侍の邸宅では、難波の娘、麻央の結婚式が盛大に開かれていた。稔侍には他に3人の息子と1人の養子がおり、その中で末弟である徳馬はただ一人裏社会には入らずに防衛大を経て自衛隊に入り、被災地での活躍で英雄扱いを受けていた。式に参列した徳馬は婚約者の麻耶を家族に紹介し、祝福される。その華やかな雰囲気の一方で、春日部ファミリーの幹部、岩田恭兵は執務室にて娘をレイプされたコンビニ店長の男の請願を受け、困惑しながらもその報復を部下に指示する。また、自らが義母となった歌手の日高温子の頼みを受け、息子であり組織の弁護士かつ顧問である日高トオルを介して、温子を干そうとしていたプロデューサーの兜辰夫を脅し、彼が大事に育てていたブルドッグのココアの首を切り取り、彼のベッドへと放り込む。


 ある日、五大ファミリーの加須ファミリーの客分で麻薬密売人の明石道広が政治家や司法への人脈も厚い春日部ファミリーにヘロインの取引を持ちかけてくる。麻薬取引を硬く禁じる岩田は拒絶するが長男で跡継ぎの旬は乗り気であったことから、明石及び加須は、邪魔な岩田を消せば取引は可能と考え、岩田襲撃事件を引き起こす。同席していた難波稔侍も撃たれて意識不明の重体に陥る。 

 しかし、岩田は昏睡状態となるも一命を取り留めたため、明石の思惑は外れ、報復を訴える旬指揮の下で、春日部と加須の激しい抗争が始まる。その中で未だ意識の戻らない父の見舞いに病院に来た徳馬は様子がおかしいことに気づき、機転を利かせ父を加須の襲撃者から守る。これには加須に依頼された的場静夫警部も関与しており、目論見が失敗したことに怒り、警部は徳馬の顔面を殴りつける。怒りに燃える徳馬は裏社会に入ることを決意し、兄旬や父の盟友で幹部、久喜組の八十島新伍や九条民夫に直談判し、明石と的場の暗殺を敢行する。そして、徳馬は麻耶に黙って組織と縁が深い龍神島へ高跳びする。


 その後も抗争は熾烈を極めるが、春日部ファミリーは難波旬指揮の下で加須に大損害を与え、加須の跡継ぎの彬の殺害にも成功する。春日部の勝利が間近と見られていたが、そんな折に、旬は妹の麻耶がその夫で義弟の凌より日常的に暴力を受けていることを知って激しく怒り、一人屋敷を飛び出してしまう。その隙を狙われ、ハイウェイの料金所にて旬は機関銃の掃射を浴びて無残に殺される。一方、龍神島で現地の美女、美紀と結婚し安穏とした生活を送る徳馬にも敵の手が伸び始めており、護衛役の兵頭漣の裏切りで美紀が爆死する。


 意識を回復するもまだ体調は万全ではない岩田は旬の死にショックを受けつつ、加須との手打ちを決める。春日部に次ぐ勢力を誇る岩槻が仲介役となって五大ファミリーの会合が開かれ、その場で岩田は麻薬取引を部分的に認めつつ、残る息子の徳馬の身の安全を要求し、加須との講和が結ばれる。その帰途、岩田は部下たちに今回の騒動の黒幕は岩槻だと指摘する。


 岩田は帰参した徳馬を正式にファミリーの跡継ぎにすることを決め、自らは相談役として退く。若く新参の徳馬に不安を覚える部下たちも多い中、徳馬は5年以内にファミリーを合法化して一部のシマは譲ると言い、また有能だが平時の人材とする義兄の日高トオルを遠ざけ、義弟凌を重用する。加えて徳馬は麻耶と再会して結婚し、2人の子供をもうける。しかし、春日部ファミリーは落ち目だと内外にみなされ初めており、さいたま市を新天地とする構想は、さいたま市の有力者で、次兄・旭を預かっている室井敏郎との対立で破綻する。また、死期を悟った岩田は、徳馬に自分の死後に岩槻が動き出すだろうと忠告し、さらに彼との会談を持ちかけてきた者が裏切り者だと指摘する。間もなく岩田は心臓発作で亡くなり、その葬儀の場で精鋭の巽恒彦が岩槻との会談を持ちかけてくる。徳馬は会談の日を自らの誕生日5月11日と定める。


 誕生日当日。徳馬は信頼する都築裕次郎や小城哲也らに命令を下し、岩槻を含めた埼玉五大ファミリーのドン全員と、室井の同時暗殺を実行する。さらに巽を粛清し、旬暗殺に加わっていた凌も粛清する。

「春日部、加須、久喜、岩槻、そして秩父……全てを俺のものにしてみせる」

 人数が少なく一見弱そうな秩父ファミリーはヘリやドローンなど設備においては他の組織を出し抜いていた。


 数日後。難波邸では麻耶が酷く取り乱しており、誕生日の日にその凌を殺したこと、そもそも初めから殺すために手元に置く目的で重用していたことなどを指摘し、兄徳馬を人でなしと罵る。それを聞いて心配になる麻耶は事実かと徳馬に問うが、彼はこれを否定する。表面的には安堵の顔を浮かべる麻耶であったが、新たな久喜組が徳馬にドンとして忠誠を誓うところを彼女は眺めていた。

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