第5話 クランプス

 ある日、警視庁が警護していた重要参考人を、陣馬組が捜査官もろとも殺害する、マルボウの捜査官の針生は、陣馬組の襲撃により新米捜査官だった息子を亡くし、復讐を誓う。

 しかし、警視庁にマフィアとの内通者が存在することに気付いた針生は、行き過ぎた捜査活動によりのつくば署へ左遷されたかつての部下、松永に対して、警視庁への復帰を条件に復讐の実行を依頼した。松永は自らの死を偽装して存在を抹消、別人を名乗り陣馬組が闊歩する銀座へ潜入する。


 由比ヶ浜で休暇を楽しむ松永は、「3日間に3度も命が助かった」と話す千尋という女性に出会う。別れたあと彼女が忘れていった帽子のつばにできた穴が狙撃によるものだと見抜いた松永は、4度も命を狙われ、なお迫る危機から千尋を守るため、また、こともあろうに希代の名刑事の目前で殺人を犯そうとした、”不運な”犯人に対する決意を胸に彼女の家へ急行する。


 松永は夢を見た。マツナガは侍になって江戸の街を疾走した。ハリュウは武家屋敷から出て来た。

 ハリュウはライオンの怪獣に食べられた。

 深夜の赤レンガ倉庫にやって来た。何者かが銃で撃たれて針生は死んだ。

 

 尿意を覚えトイレに入った。再び眠った。

 見知らぬ男がドイツのバイエルン州にやって来た。男はクランプスに鎖で首を絞められて死んだ。

 クランプスは、ヨーロッパ中部の伝説の生物であり、主にドイツ東南部のバイエルン州とオーストリア中部・東部とハンガリーとルーマニア北部のトランシルヴァニア地方とスロヴェニアにおいて、クリスマス・シーズンの間に、聖ニコラウスに同行する行事でもある。


 よい子供にプレゼントを配る聖ニコラウスと対照的に、クランプスは悪い子供に警告し罰を与えると信じられている。 クランプスには、ルプレヒトなどの怪物も同行することがある。 ドイツ及びオーストリアの文化の影響のため、クランプスの伝説はその他にセルビア北部、ルーマニア南部のワラキア地方、ブルガリア、ポーランド南西部(シロンスク地方も含む)、クロアチア、チェコ、スロバキア及びイタリア北部において広く分布している。


 Krampus という単語は、鉤爪を意味する古高ドイツ語の単語「Krampen」(クランペン)に由来する。アルペン地方では、クランプスは夢魔に似た生物として表現される。伝統にのっとり、12月の最初の2週間、特に12月5日の晩になると、若者はクランプスの扮装をして、錆びた鎖と鐘を持ち、子供と女性を怯えさせながら通りを練り歩く。また農村地域の中には、特に若い少女へのクランプスによる鞭打ち(樺の笞による体罰)を伴う伝統がある。

 クランプスは通常、悪い子供を連れ去り、地獄の穴に投げ入れるための籠を背負ったイメージで表される。そして、鞭を振るいながら、子供を捕まえて、親の言うことを聞くように、勉強するのだぞと厳しくさとす。


 近年のクランプスの装束は、Larve(ラルフェ、木製の仮面)、羊の皮及び角から成っている。手作りの仮面の製造には相当程度の努力を要するため、村落の多くの青年がクランプスの行事に参加する。


 バイエルン南西部の高山に位置するオーベルストドルフでは、der Wilde Mann(デア・ヴィルデ・マン、野人)の伝統が生かされている。彼は毛皮を身に付け錆びた鎖と鐘を持ち、子供と大人を怯えさせる点でクランプスに似ているが、角がなく、聖ニコラウスの同伴者ではない。

 オーストリアの2月内乱の余波で、クランプスの伝統は、ナチス・ドイツと同盟したオーストリアのファシストたちの標的であった。


 神奈川県警の中村涼香警視は赤レンガにやって来た。遺体のそばには警察手帳が落ちていた。警視庁の針生って人物だ。

 

 外科医、桐谷彬の尽力もあり椎名多江は意識を取り戻した。

「明日様子を見て大丈夫なら、退院いたしましょう」

 

 松永は陣馬組の若頭、寺田泰治と銀座にあるクラブで飲んでいた。

「有田、どうだ?少しは慣れたか?」

 松永は旧友の有田浩正の名前を借りていた。

「ええ」

「ナカナカ、ケンカも強いようだな?」

 この前、事務所に敵の組織がカチコミに来たが、日本刀をブン回して追い払った。

 寺田はキャバ嬢のデカパイを鷲掴みにした。

「アンッ」

 最近入ったチヒロって女だ。


 松永は旧友で医師の桐谷彬から、謎の人物に誘拐された椎名多江という患者を救出してほしいと依頼される。桐谷は名医でもあるがマフィアでもあり、武器密輸の契約トラブルで土屋玲奈子と揉めていたのだった。玲奈子は警視庁の刑事だ。


 玲奈子が殺し屋・千尋をT病院に送り、多江のケータイストラップ(キティちゃん)を桐谷に渡して4日以内に桐谷自身が新砂にありアジトに来なければ多江の命はないと通達。桐谷は、大学時代の旧友、松永刑事に相談した。松永は中村涼香という神奈川県警の刑事と面識があった。


 中村涼香は、松永には大きな義理があるので玲奈子との交渉もうまく行くだろうというのが桐谷の目算だった。こうして仕方なく松永は新砂へ向かう。松永には寺田が同行していた。

 松永と桐谷の共通の友人の針生の別荘に滞在することになる。東京湾マリーナにそれはあった。


 松永はバー『COMFORT』を訪れる。コンフォート、その名の通り快適な空間がそこにはあった。阪神大震災の混乱のさなかに、松永は土屋善一と再会した。松永と善一は神戸出身で、善一とは鬼ごっこや隠れんぼをよくした。土屋兄妹は震災で両親を亡くしたが、玲奈子が道を踏み外すことなく刑事になったのも松永の愛情のおかげだった。善一は東京に疎開し、『COMFORT』を築いた。

 善一は2年前に医療ミスで亡くなった。

 そのとき執刀していたのが桐谷彬だったのだ。


 松永は中村涼香に会いに横浜に向かう、涼香はオフの日には剣道を教えていたが、義理を返すために頼みを引き受ける。多江が監禁されている新砂の造船所に忍び入り、多江を救出。今度は涼香の命が土屋玲奈子に狙われる。松永は桐谷が土屋玲奈子と手を握り、自分たちを裏切ったことを知る。

「復讐したところで兄が戻ってくるわけじゃないからね」

 玲奈子はラブホテルの一室で桐谷に抱きすくめられていた。


 玲奈子が木場にあるイトーヨーカドーに襲撃、松永の目の前で寺田がトカレフで射殺される。

 いつか夢で見た怪物に殺された見知らぬ男は寺田によく似ていた。

 ビジュッ!ビシュッ!空気が弾けるような銃声が2発、玲奈子は2回背中をのけぞらせて動かなくなった。

「玲奈子……」

 松永は涙を零した。

 実の妹のように可愛がっていた玲奈子を殺してしまった。

 警察により松永、さらに桐谷彬は逮捕された。中村涼香は何処へと姿を消した。


 刑務所の中で松永はアリタヒロマサの夢を見た。クランプスと闘っていたが、かなりの強敵でクランプスを倒すことは出来なかった。

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