第4話 赤間琢磨登場!

 赤間琢磨は人を殺したくて仕方がなかった。真水を飲んだときに頭がキーンとした。冷たい水じゃないんだ。真水だ。なのに痛くなるんだ。こりゃ相当イカれてるな?海に入ったら治るだろうか?海に入った。治らなかった。

 

 令和25年頃、リバーパーク汐入入口、はなみずき通りの古い木造アパートでジロウと娘のメグミが2人きりで住んでいた。ジロウはメグミに「お母さんは私達を捨てた悪い人。恨みなさい、憎みなさい。大きくなったら必ず仕返しをしなさい。絶対に許しては駄目」と毎日毎晩教え込み、虐待していた。そしてメグミが7歳の正月、ジロウは彼女に晴れ着を着させた後、手首と頚動脈を切って自殺した。


 それから約10年後、令和35年のある日の夜に名古屋にあるゴーストタウンでニシノミヤキョウコが残忍な手口で殺された。初め警察は、殺害方法や被害者の派手な男性関係から犯人を男とみていたが、その後、現場に残されていたケーキをもとに聞き込みをしたところ、死亡推定時刻直前にケーキを買っていたサングラスの女の存在が浮上し、犯人は女と断定された。


 牡丹の消防士、黒沢博行は、ビルの屋外カフェで妻子と待ち合わせをしていたが、彼が到着した直後、ビルの正面に停めてあったバイクが爆発し妻子は死亡、自身も車にはねられてしまう。

 事件は越中島のゲリラ組織のメンバー、天本涼介が、敵対関係にある越中島政府並びに協力関係にある新宿や警視庁の要人を狙ったもので、黒沢は天本らしき不審な白バイ警官を目撃していたことを捜査当局に伝える。しかし、ゲリラとの和平交渉を優先する新宿の方針から、捜査は一向に進まない。

 警視庁の後藤裕二から話を聞かされた黒沢は、妻子の仇を討つために単身越中島に乗り込む。


 議会の命令で現地からの撤収を命じられ越中島に来ていた後藤は、黒沢が来ていることを知り「新宿人がゲリラに殺された」という事実を作り出して強引にゲリラを殲滅することを企み、天本や腐敗した現地警察に彼の情報を流す。黒沢は街中でゲリラに拉致されそうになるが、現地警察に『不法滞在』を理由にゲリラ共々拘束されてしまう。


 赤間は清水次郎を恨んでいた。清水に破門されて赤間は一時期、ホームレスになった。次郎は夢の中で死んだが、怪物に殺されたわけじゃない。西宮恭子も赤間の標的の1人だが、怪物ではなく人間に殺された。首を切り落とされるという残忍な方法だったが、犯人は女だ。夢の中なのではっきりとした正体は明らかになっていない。

 恭子は赤間の恋人だったが、彼女は浮気をしていた。寝る前にレンタルビデオ屋で借りたゾンビ映画を見たが、怪物も恭子も現れなかった。 


 清水にはたくさんの部下がいた。小野寺政治、大野政行、桶川鬼吉、綱野五郎、法印大吾、石森松也、追分三矢、吉良仁志。8人いるので、滝沢馬琴の里見八犬伝になぞらえ、清水八犬士などと密かに呼ばれていた。

 清水は名古屋を拠点に動いていた。


 その名古屋で連続殺人事件が発生。それもただの殺しではなく肉体はおろか、内臓さえも原形も留めない程に滅茶苦茶に切り裂かれていた。

 愛知県警の西宮恭子は名古屋署刑事課長の木村智充や主任刑事の平井と共に捜査を始める。


 恭子は同じく協力者の監察医の有栖川愛から、実は事件は知られているよりも以前から起きており、遺体の共通点として腎臓が取られていることを聞かされる。そして木村の調査の結果、容疑者として赤間琢磨が挙がった。

「赤間は母親が腎盂腎炎で、ドナーを必要としていたようです」

 名古屋署の屋上で、恭子は木村から聞かされた。🌇ビルの向こうに夕陽が沈もうとしている。

 恭子はタバコを吸うのを必死でガマンしていた。人前でタバコを吸うと懲役1年だ。恭子はヘビースモーカーだ。

 恭子は赤間のことを思い出していた。彼はSだった。清水組の情報を恭子に流していた。恋人を偽装していたが、彼の父親は春日部ファミリーに射殺されていた。

『親父はデカだった』

 恭子の兄も春日部ファミリーにリンチされて殺されていた。遺体は産廃処理場で見つかった。兄は弁護士だった。春日部ファミリーに復讐するという野望が2人にはあり、真剣に愛し合った。だが、木村に全てを知られてしまった。 

『復讐なんてお兄さんが喜びませんよ』

 木村がいなかったら刑務所に入るか、殺されていたかも知れない。

「トモ?」

 智充なのでトモって呼んでいた。

「なんでしょう?」

「この事件が解決したらさ?結婚しよ?」

「マッ、マジですか!?」

「敬語はやめてよ?恋人らしくないよ」

「だって、階級がそっちの方が上ですからね?」

 恭子は警視、木村は警部だ。

「命令が聞けないの?」

「わっ、分かった。恭子、末永くよろしくな?」


 赤間は夢の中で不気味な馬が人を次々に食い殺す夢を見た。

 ツナノゴロウ、ホウインダイゴ、オイワケミツヤ……3人とも赤間を破門にすることに賛同した鬼どもだ。赤間の母親は妖怪に詳しかった。病院に見舞いに行ったときに、夢の話をしたら「タイバかも知れんのぉ」と教えてくれた。

 

 頽馬は、本州や四国各地に伝わる怪異。馬を殺すといわれる魔性の風で、馬を飼う地方では非常に恐れられていた。


 頽馬は路上を歩いている馬を突然にして死に至らしめてしまうという。倒れた馬は、口から肛門にかけて太い棒を差し込んだかのように肛門が開いているといい、馬の鼻から魔物が入り込んで尻から抜け出すために起こる怪異といわれた。


 浅井了意の著書『御伽婢子』には頽馬のことが詳しく述べられている。それによれば、急につむじ風が起き、馬の前方で砂煙が車輪のように回り、砂煙が馬の首に近づくとたてがみが1本1本逆立ち、そのたてがみの中に赤い光が差し込み、悲鳴と共に馬が倒れ、馬が死ぬと共に風が消えてゆくとある。


 愛知県や岐阜県などではギバ(馬魔)といい、小さな女性のような姿の妖怪で、緋色の着物と金の頭飾りを身につけており、玉虫色の小馬に乗り、空から馬を襲うという。馬は危険を感じてひどく嘶くが、脚を絡み付けて馬が抵抗できないようにする。そしてギバがにっこりと微笑むと姿を消し、標的の馬は右に数回回り、命を落とすという。頽馬を擬人化したものがギバとの説もある。また茨城県の民話によれば、馬の皮はぎをしていた家の娘が、自分たちが周囲から差別されることを悲しんで(不景気による生活苦を悲嘆して、との説もある)自殺し、ギバに生まれ変わり、その怨念から馬を襲うようになったのだという。滋賀県大津市にも同様の伝説があり、ギバとなった娘は馬を殺すことで、馬の皮はぎをする父の商いを助けているという。


 頽馬の発生時期は4月から7月にかけてで、特に5月から6月、晴れたり曇ったりと天候の変化の激しい日に多い。また美濃では白馬のみが被害に遭い、静岡県では栗毛や鹿毛の馬が被害に遭いやすいといい、老婆や牝の馬は被害に遭わないともいう。


 頽馬の被害を防ぐには、馬の首を布で覆う、虻よけの腹当てをする、馬の首に鈴をつけるなどの方法が良いという。また被害に遭ってしまった際には、馬の耳を切って少量の血を出したり、馬の尾骨の中央に針を打ち込んで馬を刺激すれば、馬は正気に戻って助かるという。前述の『御伽婢子』によれば、馬の前方を刀で斬り払って光明真言を唱えれば怪異を逃れられる。

 

 赤間は3人を殺すことに決めた。

 2019年10月25日の深夜、綱野を栄にある自宅駐車場において柳刃包丁で背中を刺して腎臓を取り出した。翌日の深夜、犬山城近くの廃ビルで少女を犯そうとしていた法印の背中を突き刺し、腎臓を取り出した。

「助けてくれてありがとうございます!」

 泣き叫んでいる少女も殺そうとしたが、恐るべき速さで逃げられた。フルフェイスをかぶっていたから心配はないだろう。

 さらにその翌日、追分を今池にある奴のアパートで背中を突き刺して殺し腎臓を取り出した。

 赤間は『飛空』を覚えた!

 

 椎名多江の意識はまだ戻らなかった。


 

 

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