第4話 召喚魔術ギルド
微妙に立て付けの悪い扉を開けると、中の風景が見えてきた。
一言で言うのなら、普通だった。正面にある受付に、ロビーに配置されている木製のテーブルと椅子。少々薄暗く、狭いこと以外に特筆することもないような、外見からは想像できないほど普通のギルドだった。
ただ、あくまでそれは風景だけだった。もう昼時だと言うのに、ザ・閑古鳥。受付のお姉さん以外、誰一人としてロビーに見受けられない。それが、入る前に覚えた不安を助長させる。というか、受付のお姉さん机に突っ伏して寝てるし。
起こしては悪いので、忍び足で近づく。うぉ、近くで見るとめちゃくちゃ可愛い。基本的に美男美女しかいないこの世界だが、その中でも飛び抜けて可愛い。日本にこんな子があれば間違いなくスカウトされて、モデルか芸能人になるだろう。
「…………あ、あのぉ」
「…………zzz」
「すみません、あの」
「…………zzz」
「あのー!?」
「…………う」
「う?」
「…………うるさい」(寝言)
…………イラッ。
そうかそうか。そっちがそのつもりなら、こちらにも考えがある。
まずは、この建物の壁を叩いて、防音性を確認する。…………うん、まずまずだ。
次に、喉の調子を整え、なるべく声が建物の外に漏れないようにする。
あとは、肺いっぱいに空気を吸い込んで…………、
言い忘れてた。この先音量注意だ。
「起きろおおぉぉぉぉおおお!」
「うっひゃあ!?」
受付の少女の耳元で、あらん限りの声で叫んだ。少女がなかなか特殊な悲鳴をあげて飛び起きる。声量については、この建物の外になるべく漏れないように注意した。なので、近所迷惑にはなっていない。…………と、思う。
跳び起きた少女、いや幼女か? がジト目でこちらを睨む。無表情金髪ショート青目貧乳ロリのジト目とかむしろご褒美でしかないがな(変態)。
「……見ず知らずの少女の耳元で、いきなり叫ぶとか常識がないの? 頭大丈夫?」
「こっちが何度呼び掛けたり体をゆすったりして、起こす努力をしたのに起きなかったお前が悪い。ちなみに俺はこの世界に来て2日目だ。常識を知らなくて当たり前だ」
嘘です。自分の行動が常識知らずな行動だということは知っていました。でも、やってみたかったんです。好奇心には勝てなかったよ。
「……近所迷惑ぐらい考えられない? そんなにあなたの脳みそは小さいの?」
「安心しろ。ボリュームはこれでも抑えた方だし、この建物の防音性も考慮して叫んだ。かなり良い壁使ってるな。少し音は漏れたかもしれないが、ここはそこまで人通りが多くない。近所迷惑っていうレベルにはなってないと思うぜ」
嘘です。それなりに声抑えたけど、結構がっつり外に漏れてると思います。正直誰かが乗り込んでくるんじゃないかと思ってひやひやしてました。
「……むぅ」
「なんだ? なんか文句があるか?」
すみません。ほとんど言い訳なのに、真に受けさせちゃってすみません。
…………というかなんで俺、美幼女と普通に話せてるんだ? それどころかなんで軽口から挑発まで、コミュ力上位層しかできないことができてしまっているんだ?
いや待てよ。確か、俺の社交力が下がるのは人間に対してだったよな? だけど、この娘との対話でコミュ力が下がった様子はない。ということは…………
俺はこの娘を人間として見ていない?
もしくは…………
この娘は俺を人間として見ていない?
…………いや、このことについて考えるのはやめよう。仮にどちらかだった場合、俺の頑丈な精神が再起不能なレベルで砕け散る。前者の場合は、非人道的な自分に対してのショックで。後者の場合は、人として見られていないという事実によるショックで。
「……もういい。さっきのあなたの奇行は不問にする」
おっ。被害者直々に許しを得た。勝ったな(確信)。
「……あらためて、ようこそ召喚術師ギルドへ」
美幼女がその表情をピクリとも変えずに話始める。
「えっと、召喚術師ギルドに入りたいんだけど…………」
「……じゃあ、能力参考書を見せて」
そう言われたので、先程もらった紙を手渡す。少し指が触れたけど、凄く柔らかかった。家族とコンビニ定員以外で、異性に振れたのなんて何年ぶりだろうか。もちろん、面接のお姉さんの皮をかぶった何かと、指切り治癒魔術お姉さんは除く。前者は人じゃないし、後者は指を切られたショックで幸福に浸ることもできなかった。
「……ちょっと待ってて」
そう言われたので、おとなしくロビーの椅子に座って待つこと数分。受付幼女が二枚の紙を持って戻ってきた。
「……今から、本人確認のためにいくつか質問をする。正直に答えて」
「お、おう」
「……名前は?」
「ソウヤ・ササキだ」
「……年齢は?」
「18歳」
「……家族構成は?」
「父・母・妹だ」
「……
「召喚魔術・根性・孤高の秘技だ」
「……童貞?」
「あぁ、…………って、はぁ!?」
なんで、なんでそれ聞いた!? いや確かに本人しか知らないかもしれないけど!? しれないけども!?
「……本人で合ってるっぽい」
正直最後の質問に悪意を覚えなくもないが、まぁ本人と認められたようなので良しとしよう。
「……それじゃあ、登録するから」
そういって幼女ちゃんは懐からナイフを取り出し、…………ナイフぅ!?
次の瞬間、俺の人指し指の先に鋭い衝撃が走る。いや、これは衝撃ではない。純粋な痛みだ。そしてこの感覚は、ちょうど1日前に受けた。そう、指の腹を薄く切られたのだ。なんだ? この世界の美人は全員、ナイフで指の腹を切らないと生きていけないのか? 流血嗜好者なのか? もはや一種の性癖なのか?
ぽたぽたと滴る俺の血を採取すると、「……ちょっと待ってて」と言い残し、またカウンターの奥へ向かって行った。
もう、本当にナイフは勘弁してください。
今後、嫌というほどナイフで指の腹を切る羽目になるのだが、今は知る由もない。
「……登録が終わった」
しばらくして、幼女が奥から戻ってきた。その手には、名刺サイズの板が握られている。
「……これがあなたの、ギルドメンバー証になる。これがあれば、召喚術師ギルドはもちろん、他のギルドからの恩恵もある程度受けることができる。再発行にはかなりお金がかかるからなくさないように」
そう言いながら、そのギルドメンバー証とやらを渡してくる。手触りからして、金属製なのだろう。というか、そんな貴重なものは手掴みして直接手渡ししちゃだめだと思う。まぁ、自分はそこまで気にしないけどさ。気にする人は絶対に気にするだろうから、気を付けた方がいいと思う。
ギルドメンバー証、通称ギルドカードには、氏名・性別・所属ギルドなどの基本的な情報と、いつの間に撮られたのかカラーの顔写真があった。確かに、これなら本人証明になるだろう。
「それで、これから何かしないといけないこととかあるか?」
「……召喚術師ギルドに入った者が必ずやる儀式があるけど」
おぉ、なんか我が精神世界に封じたはずの厨二心が反応している。あれか? 闇の儀式的なあれなのか!?
「……それは、この街のギルドメンバーが全員そろっているときにやりたいから」
え? なに? 大勢の前でやるの? 対美男美女コミュ障である俺には、レベルが高すぎる!
「……今夜7時に、この建物に来て」
「…………りょ、了解です!」
受付ちゃんの説明を受けて、俺はこのギルドを出た。
…………やばい、今から緊張してきた。
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