第4話

 ルヘルムに向かう道中、特にこれといって何かあったわけではないが、ある、気になる話を聞いた。

 獣人差別、獣人軽視など、聞く度に違う内容だったが、一貫していたのは、獣人があまり好かれていないことだ。とくに大きな都市ではそれが顕著に表れているらしい。

 そんな話を聞き、ルヘルムに到着する前に、ワトスに頭巾を被せ、尻尾を着ていた衣服の中に押し込み、マントで体を覆い隠すようにして獣人だとバレないようにして見たが……、格好がなんともいえない様になってしまった。

 もしワトスが獣人であることがバレれば、最悪ルヘルムに入れなくなる可能性もある——正直なところ、俺は獣人差別なんて実はないんじゃないかと思っていて、獣人が嫌いな人がした噂が、人伝に伝わり、過大解釈されてしまったんじゃないかと。本当は人間と獣人が仲良く暮らしていて差別なんて嘘っぱちだと。

 そんな淡い期待を持ちつつ、俺達はルヘルムの城門に到着した。

「なんでこんなに人がいるんだ?」

 城門の前は多くの商人で溢れていた。

「ソンナコトヨリ、アツヨー」

 変装のため普段よりも厚着をしているワトスは確かに暑そうである。

 俺はもう少しの辛抱だから我慢してろっと、ワトスに言い聞かせた。

 ワトスを落ち着かせたあと、もう少しあたりを見渡すと、城門前に綺麗に形成されている列を見つけたので、近くに並んでいた行商人らしき男に、なんの列か尋ねてみることにした。

 あの……。

 ——。

 ——。

 数分後。

 行商人の男にお礼を言い、一旦列を離れた。

 男が言うに曰く、このルヘルムに入るには通行証が必要らしく、この列はその通行証を作る列だと言う。

 いくらなんでも並び過ぎだろ。何人いるんだよ……。

 待機列の最後方はここから遥か後ろで、ここからでは最後尾など見えやしない。

 はぁ。

 大きなため息が自然と出た。

「なあワトス、暑いとこ悪いんだがこれからちょっと歩くぞ」

 エェーっと、駄々をこねるワトス。

 確かに暑くて辛いのもわかるが、ここはやはり我慢してもらうしかない。

「ルヘルムに入れたらお肉食べさせてやるからさ」

「ホントウ! オニクダー、オニクダー」

 なんともチョロい奴である。

 ワトスには言っていないが、ここから移動することよりも、これから何時間も待つ方が大変であるということは黙っておこうーーそうでもしないとこいつはここから動かないからな。



 列に並び始めたころ、ちょうど太陽は俺たちの真上、1日で最も高い位置に鎮座して容赦なく太陽光を浴びせてくる。こうなると日陰に入りたいものだが、周辺は見渡す限りの平地であるとすれば城門くらいだろうか。俺はただ黙って少しずつ進む列の中、ひたすらに——早く進め、早く進めっと、心の中で叫ぶだけである。

「暑くないか? 体調が悪くなったら言えよ」

「ヌイジャダメ?」

「すまん、我慢してくれ」

 こうは言っても、ワトスの体調が少しでも悪くなったと判断した時は、列を外れ人目がつかないところを探し体調を回復させるつもりである。急いで中に入らなければならない理由などないのだから、当然である。

「ほら、とりあえずこれでも飲んで水分補給でもしとけ」

 持っていた水袋をワトスに渡すと、それを受け取ったワトスが一瞬で水を飲み干す。

「ゲッフォ! イキカエルナー」

 なんとも美味そうに飲みやがる。

 俺も喉が乾いていないといえば嘘になるが、この気温の中、頭巾やらマントを着込んでいるワトスに比べたらなんてことない。

「っにしても暑いな。宿を見つけたら早くお風呂に入りたい」

「ワトスモオフロハイル」

「お前が自分から入るなんて言うの珍しいな」

「ダッテ、アセデベタベタスルモン」

 ホラっと、言いながらマントの前を少し開け、上着をめくり上げ、お腹を見せてきた。

 なぜお腹なんだ!?

 始めに言っておくが、何か変な気分になったとか、邪な考えをしたとかそんなことは一切ない。各方面より思われそうなので一応言っておく。

 だが状況説明は必要であろう。簡潔にではあるが、俺の主観で見たままを話そうと思う。


 ワトスの上着が大量の汗を吸って肌にピッタリとくっついていた。白ではなかったので透けて地肌が見えるものではなかったが、逆にそれが想像力を働かせるファクターとなる。そんな汗を吸ったシャツをめくろうと、ワトスがシャツの裾を掴むと汗が水滴となって落ち始め、それがまた色っぽさを演出して見せた。

 シャツがめくれていき、少しずつ肌が露わになってくると、滲み出た汗が皮膚にテカリを与えどこか艶かしい雰囲気を醸し出し、それを見て俺は大きくゴクリと唾を飲みこんだ。

 引き締まった見事なウエストだった。

 今更褒めるのも何か違うが……。

 なにせ故郷の村を出る前日、風呂上りのワトスの裸体を見ているので、さらにいうならもっと以前から見てるし……。



「ベトベトなのはわかったから、早く閉まってくれ」

 こいつはどこかで止めてやらないと、そのうち全部脱ぎそうだ。

「アー、ハヤク、ススマナイカナ」

「そうだな。せめて太陽が雲に隠れてくれれば少しは楽なんだが……」

 滴る汗を袖で拭いながら空を見渡すが、雲一つない晴天であった。



 かれこれ半日近く待っているのだが未だに通行証は発行できていない。それでもすでに、城門の近くまで列は進んでおり、もうまもなく手続きができそうである。

「やっとここまで進んだか、もう日も傾いてだいぶ涼しくなってきたな」

「ウン……デモ、アセガカワイテチョット、ニオウ」

 そうか? っと、俺はワトスの首元に顔を近づけ匂いを嗅いでみたが、汗臭い匂いは特にしてこなかった。

 すると、ワトスは俺から一歩距離を離し、

「ニオイカグナ! ハズカシイダロ」

 思っても見ない反応が返ってきた。

「ご、ごめんワトス」

 裸は見られても平気なのに、匂いを嗅がれるのは嫌がるのか。

 これは長年一緒にいるが新発見だ。今度言うことをきかない時があれば使ってみよう。

「それにしても……」

 まだ距離を取り、こちらを警戒するワトス。なんとか話を逸らそうと、別の話題を振ろうとしたが続く言葉が出てこない、なにせ半日も列に並んでいるので、話すことはあらかた喋ってしまっているのだが……、ここはなんとか別の話題で話を逸らしたい。是が非でも。

「それにしても、もうすぐ中に入れるな。なんだかいい匂いもしてくるし、楽しみだー」

 全く逸らせなかった。

 むしろ悪化したのでは?

「ニクノニオイダー! ハ・ヤ・クタベタイナ〜」

 全く問題なかった。



 そろそろ太陽が完全に沈みかそうになったころ、あと2組ほどで自分たちの番だ。いよいよかっと思うと少し浮き足立ってくる。心躍るとまではいかないが、軽いステップを踏んでいるような、そんな気分。

 通行書が手に入る嬉しさよりも、これからルヘルムに入る事の方が何倍も気分を高揚させるーーなにせ通行書を手に入れるのに1日待ったが、都会に行きたいと思う気持ちは何年も前からあるのだから、当然である。

 中に入ったらあまりキョロキョロとしないようにしょうーー田舎者だとばかにされそうなので。

「ワトス、ちゃんとマントと頭巾は被ってろよ。ここまできてバレたら長時間並んだのが水の泡だ。それに、肉も食べられなくなるぞ」

「ワトス、ガマンスル」

 本当に飯以外興味ないのな。

 そんなこと思っていると、俺たちの番がやってきた。

 城門の真下には仮設のテントが建てられており、役人らしき人物が慣れた手つきで次々と通行証を作成していく。

「ようこそ……、ルヘルムへ」

 なんとも覇気のない声で迎え入れられた。

 よく見ると他の役人も覇気がなく、皆死んだような目をしていた。

「どうも、なんだかお疲れですね」

「これだけの人数を毎日処理してたらね、こうなるさ」

 俺は後ろを振り返り、まだまだ途切れることのない列を見てこの役人が少しかわいそうに思えてきた。

「今日は何をしにルヘルムまで来たの? あー、別に怪しんでるとかじゃなく、みんなに聞いてるやつね、これ」

 そう言いながらすでに手元では通行証を作成している。

「えっと、鉱石の交換で……」

「オッケー、わかった。それじゃあこれが通行証で、あとは……ここを真っ直ぐ行って大通りを左に行くと、西区があって、そっちに宿街があるからそこに行くといい。西区に入ってすぐに案内所が見えてくるから、あとはそこで適当に宿を見繕ってくれるから」

 こちらの話を最後まで聞かずに案内を始める役人。今日何度この案内をしているのだろうか。

「親切にありがとうございます。お仕事頑張って下さい」

 俺はそう言うと、教えてもらった通りに真っ直ぐに進んだ。

「っあ、言い忘れたことがあったが……行っちまったか、まぁ大丈夫だろ」



 にしてもさっきの役人ガバガバすぎだろ。

 まぁ、ちゃんと通行証を俺とワトスの分で2枚貰えたからいいけど、もうあんな感じなら通行証など必要ない気がしないでもないが……。 

 それに、ワトスのこの格好に一切関何も言わなかったなーーまぁ……あれだけの人数を相手にしてればそうもなるか。

 役人に言われた通り進んでいくと、一際大きな建物が姿を表す。建物の入り口には真新しい通行書をぶら下げた商人が多く屯っており、ここが役人が言っていた案内所で間違いなさそうだ。

「お、ワトス着いたぞ。ここが西区の案内所らしい、ちょと行ってくるからここで待っててくれ」

 ハイハーイっと、ここに来る途中の露店で買った串焼きにかぶり付き、こちらには目もくれない。普段なら晩ご飯まで我慢させるが、今回は頑張ってくれたので少しばかりのご褒美である。

「オナカスイタ、ゴハン・ゴハン!」

 食べながら言うセリフなのか、それ。

「大人しく待ってろよー。すぐ戻るから」

 ワトスを待たせて中に入ると、ルヘルムの外からやって来たであろう商人たちで溢れかえっており、その人口密度からか、なんだか室内はもんもんとしている。

 せっかく日が落ちて涼しくなったのに……。

 文句を言ってもしょうがないのでとりあえず宿の受付を探す。

 辺りをキョロキョロと見渡して、役人が言っていた見繕ってくれそうな人を探すが、人が多いせいでよくわからない。それに思ったよりもこの施設が大きい。飲食できるよう大量に置かれたテーブルと椅子や、情報交換ができそうな掲示板スペース、そして大浴場まである。

 これが都会か、すげー。

 そんな周りの設備に関心していると、『受付・案内』と書かれている場所を見つけたので、人の間をすり抜けながらなんとか移動し、受付前まで移動した。

 幸いにも受付は空いており、すぐに対応してくれそうである。

 正直これ以上並ぶとか考えたくはなかったので、俺としては最高にハッピーな気分。

「ようこそ、宿をお探しですか?」

 ショートカットで透き通った白い肌、凛とした顔立ちで、飾らない大人な雰囲気。首筋のラインが剣の刃のようにシュッとしていて、胸が……胸が大きい。

 バイン、バインである。

 そしてここの制服? だろうか、胸元は大きく開き、ただでさえ大きい胸を、より強調するかのようなデザインである。胸を囲むように可愛らしいフリルがあしらわれ、薄い紫のラインが入っているが、それがまた妖艶さを醸し出す。

 机を挟んで座っており、下の服装を見ることができないが、確信できる。とても素晴らしい(エロい)服装だと!

 よく見ると俺から見て右の胸にホクロが一つ。

 え? ホクロ? 胸に?

 ホクロを初めて見たわけではないが、顔にホクロが付いている女性を見ても特に気にしない、っというより、意識することなんてまずない。しかし、ただ胸にホクロがついているだけで、なんという破壊力。胸から目が離せない。

 女性は案外、胸のチラ見を気づいていると言うけれど、この場合はどうだろうか。

 ガン見。

 瞬きすらしない。

 うろ覚えだが、こんな言葉があった気がする。巨乳足元暗し。たしか意味は……身近なことは案外わからない、だったか?

 要するに俺の言いたいことは、ちらちらと見てるからバレるのであって、堂々と見ていれば案外バレないのでは? っと言いたい。

 堂々と見ることで——私、胸を見られてる? でも、こんな堂々と見る人なんているはずないし……、そうだわ、服のデザインを見てるんだわ。っと、思うに違いない。

 っとなれば、ここは堂々と見るにかぎる。むしろこんなに美しい芸術品を中途半端に見る方が失礼に値する。

 ゴホンっと咳払い。

 では、失礼して拝見。

「あのー、聞こえてますか?」

「…………」

「もしもーし」

「…………っは! すみません、黒い宝石に見惚れてしまって」

 はぁ? っと首を傾げる受付嬢。

「い、いえ。ちょっとぼーとしちゃって。ほら、ここて暑いじゃないですか」

 俺は咄嗟に誤魔化す。

「えぇ、そうなのよ。人が多いせいで蒸しちゃって」

 よし、なんとか誤魔化せたようだ。

「ご用件はなんでしょう?」

「えっと、宿を探してるんですけど……、この街は初めてなのでどうしたらいいのかと」

「ルヘルムは初めてですか。でしたら少しご説明させて…」

 無論、言うまでもないかもしれないが説明中は胸をガン見していたせいで、内容がほとんど頭に入ってこなかった。

 説明の途中で受付嬢の首筋から垂れる汗を目で追いかけ、それが胸の谷間に流れること12回。そして13回目の滴が胸に到達する途中で説明が終わってしまった。

「簡単ですが、以上で説明を終わります。何か質問ございますか?」

 俺は視線を上に戻し、いかにも真面目に聞いてましたと言わんばかりの表情を作り、

「あ、はい、大丈夫です」

 ちょっと声が浮ついてしまったが、問題なかろう。

「ではこちらの用紙に予算と人数をお書きください。もし荷物が多いようでしたらこちらの備考欄に詳細を書いていただければ荷物場がある宿をお探しいたします」

 どうもっと、お礼を言いつつ、受付嬢から用紙を貰い書こうとするも、胸が気になり集中できないので、

「いやー、荷物はどうだったかなー」

 などと言いながら首を傾げて胸を見る。

「そういや俺って、用紙書く前に準備運動するんだった」

 っと、苦し紛れの口実でなんとか胸を見ようとするも、明らかに受付嬢の見る目が不審者を見る目に変わったので、大人しく用紙を記入することにした。




 入口で待たせていたワトスと合流し、紹介してくれた宿へと向う。余り手持ちが多くなかったので宿泊街の中でも中心街ではなく、少し離れた北区よりの宿を受付嬢のお姉さんが紹介してくれた。

 宿は見た目こそ綺麗ではなかったが、味のある佇まいをしており、部屋は2人で泊まるには少し大き部屋で、中には備え付けのお風呂があり、10人は入れる大きな風呂である。正直ここまでいい部屋を紹介してくれるとは思わなかったーーむしろ、金があったらどんな高級な宿に泊まれたのだろうか……。

 一度は泊まってみたい。

「ヤットツイター。アツカッター、シッポモグジュグジュデ、キモチワルイ。桜花、ワトスガサキニミズアビスル」

 宿に到着すると、ワトスはすぐに身に付けていた衣類を全て脱ぎ捨て、お風呂に直行。

 ワトスが尻尾を振りながらお風呂へ向かうが、そこにはいつものふわふわで、もふもふの尻尾はなく、汗でぐっしょりと濡れた、しなしな尻尾があった。

 あれに顔を埋めたら、毛が顔に纏わり付くだろうな……。

 そう思いながら、ワトスの脱ぎ捨てた衣服を拾い上げ、自動で洗濯してくれる機械へと放り込むと、洗濯物が入ったことを自動で認識しウィンウィンと音を立てて洗濯が始まる。

 これ家に欲しいんだよな。今は素手で洗ってるから寒くなってくると手が霜焼けするし。

 なんて思っていると、お風呂場からワトスの声がとてもよく聞こえて来る。それもそのはず、洗濯物を洗う機械があるのはお風呂場のすぐ横で、お風呂場の入り口には扉などはなく、薄い布一枚が垂れ下がっているだけ。

 ワトスの声がする方に視線をやると薄い布越しにワトスの影がくっきりと写っていた。

 改めて言うが、普段一緒に寝たりしているし、何より家族だし、変な感情を抱いたことはない。ないのだ。

 なのにこれはどういうことだろう? 

 布越しに写るこの体のライン、まるっとしたヒップ、胸の頂点の突起物。

 あれ、おかしいな。なんだかドキドキしてきた。

 ワトスが体の向きを変えると胸が揺れる、揺れる。

 プルン、プルン。

 俺は理解しているつもりだ、このドキドキは布越しに見える影のせいであると。

 もしも仮に布がなかったら俺はドキドキなんてしないだろう。ではなぜ布越しに見るとドキドキするのか。

 これはあくまで俺の推論であるが、俺は自信を持って声を大にして言える。人間は何かを想像する時に、自分のいいように解釈し、想像すると俺は思っている。ゆえに布に写った影は、ワトスだけれどワトスではない。布の向こうのワトスを見るまでは自分が勝手に想像した理想の女性が布に写っていると言える。

 何を言ってるかわからないかもしれないが、熱意は伝わったはずだと思いたい。

 結果こんな妄想が俺の頭の中を駆け巡ることになるのだ。

 ——今この場はライトアップされた劇場。

 布越しに写るは、俺の理想の女性、クリス。

 俺の視線はこの劇場の舞台の上に立つ主役、クリスに向いている。

 その主役から目が逸らせない。

 舞台の中央から移動を始めると、しなやかな髪から水が神秘的に飛び立ち、胸の突起物の先端からは滴となってこぼれ落ちる蜜たち。お尻から伸びる濡れた淫々しい魅惑の尻尾。

 あぁ、見てるだけなんて俺には……できるわけがない。

 俺もこの舞台で君と恋に落ちたい。今いくよクリス!

 布を潜りお風呂に入るとワトスがいた。

 クリスはいなかった。

「桜花モイッショニミズアビシタイノカ?」

「クリスはどこに行った?」

「クリス? タベモノカ!」

 俺はワトスの質問に答えることなく、お風呂をを出る。

 なんだろうこの気持ちは……、まるで何かを悟った時のようなこの感じは。

 後ろからキョウノゴハンハ、クリス! っと、言っているワトス。上機嫌に体をブルブルとさせ体についた水を勢いよく飛ばしていた。



 夕食を食べ終えると、2人ともすぐに睡魔に襲われた。今までの旅の疲れと、今日の疲れが合わさり色々と限界であった。

 とくにワトスなんかは、今日はかなり疲れただろうしな。

 布団を敷き横になると、わずか数秒でワトスからは可愛い寝息が聞こえてくる。

 もう寝たのか、早いな。

 そんな俺も人のことなど言えないくらい、今日は早く寝れそうだ。

 ……。

 ……。

 すぐに寝れるとばかり思っていたが、目を閉じると受付嬢の胸、あのホクロがついた胸が鮮明に蘇るのだ。

 男子諸君は経験があるかもしれないが、もんもんとした気持ちで寝床に入るとなかなかに寝付けない。何度も何度も寝返りを打って、しまいには完全に目が覚めてしまう。

 今日の出来事でいえば受付嬢だけではない、クリスの存在だ。——まぁ、ワトスのことなのだが……。

 あの体のラインがくっきりと浮き出た影がどうにも俺の想像力を掻き立ててきてならない。そうなると脳が働くので余計に寝れなくなってしまうのだ。

 ダメだ、寝れない。

 俺はワトスを起こさないように、そっと部屋を抜け出した。



 仕方がないので外を散歩することにした。

 外は昼間の暑さが嘘のように涼しく、とても気持ちの良い夜風が吹いている。宿泊街の中央、受付嬢と出会った付近は夜にもかかわらず、昼間のような明るさを輝き放っていた。

 中心街から外れたこの場所は、その中心街の明かりがすこしばかり入ってきて、なんとも風情ある薄暗い街並みとなっている。

 俺は明るい中央街とは反対側、特に意味はなかったがなんとなくそっち方面にフラフラしていると、街の雰囲気が変わってきた。

 活気がなく、建ててある家もどこかボロかったりする。

 そんな街並みをぼーっと見ながら歩いていたら、結構奥の方まで来てしまっていたらしい。

 あぁ……やばい、帰り道が分からなくなった。

 大通りを歩けばよかったものを、裏路地にフラフラと入ってしまったのが運の尽き。そこは同じような風景が続き、まるで迷宮の中にいるような錯覚に囚われそうだった。

 するとどこからか男の笑い声がしてくる。

 よかった人だ。

 これで帰り道を聞ける、助かった。

 声のする方へ近づくと、男3人の声が聞こえてくる。路地の角からそっと頭を出し見渡すと男達を発見した。

 よかった、よかった見つかった。

 早速男達に声をかけようと角から出ようとした瞬間、男達の隙間から獣人が見えた。

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