第1話 遠い昔の記憶


自宅から車で30分程走るとサンズドゥターズという名のバーがある

まわりには山、渓谷や砂漠しかなくバス停すら無い所なのだがいつもそれなりにバイクや車で来る客がいる。

夜、マーク・フェローは大体そこで毎度同じカウンターの隅に座り、バーボンをストレートで注文している。


「チャーリーいつもの頼むよ」


この店に来る大体の客はマスターと呼ぶのだがマークだけはいつもチャーリーと呼び、その事が彼にとっては少し不快だった。


「なぁマーク、確かにお前はこの店の常連でもう何年も前から知っている。でもやっぱりチャーリーは

やめてくれよな」


「ああ…わかったよチャーリー」



マスターは呆れて肩をすくめた。


マークが1人で飲んでいると派手なネクタイを絞めたスーツ姿の男がゆっくりと駆け寄って来た。

短く刈り上げた金髪の髪をナチュラルな感じのオールバックにしていて体格も長身でガッシリとしているので凄く力強そうに見える


「なぁアンタもしかしてマークフェローかい」


「ああっそうだが」


「俺だよウォルターだよガキの頃オマエと喧嘩したのを憶えているかい?」


「すまないわからないな、美味いバーボンと1人の時間を楽しんでいるので邪魔しないでくれるかい」


「おおっそうかいならコレならどうだ?」


ウォルターと名乗る男は突然、マークのうでに噛み付いて来た。強く噛まれているわけではないけど、じんわりと広がる痛みに思わず顔が引き立った。

しかし頭の中のスイッチが自動的にオンになるかの様にマークの中にある彼の記憶がむくむくと覚醒し、昔の出来事を映画のワンシーンのように思い出した。


そうだ思い出した。あの時、オレが彼の首を右腕で後ろから締めようとしたら彼が噛みついて来たんだよ。確か12歳の頃だったかな?コイツはいつも子分を引き連れて毎日オレに嫌がらせをして来ていた喧嘩番長だよ


「お前、いつも悪さばっかりしていた奴だよな」


「おっどうやら思い出してくれたようだな」


懐かしくなって彼と小一時間程話しこんだ

現在彼は出版社に勤めているらしく妻と16歳の娘がいるのだがろくに口さえきいてくれないとか

ティーンエイジャーの娘なんてオレからすれば宇宙人だよ? 未知との遭遇だよ?


「そういえばマーク、キミはオレ達が住んでいたあの町へはアレから行ったのかい?」


「いいやお前の事を思い出すまですっかり忘れていたよ…えっと確か街の名前がセイグラムズロッドだったか?」



「そうだよ!ところでキミに1つ頼みたい事があるのだよ」


「何だよ一体?」


「オレはあそこへもう一度行って調べたい事が

あるんだが少し手伝ってくれないかな?

返事は今週末まででいいじっくり考えてくれないか」


「調べたい事??」


「実は最近、あそこの隣町で失踪事件が起こっているらしく調査して見ようかと思ってな」


ウォルターはウインクしながら親指と人さし指・中指をこすり合わせた。どうやらいくらかお金を払ってくれるそうだ。

ちょうど配管工の仕事をクビになり時間もあるので

考えてみてもいいかもな


とりあえず週末にまたここで会ってその時に返事することにし勘定を済ませて店を出るウォルターとパーキングへと向かう途中で突然、彼は足を止めた。


「なぁマークそういえば昔、いつもお前のそばにいたあの姉さんは今どうしているんだ。連絡とかは取っているのか?」


「一体誰の事だよそれ?」


「思い出せないか?多分近所の姉さんだと思うんだが、オレは彼女がお前と一緒にいる所を何度も見ているんだがな」



微かに覚えている。少年時代いつもオレのそばにいてくれた近所のお姉さん…


だが何故かシルエットだけで顔、声などは一切思い出せない


記憶の片隅にいる少女の事を————


昔のアルバムとかは実家に置いたままだったな、

もしかすると何か思い出せるかもしれないし久しぶりに帰ってみるか?

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