後日の話

「あれ?でも、あれは下山さんの妄想だったんじゃなかったですっけ?」

一昨年の契約書をアーカイブボックスにしまいながら、累女史は眼鏡の縁からちらりとこちらを見る。

僕が昨日初めてスポーツジムなるところへ行き、さっそく筋肉痛になった話をしたためだ。

「裕子さんとの運命的な出会いは、僕の妄想だけど、その前にネット申し込みはしてたんだよ。そうじゃなきゃ妄想にリアリティが湧かないだろう?」

「…はあ」

累さんは一瞬何かを言いかけて、結局溜息のように肯いた。

「しかし、スポーツジムと言うところは、おじいちゃんとおばあちゃんしかいないのかね。自称85歳のご老人が僕より重い重量でラットプルダウントレーニングしてたのにはたまげたよ」

「もともと運動不足の人は、自重トレーニングの方が良いって聞いたことありますけど」

「チッチッチ。アッチッチだよ累さん。僕みたいな独身高級取りはすぐ飲み屋に行っちゃうんだから。ジムに無駄金使うなんてなんのそのだよ」

「さすがですね下山さん。料亭でもクラブでもなく飲み屋ってところが下山さんらしくて素敵です」

累さんはアーカイブボックスを脇に抱え、

「お昼、どこのコンビニのサラダチキンがご希望です?」

鍵をちゃらりと鳴らす。

「あ、じゃあ、セブンで」

誰か僕のこの素直さを好いてくれる人はいないだろうか。

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モヒートを一杯 @c-obachan

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