第6話 目の前で恋に落ちた(凛side)
当日待ち合わせ場所は駅前の広場だった。道路を挟んだ向かいのファーストフード店で私は見張ることにした。
見張ってる間、何人か男性が私の後ろを通る時に、ちらちらと私の顔を覗き込んできた。自然を装って通り過ぎていくけど、あれ、本人にばれてないって思ってんのかな?分かるに決まってるでしょ。キモいって。ほんとにこういうの止めてよね。
こういう人じゃありませんようにって思ってたらママが私の目の前を通り過ぎた。
あっぶな。ママが鈍くてよかった。
そしたら駅の方からパパとその息子らしき人が出てきた。
ファーストフード店の窓辺からその様子を見ていたんだけど、ここちょっと遠いんだよね。でも、周りに自然に隠れるところもないし。漫画じゃあるまいし花壇の陰から見るなんてしたらすぐバレちゃうだろうし。仕方ないか。
「ほらこれが紹介していた岩橋彩さん、こっちが息子の…」と 勝手に涼介さんのセリフをアテレコしていたんだけれど、息子らしき人は、 目を見開いてぼーっとしていた。
私がいたカフェと三人の距離では話している内容は全く分からなかった。 だけどそれぐらいの距離でもばっちり分かることが一つだけあったの!
息子らしき彼が今、正に目の前の女性に恋に落ちたようだったのだ。 そう私のママに!
「 いやいやこれの方が大問題じゃない?」 と私は思わずそこそこの大きさの声で、 誰でもなく独り言を言っていた。
でも、その一方で「でも、それだったら私も安心だな」とも思えた。何だか私とママがその息子に勝ったような気がして、ちょっとワクワクしたりもしていた。
有紗にこんこと言ったら「ワクワクって何だ」って言われるね。なんて一人でクスクスと笑いながら私はその男の子のことをもっと知りたくなった。
まあ、ちょっと上の立ち位置から余裕を持って見てみたら、なんだかシュッとしてモテそうな人じゃない?綾〇剛みたいな感じ?
ママに恋したんだと思ったら急にその息子らしき人のことがかわいらしい男の子だなって親近感がわいた。歳上らしいのに、変だね。でもどうしてだろう。一緒に住むのも全然怖くなくなった気がする。うん、ありあり。
パパとママと男の子の三人でご飯を食べた後、男の子は二人と手を振って別れた。ママとパパはそのまま駅と反対の海側に消えていった。男の子はすぐ近くのカフェに入って行った。
私の顔合わせの時と違って時間も短くあっさりしてるなと思ったけど、男の子だからそんなものかもしれない。きっとそのままママとパパはデートを続けたのだろう。そっちもちょっとは気になるけど、今はこっちの男の子の方が気になると思って私は男の子が入ったカフェに入っていった。
予定ではその男の子の後ろか斜め前の席に陣取る予定だったのに、あいにく席は全部埋まってた。しかもカップルばっかり!そりゃ休日午後の駅前のオシャレなカフェなんてそんなものか。
席をうろうろしているのも恥ずかしかしいな。勝手だけど、こんな混んでるオシャレなカフェに一人で入る男の子にちょっと私は腹が立ってきた。
「何一人でこんなとこ入ってるの!」
と思いながら、でもどうしようもなくて、だからといって出て行くのもしゃくなので思い切って男の子の前の席に座ってみた。今思えばテンパってたのかな。
ママのこと好きになったんじゃないか確認したかったけど、最初からそんなこと聞けないので、まずは、
「こんにちは」とさりげなく挨拶したけど、びっくりしてた。そりゃそうか。自然なわけないか。
「何?何?誰!!」ってパニクってるからちょっと面白くなって
「さっき会ってた岩橋彩の娘の岩橋凛です。よろしくお願いしたします」とわざと必要以上にかしこまって挨拶した。
そしたら、私の顔をまじまじと見つめてきた。「え?初対面の女の子に失礼じゃない?」と思ったけど、男の子は中々のイケメンだった。
遠目からでもそう思ってたけど、近くから見るとさらにイケメンで、お父さんに似て切れ長の目にすっと通った鼻筋が特徴的だった。
イケメンに見つめられるのも悪くないななんて思いかけたけど、ちょっと恥ずかしくなってきた。
だからついつい、
「そんなに女の子の顔を見つめないでよ」とSっ気を出して言ってしまった。
これから家族になるかもしれないのにこりゃ印象悪いか。少し親しみもださなきゃね。
何か気の利いたことを言わないと。うーん、でも私男の子とって何話していいか分かんないんだよね。服や甘い物の話しても面白くないだろうし。どうしよう…。
「 若く見えるけど、ママ40は超えてるからね。 娘がこんなに大きいから想像はつくと思うけど」なんて、言っちゃった。ええー、どうして私こんなこと言っちゃったんだろ。最もダメなこと言っちゃったんじゃない?
男の子は目が点になってた。初対面の人にこんなこと言われりゃそりゃそうか。でも、さすがに好きになったでしょとは言わなかった。さすがにそれはデリカシーないよね。
それでも男の子は気分を悪くしたのか
「ばっかじゃねえの」って言った。
私とお兄ちゃんの出会いはこんな感じだった。もしからしたらお兄ちゃんからしたら少し感じが悪かったかもしれないね。
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